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よく分かったりすることができる?

はてなを浮かべる

よく分からないことについて考える

CyXYmTIVIAAkGoD

なにかを ふしぎだなあと思うと
閉じた手の隙間からひょこと顔を出す

よく分からないこと

あの人の言ってることの意味が分からなかった
なんで今自分がここにいるのか不思議に思う
昨日やったことは誰のためだったんだっけ

分かってた気がしたことも
簡単によく分からなくなったりする

何かを よく分かる ということはどういうことなんだろう
よく分かる と言える人は どうしてそれがよく分かったと判るんだろう

あの人はどうして自分のことを よく分かっていると思うのだろう
余白がこんなにあるのに

余白のことを想うと
ますます ますます世界がよく分からなくなる

こんなに複雑に 暗がりでもたれ合いながら編み込まれてきたのに
よく分かった という決着を なぜそんなにも早くつけなければならないのだろうか
時間がないから?

CyXYmTMVEAAO6ty

いそがしくて いそがしくて
なんでもすぐに 「よく分かって」しまう
分からなくていいのに

   
   
   
   
   
   
よく分かったりすることができる?
   
   
   
   

ものごとをよく分かったりすることが、自分にはとても恐ろしいのだと思う

わかばやしまりあ

わかばやしまりあ

描いたり食べたり生きたりしている

Reviewed by
さかいかさ

「師匠、なんだか、まともそうな街じゃないですか?」
「そうじゃの。なんかホッとするの」
トマト師匠と弟子のタイポがやってきたのは、なんだか普通の街。家も道も花も草も色もパッとしなくて目立たない。
「ひさしぶりにゆっくりできそうですね。あ、あそこに人がいますよ。ちょっと、声をかけてみましょう」
「じゃの、じゃの」
「すみ〜………」
「おぉ、どうも、どうも。うん、あぁ、あんたらよそから来たな。なるほど、ふむふむ、了解。ここはなんでも分かってしまう街『アンダスタウン』。ここで暮らす住人たちは、とびきり物分かりのいい人たちばかりだ。ちょっとのことで、なんでも分かってしまう。ふむふむ、なるほど、了解、了解。それじゃ、この街を楽しんでくれよ。ゆっくりできると良いな。では、失礼」

「師匠!なんです今の人。ボク、すみ…しか言ってませんよ。それなのに、いきなりしゃべり出しましたね。しかもこっちが聞きたいことわかってるみたいでした」
「そうじゃの、なんじゃろ」
「前に『ハート・ヴォイス・タウン』って心の声で話す街に行ったじゃないですか」
「あれは、ひどい目にあったの〜」
「あそこと似てません?なんか嫌な予感しかしないんですけど」
「どうじゃろ。でもあそことは、少し違うような気もするがの…。まぁ、大丈夫じゃろ」
「師匠、師匠」
「なんじゃ」
「この世で一番赤いのは、な〜んだ?」
「いきなりどうしたタイポ。そうじゃな、太陽かな」
「師匠!この世で一番赤いのは、トマト師匠でしょ。いっつも言ってるじゃないですか。ワシより赤いものをワシは見たことがないって。どうしたんですか、師匠。いつもの元気とキレが全然ないですよ」
「う〜ん、そうかの〜」
「ちょっと師匠、おでこに失礼しますよ」
「うむ〜」
「熱いっ!あっついですよ、師匠。茹でトマト、焼きトマト、トマトグラタンみたいに、ちんちんに熱いです」
「そうなのか、なんか、そうなのか」
「師匠、すぐ病院行きましょう!あっ、すみませ〜ん、そこの人〜、ここらへん…」
「ああ、病院ならそこの角を曲がったところだ。すぐ行きな」
「分かるなぁ〜」

◆◆◆◆◆◆◆◆

病院の受付の女性は、トマト師匠の顔を見るなりすぐに診察室に通してくれた。
「先生、急患です」
医師はトマト師匠の顔を見るなり病名を告げた。
「これは星患いですな。また変わった病をもらいましたな。あなた、星に口をつけましたね」
「師匠どうです?星とチューしたんですか?」
「確かにワシ、星とチューしたぞ。昨日の夜に空見てたら、ちっさな星が落ちてきて、ワシの口にくっついて消えたんじゃ」
「師匠、なんだかロマンチックですね。いいなぁ〜師匠ばっかり」
「とりあえず、あなたは入院ですね。星患いは、たっぷり寝て、たっぷり星の夢を見ないと治らない。今晩ぐっすり眠り通せば自然と治るでしょう。小さな星で幸いしましたね。これが大きな星となると、一生かけて星の夢を見続けないといけないこともあるんですから」
「先生、ボクは…」
「あなたはホテルに泊まってください。すぐそこに安いわりに居心地のいいホテルがあります。うん?はい、分かりました。すでに予約したそうです」
「分かるなぁ〜」

◆◆◆◆◆◆◆◆

トマト師匠は入院することになり、弟子のタイポは1人になった。今までずっと師匠と一緒だったから、心配する気持ちもあるけれど、なんだかウキウキする気持ちも反対側にありそうだ。
「さぁ、どうしようかな。とりあえず少し街をブラブラしてみようかな」
服屋の前を通ると店主がタイポに声をかけてきた。
「あなた、ふむ、ふむ、分かる、分かる。了解しました」
店主は店の中から、いかにも上品なソーダ色のジャケットを持ってきた。
「あなたにはこのジャケットがお似合いですね。どうぞ、袖を通してください」
「うわ〜、なんて素敵なジャケット。まるでボクのためのジャケットのようです」
「そうでしょう。そうでしょう」
タイポは自分にぴったりのジャケットを着て、心がピカピカになった。なんだかみんなに見て欲しい気持ちだ。
「素敵なお召し物」「まぁ〜よくお似合い」「素敵な色ですね」
街の人たちは、タイポを見て口々にほめた。タイポが言われたいことを、みんなすぐに分かった。
次に靴屋の前を通ると店主がタイポに声をかけてきた。
「あなた、素敵なジャケットを着ておられる」
「わかりますか。これはボクのためのジャケットなんですよ」
「でも、ふむ、ふむ、なるほど。分かりました。了解です」
店主は店の中から、靴底の長〜い靴を持ってきた。
「あなたにはこの靴が必要ですね。どうぞはいてください」
「ボクにはこんな靴底の長い歩きにくそうな靴は必要ありませんよ」
「いや、だってあなた、せっかく素敵なジャケットを着ているのに、どうも足が短い」
「ボク、足が短いんですか」
「あなた、分からないんですか。私には分かりますね。あなたはジャケットに対して足がだいぶ足りません」
「そうか、ボクって足が短いんだ」
タイポは靴底の長い靴をはいて、とても歩きにくいことになってしまった。
「あら、すごくバランスがいいこと」「素敵なスタイルですね」
街の人たちはタイポをほめてくれるが、タイポは自分の足が短いことをはじめて知ってしまい、ガッカリしていた。
「そこの人、とても歩きにくそうじゃないですか」
「そうなんですよ。この靴がね。とっても歩きにくいんですよ」
声をかけてきたのは、自転車屋の店主だった。
「分かります。それじゃ歩きにくいでしょ。ふむ、ふむ、なるほど。分かりました。了解です」
店主は店の中から、ソーダ色の自転車を持ってきた。
「歩きにくいあなたには、この自転車が最適ですね。これで歩かなくてすむ」
「いや、でも、この靴を替えた方が…」
「いやいや、私には分かります。靴を替えたらバランスが悪くなってしまいますよ。その靴でバランスを整えないといけません」
結局、タイポは自転車を買わなかった。ただ街をブラブラしたいだけなのに、自転車はちょっとした大荷物だ。それに今はブラブラもできない。歩きにくい靴のせいで、ふらふら、ひょこひょこ、ノロノロとすごく疲れる。街の人たちは歩きにくそうなタイポに声をかけてくれるが、誰も靴を替えろと言ってくれない。
「あらあら、歩きにくそうね。ふむ、ふむ、分かりますよ。では、そこのベンチでお休みなさい」
「なるほど、そうか、了解しました。この杖を使いなさい。そうすれば歩きやすくなる」
「分かります。最初は歩きにくくても、そのうち慣れてくるから、安心なさい」

◆◆◆◆◆◆◆◆

その頃、トマト師匠は星の夢の中にいた。
それは閃光と輝きに満ちた美しい夢だった。いくつもの光を浴び、いつくもの瞬きの中を自由に飛び回るような。
視界目一杯に広がる宇宙と星の中で、トマト師匠はひとつのほうき星となって、いくつもの時間と歴史を飛び越えていった。

◆◆◆◆◆◆◆◆

次の日。
星の夢をたっぷり満喫して、トマト師匠はすっかり元気になった。医師にお礼を言い、病院から外に出ると弟子のタイポが待っていた。
ソーダ色の上品なジャケットを着て杖を持った、昨日とは別人のようなタイポがそこにいた。なんだか背も伸びたようだ。よく見ると歩きにくそうな靴底の長い靴をはいている。
「師匠、トマト師匠!大丈夫ですか」
「おお、もうすっかり元気モリモリじゃ。心配かけたな」
「良かった。本当、良かった」
「ところで、やけに品のいい格好をしておるな」
「これですか、まぁ、そうですね」
「ワシが寝てる間に、さぞ楽しんだようじゃの」
「そう見えます?」
「なんじゃ、違うのか。師匠がいないから、ハメを外したんじゃろ、こいつめ」
「いや、まぁ、そうですね」
「よし、元気にもなったし、さっそく出発じゃ」
「はい、師匠」
ところが、歩きにくい靴をはいたタイポは、トマト師匠の歩くペースに全然ついていけない。ふらふら、ひょこひょこ、遅れるばかり。
「タイポよ、さっきから気になっていたんだが、その靴、ちと歩きにくいんじゃないか」
「そうですね。でもこれはいてないと、どうもバランスが悪いようで」
「バランス?」
「はい、師匠。ちょっとボクは足が短いみたいで、この靴をはけばバランスが良くなるんですよ」
「タイポよ、ちょっといいか」
「はい、師匠」
「タイポの足が短いのは、ワシも知っとる。というかワシの足も負けじと短い。じゃろ?」
「はい、師匠の足もボクと同じぐらい短いです」
「タイポよ、そんな靴は、すぐ脱げ」
「でも、バランスが…」
「タイポ!足が短いのがタイポのバランスじゃ」
「はい、師匠!すぐ脱ぎます」
「そうじゃ、脱げ」
「師匠、ちょっとボク走ります」
そうしてタイポは裸足で走り出した。こころの中で「師匠、分かるなぁ〜」とつぶやきながら。
「おいおい、タイポ待つんじゃ、ワシを置いてくな」
トマト師匠はタイポが脱ぎ捨てた靴底の長い靴に足を突っ込んだ。
(これでワシ、足が長くなってモテモテになったらどうしよう。ししし)
「待て、待て、タイポや〜い」
師匠も走り出した。すいすい、すいすい走り出した。師匠、走るのうまいなぁ。昔、絶対はいてたでしょ、シークレットブーツ。
街の人たちが、うんうん、分かる分かると、うなずく。
はいてた。はいてた。

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