終章 「そこもとに落ちた真理は必ずすくい上げられる」

第20期(2015年4月-5月)

男が泉に触れると、
彼は透明となり、自らの形を失くしつつあった。

まもなく男は断片として、自らに帰すのであった。

瓦礫の町の心たる彼は、失ったものを探すことをやめ、
人々の輪郭へ、鏡の中へ、戻ろうとしていた。

「男よ、おまえは象そのものだ。
失うことで自らを得る。
そうして得たものは失うことがない。」

どこからか声がした。

風がざっと男をさらっていった。

男はもうそこにはいなかった。

彼のほほえみだけが、
泉のほとりに残っているようだった。

こうして、人々の心の幽脱による男の旅は終わった。
男の断片は世界にあり、また男は今も反復している。
しかし、瓦礫と象の目を失くした男の物語は、
ひとまずここで終わりとする。

男はあの街の、
瓦礫によって失われた心が
すべて光をもって歩みだすまで、
世界に片鱗として、残り続けるであろう。