書こうと思って書く。それはとても難しいことだ。

第31期(2017年2月-3月)

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“世界中のすべての時計を二秒ずつ早めなさい。誰にも気付かれないように。 ー オノ・ヨーコ”

鹿児島でよく訪れる食堂の扉に、いつからか書かれていた言葉だ。
誰の言葉なのだろうかと気になってはいたけれど、誰に聞く訳でもなくしばらく時間が経った。

今回、アパートメントに寄稿するにあたって、何を書くべきかとても悩んでいた。
名古屋から鹿児島へ向かう車中で、あれこれ考えたりもしたがてんで決まらず、書き始めても途中で筆が止まってしまう。
生業としているデザインでも、こういう瞬間にはたびたび遭遇する。
その度に、いつもと違うことをしてみたり、場所を変えてみたり、全く別のことをしてみたり、試行錯誤するものだ。

部屋で書き始めても進まないので、場所を変えてみることにした。
鹿児島で行きつけのコーヒースタンド、奥に最近(と言っても半年以上前だが)本屋が出来た。
文章に添える写真を選んでいると、何だかこの言葉が気になり調べてみた。
オノ・ヨーコの言葉だった。「グレープ・フルーツ」という本の一節らしい。

もしやと思い奥の本屋を歩くと、平積みされているそれを見つけた。
コーヒーを飲みながらページをめくり、言葉に添えられた写真を見ながらあっという間に読み終えた。

こんなにもギリギリまで筆が進まなかったのは、きっとこういうことなのだ。
この偶然の出会いを文章にしなさい、と言われてるような気がした。

他にも気付かされる言葉はあって紹介したいのも山山だが、実際に本を手に取って読むのが一番だろう。
文字のサイズ、字間、行間、余白、そういったものも含めて感じてほしい。

世界中の時計を二秒ずつ早めたら、みんなが二秒だけ未来に近づくことができる。
でも、そのことは誰も気付かない。だって、誰にも気付かれないように早めたのだから。
早めた本人だけが、未来に近づけるのか。それは、未来に近づいたことになるのか。
早められた世界では、それが”今”だ。

なぜだか、カウンターの向こう側で笑う、悪戯っぽい店主の顔が思い起こされた。


登場するお店:
旅と食堂kiki
コーヒーイノベート