アパートメントな愛

第1期(2012年2月-3月)

僕が今リアルに住んでいるところも、まさにアパートメントだ。
不動産屋がいくら「マンション」であると言い張ろうと、どう見ても日本で一般的に言われているところの、いわゆる「アパート」。4年前に教職を辞したのを機に、それまでよりもコンパクトに暮らそうと思って移り住んできた。リフォームされてちょいと小洒落た変形洋室ワンルームになっているけれど、和室に襖の2Kだった頃の面影は隠しようがない。地震のときの軋み方なんて、まさに「アパート」。

思えば、この歳になるまで一戸建ての家には住んだことがないのであった。アパート、公営の団地、マンションと巡って、今またアパート。

公営の団地というのは意外としっかりとした造りになっているもので、ちなみに以前僕が住んでいたところでは窓を閉め切ってしまえば隣の物音など全くきこえなかった。
僕は大学での専攻がラッパの類いだったのだけど、家でかなりラウドに吹いていても近隣から苦情がきたことは一度もなかった。どんな人たちがいるのかはわかっているはずなのに、ドアの向こうに行かれてしまうと、もうその人はいなくなってしまったような感じ。

それに較べると今の「アパート」は、はっきりと人が生活している気配に囲まれているのを感じる。
僕の住むフロアは全部で3室。
西側の隣には若い女性が住んでいる。小柄だがわりと美人だ。
毎日出掛けていく時間が違うので、学生さんか、アルバイトか。いや看護師さんとかかも。
お年頃のレディなので、何日か続けて帰ってこないこともある。数人の友だちが停まっていくこともある。アパートの前に黒いVOLVOが停まっている日の深夜にはだいたいエッチな声がきこえてくる(前の彼氏のときはきこえなかったのに)。
東側の隣には老婆が住んでいる。おそらく90近いと思う。
2年ほど前に越してきてからしばらくの間は、ときどき息子さん家族と思しき人たちが訪ねてきていたが、最近では日に1回福祉関係の人が様子を見にくるだけ。
日に2回は掃除機をかけてる音がする。足が悪く、ワンフロアの上り下りに2分くらいかかる。それでも自力で駅前のスーパーに買い物に行っている。夕方になるといつも料理のいい匂いがする。

気配を感じられるから、気にもなる。2週間続けて黒いVOLVOが来なければ、あら?別れちゃったのかしらと思うし、東隣からなんの物音もしなかったらばあちゃん大丈夫かなと心配になる。
僕が両隣のそういう気配を感じているということは、当然お隣さんも僕の気配を感じているということ。あまり掃除しないのね、とか、洗濯は一週間分まとめてするのね、とか、しばらく練習しなかったからギター下手になったわね、とか、そのくらいのことは思ってるかもしれない。最近ずっと帰りが遅いのをもしかしたら心配してくれてるかもしれない。

にもかかわらず、我々は基本的にはアカの他人だ。たまたま顔を合わせれば挨拶くらいはするが、普段のそれぞれの生活の中で互いのそれが交差することはない。干渉もしない。部屋の外での彼女たちの生活は全く知らない。下の名前も、実は知らない。
でもやっぱりいつもどこかで気にしている。部屋にいるときに地震が来ると、両親のことより先に隣のばあちゃんのことが心配になる。実際に揺れの大きさがヤバいほどであれば、僕は躊躇なく助けに行くと思う(3.11のときは残念ながら僕は部屋にいなかったけど)。
責任感からではなく、たぶん愛。
「おと な り」という映画(知ってます?)の岡田くんと麻生さんの如くの、顔知らぬ隣人の気配にあれほど強く影響されてしまうわけでは決してなく、でも本来分たれた個と個の、何かしらの共通点を持たされたゆえに生じる、表面的には現れずとも奥の方で繋がってしまうような感覚。

僕はこういう感じが嫌いではなくて、だからこのapartmentでの僕の居方もそういう感じがいいなと思っている。
当番日誌が一回りして、同期の住人さんたちはそうとうに魅力的な人たちだという気配を感じている。感じられるから、やっぱり気になっちゃう。とても。
けれど強い影響は受けないように、干渉しないように、こっそりと気にしていようと思う。性に合った居方でないとしんどくなってしまうから。
それでも隣人たちへの愛はすでに始まってしまっているのでありまするけれどね。

今回は自分の部屋で撮った写真でも、と思って探していたら、コレが出てきた。

room

今はなきカメラ棚(カメラはほとんどスタジオの方に持ってきてしまって、現在は物置棚になっている)を蛇腹式の旧いポラロイドカメラで撮って、引き剥がし式のフィルムのネガ面の方をアートペーパーに押しつけたもの。
乱雑でとても人さまにお見せできるような部屋ではないのだが、いい具合に七難隠してくれてる。

ちょっと宣伝をば。
apaetmentの管理人の佳央理さんと用務員(?)の良太くんが、明後日11日(土)から写真の二人展をします。
詳しくは写真展特設サイトか、ギャラリーのサイトにてご確認ください。
あのヒトたち、あまり宣伝してないけれど、本当によい写真たちなので、たくさんの方々に見ていただきたいです。