趣味のわるい青

第4期(2012年8月-9月)

 
 
「じゃあ一言だけ」と遠慮がちに言ったババアが、
さっきから永遠と全校生徒の前で、なんだかわけのわからない話をしている。
蝉のミーンミーンの方が、まだ言いたいことまとまっている気がするよ。
 
 
夏の朝、校庭。
私は何時間か前まで一緒に居たあの人のことばかり考えていて、
まばたきするのも忘れてしまうくらいに忙しい。

朝方、あの人を残して
一人こっそり家に帰って着替えをして
高校生の姿になって学校へ向かう。
なんだかヒロインになったみたいな気分です。

今日は意味なくて
火曜日は意味なくて
水曜日は意味なくて
木曜日は意味なくて
金曜日は意味なくて
土曜日は意味なくて
日曜日はヒロインみたいな気分です。
 
 
あの人が聞かせてくれる、学生だった頃の思い出話はどれも楽しくてキラキラしていて、
私とは大違いだといつも思う。
それでも、あの人は私の高校生活をかけがえのない時間だと言う。
それに気づくのには時間がかかるとも言う。

あの人はそういう安っぽいことを平気なふうに言うんです。
あの人の安っぽい話が私は好きだ。
特に文句を言えることなんて何もなくて、
着ていた趣味の悪い爽やかな青いシャツをバカにするのがやっとでした。
 
 
ババアはまだ話し続けている。
口の臭いまで、この暑い空気に混じり合うようだ。

あのババアと私の性別が同じだと、
急にそんなことを思って不安になった。
私もあんなふうになるのだろうかと、余計なことを考え始めてしまった。

あの人といつまでも一緒に居られると思える程バカじゃない。
でも安っぽい話はいつまでも聞いていたいんです。
 
 
いまの私のこの気持ちを

どうしても言葉にして叫びたくて、

目をぎゅっとつむって

口を大きくひらいて

それをしたあとなのに、言葉が何も浮かんでこないんです

なんなんですかこれは
 
 
 
うしろ向きなからっぽだ

真後ろ向きだ
 
 
 
だから私は、

ただ叫んだ

それはもしかしたら周りの人には

「あー!」に、聞こえたかもしれない

でもわたしは

あーとは言っていない。

ただ叫んだだけなんだよ。
 
 
近くにいる男子が
またあいつ狂ったとかそーゆー事を言っている

近くにいる女子が
気味が悪いとかそーゆー事を言っている
 
 
あ。

違う近くになんて誰もいないじゃんバカだなそこを間違えてはいけないのにな。

校庭に敷き詰められた生徒たちの中で、私の近くにいる人なんていないじゃないか。

あの人にそういう話をすると、マシュマロ噛みしめるみたいな顔するから好きだ。

君にはまだまだ素敵なことがいっぱい待っているよとか言うけどさ、
 
 
 
 
未来なんて、みんなキミのおさがりみたいなものだ。
(キミなんて呼んだことないけどさ)
 
 
 
 
目をあけると、

生徒指導の先生が私の方へ歩いてくるのが見えた。

私は綺麗な空気を吸うために上をむいた。

そしたら空が青くて

あの人の趣味の悪いシャツを思い出した。
 
 
 
もうすぐ夏休みが始まる