春を迎える

第7期(2013年2月-3月)

7日前
お天気がよくて暖かい一日だった。上着は必要なかった。薔薇の花を一本もらう。とても赤い。

6日前
午後10時からのニュース。中国の黄砂について。以前は草や花があったところが砂漠になった。砂漠は年々増えているとか。人にできること。樹を植えること。何年、何十年、何百年かかるかわからないことを人はやっていく。
下北沢の開かずの踏切。電車は地下に潜り、1時間近く待たされた踏切はなくなった。その1時間で狂ってしまうものがあって、仕事の予定とか、恋のゆくえとか、人の生き死に。
たった1時間で。すべてを懸けることができる1時間で。

今日はツイートに現代詩手帖のことと、母の菜箸というエッセイを読んで、いただいた感想のお返事を書いた。どちらもツイートをたどって来た話。ツイッターがないとき、春なんだけどまだ浅い草の匂いがする場所にいたと思う。その草の言葉では、今、話せないのだなと思う。言葉は植物に浸透して、忘れた頃にほっ、と伸びることもある。

5日前
朝から曇っている空は薄い灰色で、それでも月曜日のトンネルを抜けていく。高い建物はないけれど、国道は両側に会館や病院、ガソリンスタンド、民家や交差点がある。新しくできた交差点は広い。ひっきりなしに車が通る。すぐそばの山の中腹が淡いピンク色に染まっている。山桜かなと思いながら車を走らせる。今日は本が届いた。赤い絵の表紙の本と青い背景の表紙の本。偶然に2冊一緒に届く。偶然の確率みたいな題の本を見たことがあって、いろいろな本があるんだなと思う。

4日前
言いかけてやめることがある。話しかけた相手が、こちらが思っていたことを言うとき。また、誰かがそのことを言ったとき。全く同じことではないにしても、同じような心持ちで。多少の違いはあっても、似たような発音で。
何かを言おうとするとき、こころがざわめく。言ったことが取り返しのつかないことになりはしないか。相手を傷つけやしないか。咄嗟に、喉まで出かけた思考回路の出口をすっぽかして、また一周回っている。回っているあいだに気持ちが落ち着くこともあるし、それでも収まらなくて結局相手を傷つけたり、取り返しのつかない一歩に踏み込んでしまうこともある。何がよかったかはわからない。何が悪かったかはなんとなくわかる。なんとなくわかるので、できればそうしないように気をつけようと思う。

書き出しに使わなかった言葉がある。それは、よいわるいではないかもしれないが、自分を考えたときにそぐわないような感触を持っているもので、そういうとき、はっきりとはわからないけど、なんとなくだめだと思う。

言いかけたこと。誰にもそんな間合いがあって、たぶん、その人にとって大事な言葉なんだろう。言いかけて、でも、言葉にならなくて。どうかすると全然違うようなことを言ってしまうかもしれない。ひとつの言葉に怒ったり悲しんだり、人はいろんな感情を持つだろう。人だから、言わなくていいことも言い、言いたいことが言えなかったりする。それらを全部受け取ることはできないし、持っているいろんな大きさのボウルに入れて、かき混ぜてみるとか、冷蔵庫に冷やしてみるとか。何年かが経ったとき、それらはどうなっているかな。
それが見たいな。見られたらいいな。なんとなく。

書き出しに使わなかった言葉はこれから先のどこかで私を待ってる。なんとなく。
なんとなくだけど、そう思っている。

3日前

雨です。こんなふうに自分のことを書くのははじめてではないけれど、実際の生活で自分のことをあまり話さないので、ネット上のほうがおしゃべりなのかなと思います。見てわかる、様子でわかる、ということが生活にはあると思う。だから、全部を話さなくてもいいのかもしれません。文章にしても、書いたこと、書かなかったことも、勝手に想像してしまうから、そう違わないのかも、と思います。ネットがそれだけ身近になったのですね。

雨です。一日に起こる出来事ってたくさんある。同じような毎日っていうのは、同じような時間で区切らた枠に沿っているからで、毎日の出来事のなかには新しいものや続きのものや終わってしまうものや、いろいろある。今日もきのうと同じような一日のなかで、たくさんの出来事が起こり、言葉を受け止め、言葉を発し、思ったり考えたりばからしくなったり嫌になったり。思うことは、自分の思いを守ること。例えばうまくいかない日々でも、多少の譲歩が必要な時でも、揺れる自分でいて、思いを秘めること。がちがちに守ったり沈黙に化したりしないようにこうやって文章にしているのかもしれない。

雨です。

2日前
晴れ。きのう、冬服だったにも関わらず、夕暮れの頃にはとても寒く上着を羽織った。今日はそれほどではないものの、思い切って上着を脱ごうという気にはなれなかった。3月28日、木曜日。洗濯物を畳みながらふわふわの質感を触り、それらを仕舞うと同時に春物を出しておくことにする。何枚か出してみると、軽さと色に誘われてしまった。明日は少し薄めの上着を持とう。

1日前
並んで植えられている桜の花が咲き始めた。近づいていく。小さな花びらがたくさん集まって白い空間を埋めている。幹から枝分かれし、枝からさらに細い枝にも花が咲く。視界のほとんどが桜になると、忘れかけていた記憶が戻ってくる。去年の春に桜を見たとき、何を思っていただろう。過去が人を苦しめるためにあるのではないように。今年の春にも桜は咲く。

0日前
アパートメントに暮らしたあいだに、季節は春になりました。この日が来ることをどこか遠い空の下のように思っていたけれど、実際にここに座っていると空は頭の上にありました。晴れた日も雨の日も曇った日も、ここにあったのです。
ここにあるものを見つけながら、これからも暮らしていこうと思っています。
2ヶ月のあいだ、ほんとうにありがとうございました。