プロポーズと内省(2月12日から1週間のこと)

第37期(2018年2月-3月)

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2月12日(月)

朝起きて「お腹空いた」と呟くと、恋人さんが起き出してカルボナーラを作ってくれた。恋人さんはイタリアンレストランで少しだけバイトをしたことがあったことや、カルボナーラづくりにハマって、365日中347日くらいカルボナーラをつくった時期があったので、恋人さんがつくるカルボナーラは天才的においしい。昨日の夜から泊まっていたお母さんと一緒にカルボナーラをすする。瓶のケースの半分くらい使った粉チーズがまとわりついて唇がツヤツヤになった。

恋人さんと一緒にお母さんを見送って、原稿をやる。最近は原稿が全然手につかないけれど今週から盛り返すんだ、と強く思っているが、思っているだけで終わるかもしれない。菓子盆に置いたお菓子の減りだけが早い。

恋人さんが夕方から撮影で出かけていったころ、近くに住んでいるお友達から「今日飲もうよ」とメッセージが届いた。わたしがだるそうにしていることもあるけれど、最近は誰からもめっきり誘われなくなってしまったし、そうでなくともこのお友達からのお誘いはうれしい。ひょんなことから知り合って3年、大事なポイント、ポイントで苦楽を分かち合ってきた仲だ(と、少なくともわたしは思っている)。

お友達は「今夜はバミろう」と誘ってきた。「バミる」というのは、「バーミヤンで飲む」という意味で、前々からバーミヤンで飲もうと言っていた念願が叶った形だ。22時にバーミヤンに集合だったけれど、遠くから来ることになっていたお友達は少し遅刻するみたいだ。わたしは先に100円の紹興酒を注文する。紹興酒はゴクゴク飲むようなお酒ではないので、1~2杯で十分だし、なんてコスパがいいんだろう。早速、バミ、最高。

お友達が到着してメニューを開き、迷わず紹興酒を選んだので「だよね~」と興奮してしまう。お腹はいっぱいだけどアテを頼もうと言って、ネギがたくさん乗ったものと、おつまみ3種盛りを頼む。2皿で500円。うれしすぎると頭が悪い言葉づかいになるみたいだ。バミ最高すぎる。

「いつぶりに会うんだっけ」とお友達と話していて、3カ月以上会っていないことに気が付いてギョっとして、悪いことをしているわけではないのだけど、思わず「ごめん」と言った。時々思い出しては、常に頭の中に住んでいるような人ほど会えなくても平気なので、気をつけないと生身のその人に会うことをうっかり忘れてしまいがちだ。

会わないでいた期間のことを思い返してみたけれど、恋人さんに会うまでの時期で共有すべき話の中にあまり楽しい話はなくて、わたしもお友達もひたすらに「疲れた、もう嫌だ~」と言っていた。何が「疲れた、もう嫌だ~」なのかわかっていなかったのだけど、話していくうちに結婚することを外に説明することとか、外に説明する手前“うまく”やらなきゃということとか、だけど別にわたしとしてはもちろんうまくやっていきたいけれど、うまくいかなかったからと言って、一貫の終わりみたいになるような結婚をしたつもりはないんだ、というようなことを言った。

すると、お友達は「結婚と離婚を7回繰り返したら、新しい紙に記録されるから、つまり全部白紙になるらしいわよ」と言って、豪快に笑った。それを聞いてわたしもすっかり肩の力が抜けて、お皿にモリモリのネギに箸をつけて、紹興酒をカッと飲んだ。わたしはこの人が本当に大好きだなぁ。

閉店の時間が近づくと、お友達は「彼氏に会いたいから少しだけ家にお邪魔させて~」と言って、店を出て家まで来てくれた。

家に帰っても恋人さんはまだ帰ってきていなくて、結局0時半過ぎにタクシーに乗って、機材をスーツケースにつめつめにして帰ってきた。突然の宴が始まって、疲れているのに悪かったかな、と少し思ったけれど、ニコニコして、本当に楽しそうにしてくれていて、ホッとした。

帰り際、お友達は「彼、ものすごく優しいけど、明るいだけでもなくて、ののかには合ってるのかもね」というようなことを言って、タクシーに乗って帰って行った。お友達に恋人さんを紹介するたびに、ものすごく緊張して、ものすごくホッとする。すぐにのぼせてしまうからやったことがないんだけど、サウナと水風呂を行ったり来たりする交互浴ってこんな感じなのかなと思った。

2月13日(火)

お昼から業務委託先の会議に出る。今回持って行った渾身のエロ企画はよかったみたいで、会議に出ていたほぼ全員が「そのシチュエーション、よくわかんないけどすごくいいなぁ」と言ってくれた。

わたしは高校時代の剣道部でも、新卒で入った会社の同期の中でも紅一点で、男の人だけで話すような話をよく聞いていたから、男の人がどんなものが好きかというのは他の女の子よりもよくわかっていると思う。それでも一応、「わたしは女の子だ!」という意識がとても強くて、女の子が見て不快に思うようなものはつくりたくないと思うから、男の子のファンタジーから女の子が不快に思うような部分を差し引いて、バカバカしさで中和させたシチュエーションの動画を提案した。企画は通って、あとはもう少し世界観をつくりこんだり、予算面でも工夫をしたりするように言われた。わたしは、良い動画をつくるぞ~、と思って、手をグーにして鼻息を荒くした。

わたしはわたしの頭の中にある物語を形にできれば、小説じゃなくたってエッセイじゃなくたっていいのかもしれないと思う。でも、そこには「物語」というベースはあるから、作家の仕事のジャンルに入ると思うのだけど、作家というのは著作がないと名乗っちゃダメそうだし、著作があっても作家を名乗って怒られることもある世の中なので、なんだかなぁと思うし、わたしは作家じゃないんだなぁと思うと、身体が少しだけ小さくなるみたいな気持ちがした。

会議を終えて、編集者さんとおしゃべりをするためにお茶の水の出版社へ。1月30日のイベントに来てくれた編集者さんで、私の作品を読んで会いに来てくれた人だった。

昔、わたしの作品をベタ褒めしてくれていた担当編集者に「アイキャッチを撮影するから」と写真スタジオに呼び出されたら密室に2人きりで、卑猥な言葉を浴びせられたり身体を少し触られたりしながら撮影をされて、具合が悪くなって連載を自分から降り、「このクソバカ変態野郎! いつか絶対に殺すぞ!」と思ったことがあって以来、作品を褒めてもらってもすぐにうれしい気持ちにならないようにしていた。……のだけど、作品を読んで褒めてもらえるのはやっぱりうれしい。いい人だといいな。

お腹が空いて、お茶の水駅を出てすぐの立ち食い蕎麦屋さんに入る。入ってみたら、立ち食い蕎麦屋なのに椅子があった。「俺、性格悪いから」と言っておきながら、人一倍優しいヤンキーみたいだ。わたしはそれだけで、何だかこの蕎麦屋のことが好きになってしまった。

蕎麦は冷たいのに限ると思っているので、冷たい蕎麦で1番安い「ざるそば」にした。330円。飲みに行くだとかしっかりしたレストランでご飯を食べるのも好きだけど、こういう小さい贅沢は悪いことをしている気持ちにならなくていい。330円をきっかり券売機に入れて、カウンターに持って行った。

ざるそばが来て、薬味とわさびをドカッと入れて食べていると、後から来たお客さんに「お釣り忘れてますよ」と400円手渡された。ちょうどを払ったはずなので、「わたしのじゃないです」と言ったら、「でも僕のでもないので」と言われて、ありがたく受け取った。無料どころか70円をもらってざるそばを食べてしまった。右鼻から鼻血が出た。興奮したのかもしれない。

そのあとは出版社にお邪魔しておしゃべりをした。作品について、どうして書き始めたのかとかそういうことを延々喋らせてもらって、興奮して止まらなくなってしまった。編集者さんは私の話をうんうん頷いて聞いてくれた。

そういえば、2年くらい前に知人の紹介で写真をやっている男の子と“お見合い”をしたときも最初は緊張して黙っていたのに、作品の話になった途端に話が止まらなくなってドン引きされたことがある。だから、結婚するなら、作品の話を延々し合っても面白がってくれる人がいいなと思っていた。恋人さんはそういえばそういう人だなと思った。

次の作品(と言ってもどこにも出すあてもないのだけど……)の構想を話したら、編集者さんは、読んでほしい本があります、と言って、窪美澄さんの『ふがいない僕は空を見た』を勧めてくれて、贈ってくれる約束をしてくれた。「秀作ができたら、よかったら見せてください」とも言ってくれた。お世辞かもしれなかった。でも、公開前に見てくれる人が増えることは心強いし、わたしはたぶん、いつもより心臓の音を小刻みに震わせながらお辞儀をして外に出た。

2月14日(水)

朝早く、親友の真崎が来た。親友の真崎というのは大阪在住のライター仲間で、ライターも駆け出しのときからわたしと一緒に“戦って”くれている戦友である。仕事が乗らなくて泣きそうになっているときはどちらかが作業を巻き取り、誰かに攻撃されたら加担して応戦し、男の子関係でうまくいかないと一緒にお酒を飲んで、何もなくても一緒にお酒を飲んだ。

そんな真崎は大阪から夜行バスで東京に来て、今日から1週間東京にいるらしい。朝ごはんを作って一緒に食べて、ちょっとだけ仮眠をとるね、と言って、真崎は床のうえで寝てしまった。動物みたいでいいなーと思った。

今日は恋人さんのお母さんと東京で会う。泊まっている先が築地だということと、いろいろ考えて銀座で会ってもらうことにした。恋人さんにはわたしのお友達とか親とかにじゃんじゃん会ってもらっているのに、いざ恋人さんのお母さんに会うとなると緊張する。

普段着るのは、真っ赤!とか、派手派手な服ばかりなので、タンスの奥にくしゃくしゃに丸まっていた黒いシャツワンピにアイロンをかけて着てみる。「どう?」とポーズをとってみせると、恋人さんは「モテそうな感じでかわいい」と言った。

結婚したらモテるっていうけど、あの話ってほんとうなのかなぁ。結婚してもモテるだけなら問題ない。結婚して恋人さんと楽しい生活をしながら、モテモテになるぞ!

仮眠をとった真崎は出かけていって、わたしは夕方からビジネス系の記事の取材で、霞が関に。行ってみたら、編集者さんもカメラマンさんも、馴染みのメンバーでホッとする。

カメラマンの男の子が婚約おめでとうございます、と言ってくれる。アパートメントの連載を読んでくれているらしい。仕事の人のプライベートを垣間見られるなんて新鮮です、とも言ってくれたけれど、確かに。そういえばみんなのプライベート、あんまりよく知らないな。

話の流れで、「実は今日、相手のお母さんに会うんですよね」と言ったら、取材どころじゃないですね、と編集者さんが言って、みんなで笑った。駆け出し当初からお世話になっている方々とのお仕事は家族ぐるみみたいな感じがしてホッとする。

ライターとしてガッツリ仕事をさせてもらっていたときを思うと、お仕事はかなり減ったし、みんな独立していってしまって、ほとんど会わなくなってしまった人も多くて寂しい。かといって、会社に入る気なんてさらさらなくて(あってもどうせ働けないし)、家族のようなものが欲しくなるときに結婚は手っ取り早い方法ではある。一般的には、異性と、恋愛の延長線上に、とか決まりごとのようなものが多くて種類が少ないのが問題なんだけど。

インタビュイーの方はお話に慣れている方だったようで、お話を聞き入っているうち、あっという間に終わってしまった。これで原稿を書いてお金をもらえるのだ。相性が悪いと割に合わない、というか大変だなと感じることもたまにあるけど、わたしにとってこれ以上いいお仕事なんてないとも思う。

恋人さんのお母さんとの夕食までの間、時間が余ったので、銀座をプラプラして歩く。昔、「アメリカン」という名前の喫茶店が出す、とんでもない大きさのサンドイッチがおいしかったなと思い返しながら、歩いていて、ふとお母さんにお手紙を書こうと思い立った。

松屋銀座とかそういう百貨店を1階から8階まで見て回ったけど、便箋とか封筒の類が見つからなくて、仕方なく鳩なんとかという由緒正しそうな文房具屋さんに入った。和紙でしたためられた、という言い方が似合う一筆箋や、封筒がズラっと並んでいて、いかにも「結婚」という感じで、わたしは背中に針金が入ったみたいにシャキンとしてしまって、息苦しくなって店を出た。

結局、ソニープラザを見つけて、桜の絵が入ったカードを買う。どんなお母さんなのかわからないけれど、わたしがお母さんの立場だったら、息子の恋人という人に由緒正しい封筒で手紙をよこされたら老け込まされているみたいで嫌だなって思う。スタバで手紙を書いて、余った時間は原稿を書いた。喜んでくれるといいな。

打ち合わせ帰りの恋人さんと合流して、お店までの道を歩く。恋人さんが「あ!」と大きい声を出した。何かなと思ったら、「政治家の石破さんを見た!すごく普通にいた!」と興奮気味に言うので、わたしのほうも「石破さんって無類のカレー好きらしいね、選挙速報で言ってた」という中身のない受け答えをした。

お店に時間ぴったりに着いたのだけど、恋人さんのお母さんはもういらっしゃっていた。暗くてお顔があまりよく見えなかったけれど、小さくて、可愛らしくて、50歳もいっていないような感じだった。

恋人さんが先陣を切って歩いて、恋人さんがメニューを広げて、注文をしてくれた。頼りないわけでは全くないのだけど、普段の恋人さんはそういうことをしない。「親が来ている側の人」役をやってくれているのだと思った。

わたしはヤバい文章を書いているので、恋人さんのお母さんがネットで名前を検索したら、人によっては嫌われてしまうとか、この子大丈夫かしらと思われてしまうかもしれないなと思って、ののかちゃんは映像ディレクターをやっているんだよ、ということにしてもらった。映像ディレクターもしているので、嘘はついていない。苗字も名乗らないで、ののかと申します、とあいさつした。完璧だ。

サラダが来たので、最初はとりあえず取り分けようと思って、取り分け始めたら「気を遣わないでいいんだからね」と恋人さんのお母さんが言ってくれたのだけど、緊張していたし、咄嗟のことだったので、「あっ、あの、とりあえず最初だけやろうと思いました」と頭の中の言葉がそのまま漏れ出てしまって、今度こそ、あっ、と思った。恋人さんのお母さんの顔をあわてて見てみたけれど、ニコニコしていてくれてホッとした。優しい人でよかった。

正直なところ、緊張してしまって何を話したかあまり覚えていないのだけど、小さい頃からの恋人さんの話をたくさん聞けてうれしかった。いろいろ聞かせてもらってきたように思っていたけれど、そんなこともなくて、中にはエーッと思うようなびっくりする話もあって、わたしはますます恋人さんのことをおもしろい人だなと思った。

それから、「この子ね、絶対に結婚したくないって、小さいころから言っていたから、結婚するなんて本当にびっくりだし、うれしいなって思うの。ありがとうね」というようなことを恋人さんのお母さんは言っていて、わたしもびっくりしてうれしい気持ちになったけれど、わたしにも思うところがあった。

うちのお父さんとお母さんも人並みにはケンカしていたのだと思うのだけど、子どもだったからケンカするということそれ自体が許せなくて、たとえばお父さんとお母さんがケンカをするたびに、わたしも「わたしは絶対に結婚しないから!」とか「わたしはお父さんとかお母さんみたいにならないから!」と言っていた。小さいころは何に付けても未来を以て反抗することしかできなかったし、何も知らなかったな、と思う。

帰り際、バレンタインだから、と、チョコレートと手紙を渡した。すると、恋人さんのお母さんも、いくつもの紙袋から箱を1つずつ出して、恋人さんに熱心に説明をしていた。恋人さんがお世話になっている人たちに買ってきてくれたらしい。わたしは白くて立派な箱をもらった。うまく言えないけれど、恋人さんのお母さんは恋人さんのお母さんだなぁというか、この人がいたから恋人さんは恋人さんなのだし、頻繁には難しくても、恋人さんと一緒にたまに会いにいけたらいいなぁと思った。

会うまでは緊張していたし、たとえば絶対にお正月に恋人さんの実家に行くだとか、そういうことは考えていなかったけれど、実際に会ってみて、恋人さんのお母さんという存在が立体的になって、感情が自然と変わっていくのがわかった。

どう流れていけばいいかわからないときは待ってみればいいのだと思った。中洲が現れたら、中洲のうえを流れるわけにはいかないし、流れは自然とつくれる。

帰り道、記念写真を撮ろうということになって、銀座の何でもないようなところで、通りすがりの人に写真を撮ってもらって、写真送りますね、ということで、恋人さんのお母さんとLINEを交換した。

最近婚約したお友達が、「ご親族に挨拶に行ったとき、家族が増えた感じがしたよ」と言っていた。本当にそんな感じだった。

恋人さんと家に帰ってきて、恋人さんのお母さんにお礼のLINEをしようとして、わたしは「アーッ」と叫んでしまった。恋人さんが「どうしたの?」と心配そうな顔をして見る。LINEを本名・フルネームでやっているのを忘れていた。検索、しないでくれるといいなぁ……。

2月15日(木)

近くのハンバーガー屋さんで作業。ナゲットを注文したら、またBBQソースかハニーマスタードソースかを聞かれる。1週間くらい前にBBQソースを頼んで少し悲しい思いをしたばかりなので、ハニーマスタードにする。甘くて辛くて、こんな一見気持ち悪くておいしい組み合わせ、誰が最初に考えたんだろうな。

作業をしていたら、後から真崎もやってきた。お互い作業がノっていたので、「おはよう」と言って、そのまま作業を続行する。昨日も久しぶりに会って一瞬しか喋っていないし、今日もこんな調子だし、帰るときには急に寂しくなって、会わない間は毎日メッセージをやりとりする。大事なお友達はたくさんいるけど、こんな友達は、真崎以外にはもうできないと思う。

ハンバーガー屋さんでの作業がひと段落ついたので、今度は近くのファミレスに移動して作業する。後から作業にひと段落ついた真崎がやってきたのだけど、真崎は少し落ち込んでいた。

話を聞いていると、わたしは何だか自分が真崎になったような気持ちになってムカムカとしてきて、勢い余って赤ワインを注文して「胸クソが悪いな!」と言って震えた。それを見た真崎は、さっきまで泣きそうな顔をしていたのに、すごく冷静になって、わたしをなだめにかかる。わたしは他人の話を聞いていても自分の話のように思ってしまう節があって、そうやってわたしが怒ったり悔しくて泣いたりしているのを見ると、本人が落ち着いてしまうらしい。他の人の感情を奪ってまで、わたしが感情をやらなくてもいいのになと思うし、他の人の感情を奪うのは申し訳ないなとも思うけれど、スッキリしたと言ってくれる友達が多いのはありがたい。

夜は編集者の先輩と真崎が家に遊びにきてくれた。編集者の先輩は真崎と同じ時期に知り合った人で、面倒見がよく、褒めて伸ばしてくれるタイプの優しいおねえさんという感じの人だ。

3人と恋人さんで近くのスーパーに行き、お惣菜とキャベツを買って、4人でちゃぶ台を囲んだ。恋人さんはせっせと料理をしておつまみをつくり、キャベツがなくなった瞬間にサッと差し出してくれていた。おつまみはおいしかったし、わたしたちも楽しかったし、恋人さんは特に疲れているだとか、無理している素ぶりをしていることはなかったけれど、自分でも知らないうちに疲れていたり無理していたりすることがあることをわたしは知っている。恋人さんのことも、できるだけ目を凝らしてしっかりと観察しておきたいなと思った。

バカみたいな話が多くて楽しかった。頭の中はだいたいシリアスで小難しいことばかりなので、せめて頭の外はバカみたいな話ばっかりで埋め尽くされてほしいなと思った。

2月16日(金)

大好きなwebマガジンの1つであるUMUさんのインタビューで朝から神楽坂へ。UMUさんというのは、「産む、産まない、産めない」をテーマに多様な家族の形を紹介しているwebマガジンで、昨年の夏にわたしからお願いして記事を書かせてもらっている。離脱するから文量はこのくらいにしましょう、などというWebの暗黙のルールを超えて、その人の言葉や生き方を等身大で伝えられることを大切にしている、やさしい信念があるメディアだ。

それに、いつも思うけれど、UMUのインタビューに出てくれる人たちも、こんな風になりたいな、と思えるような、芯があってやさしい人が多い。カロリーは必要だけど、こういうインタビューだけで食べていけたらいいのに。

取材が終わって、神楽坂をぷらぷらする。かもめブックスさんとla kaguに寄って帰る。かわいいZINEがあって、ジャケ買い。いつかパトロンが付いたら、生活費をくれるよりも本を買ってほしいな。書籍代もけっこうかさむし、生活を握られるのは、たとえば恋人相手でも絶対に嫌だ。

真崎から連絡があって、五反田で合流して作業することになった。電車に乗って移動していると、緊急の案件の連絡が入る。けっこうな急ぎの案件だったので、通常単価の2倍でお願いしたらOKをもらった。でも、今思い返せば、駆け出しのころは「明日来られる?その日じゅう納品で」が当たり前だった。わたしは書くのが早いから本数をさばくことだけはできたので、書くことの短距離走のときの筋力はそこで身についた。これからは長距離走をしながらご飯を食べる方法を考えていかないと。

五反田のWIRED CAFÉでアボガドねぎとろ丼を食べながら、最近感じていることを真崎にぽつぽつとこぼす。プロポーズしてから今までの間で、友達が急に減ったような気がする、という話がだいたいだった。誰を頼っていいのかよくわからなくなって不安で、とりあえず真崎は真崎でよかった、というような話をしたら、一緒にいて楽な人とだけいたらいいよ、と言ってくれた。

その人のことが好きかどうかと、一緒にいて楽な人かどうかは違う。しばらくの間は、一緒にいて楽な人とだけ会ったり連絡をとったりしようと思った。

カフェで作業をしてから、先輩が主催の飲み会で会った女の子たちとご飯を食べに行った。連れていってもらったイタリアンバルは、こじんまりとしていてアットホームなうえに料理もおいしくて、近くにあったら通いたくなるようなお店だった。名前を忘れてしまったけれど、タコの入った料理がおいしかった。

解散が21時だったので、渋谷でやっていたお友達の展示&イベントにお邪魔した。すると、恋人さんがいて、知っている人もたくさんいた。と言っても、知っている人たちというのは、1人の男の子を中心にしたコミュニティのようなもので、彼づてに仲良くなったお友達がたくさんいる。

誰にでもフラットに話しかけ、組んだらうまくやれそうな“縁談”をとりもってくれる彼のことを「歩くマッチングアプリ」と呼んでいる人も多いけれど、わたしは何ていうか「人間DJ」って感じがする。人と人とをリミックスして、新しいイケてるものをつくって世にリリースしていく人、という感じ。ニュアンスの話だけど。

18時から飲んでいたので、2軒目でコークハイを1杯飲んだら楽しくなってしまって、早々と外に出た。追いかけてきてくれた恋人さんにコンビニに寄ろうと言って、帰り道のコンビニでチューハイといちご大福を買ったのだけど、ひと口ずつ口をつけたら気づいたら眠っていた。

2月17日(土)

のらりくらり起きてみたら、気持ちが悪かった。最近何も気にせずにお酒を飲むと、次の日がつらい。大正漢方胃腸薬を飲んだ。今日の夜も、創作をしている人たちとの飲み会がある。

時間まで、外のカフェで原稿をすることにした。最近書いているのは、1月中旬に取材をさせてもらったものなのだけど、頭の中で整理をつけて消化するのに時間がかかってしまって、1カ月くらい手つかずのまま過ごした。速報性のないものとは言え、1カ月はかかり過ぎなので、ようやくいろんな仕事の手を止めて、執筆に集中する。

この1カ月は何もしていないのに、何もできなかった。世の中の、結婚をしている人たちはみんな、こういうわけのわからない心の揺れ動きを感じながらも平日5日間フルタイム働いて、半年くらいかけて両家顔合わせとか結納とかそういうことをして、おまけに結婚式までしてしまうのだと考えると、すごすぎ、というか、ちょっと信じられない。半年とか1年もそんなことをしていたら、わたしだったら結婚式をした瞬間に燃えつきてしまって、解散してしまいそうだなと思った。

土曜日のカフェはどこも混みあっていて集中できず、(ということを言いわけにして)仕事がほとんど進まなかった。無念。百貨店でお土産のお菓子を買って、ご自宅に向かう。

創作をしている人たちの飲み会には、いつも面白い人たちがくる。そして何より、ここに来る人たちがいいのは、多分みんな、何が面白いのかという軸がしっかりとありながらも、それぞれの作品を否定したりしないことだ。わたし以外のほとんどの人は著作を出していたり、自分のメディアを持っていたりするけれど、著作もメディアもないわたしのことを格下だと思ったりしない。それどころか、「ののかちゃんの作品をどうしたらもっといい形で予に出せるかを一緒に考えよう」と言ってくれる。あんまり大きい声では言えないけれど(書いているけれど)、ネットの言論の世界は、血みどろの戦場だと思っているので、わたしの先を行く人が、こういうやさしい世界をつくってくれているのはとっても希望が持てる。

いろんな話をする中で、言論史の話や、それに紐づいたアニメや映画、著作の話になった。実はわたしは人のつくった作品を読んだり観たりするのが苦手で、創作をしている他の人に比べて、本や映画に触れてきた機会がたぶん少ない。話題になっていたり、お友達に誘われたりして、読んだり観たりしておもしろかったとかおもしろくなかったとか思うのは好きなのだけど、物語の筋を追う前に、登場人物の感情がダバダバ流れ込んできてしまって、しばらくの間、登場人物の言い回しだとか性格みたいなものがわたしと入れ替わってしまう心地がして具合が悪くなる。

わたしにとっては新しくて興味深い話が飛び交うので、オススメの作品とあらすじをメモした。やっぱり読めないかもしれないけれど、余裕があるときに頑張ってでも読みたいな。

真崎が家に着いたというので、早めにおいとまする。わたしと恋人さんと真崎が入っている「佐々木家」というLINEのグループに、真崎のひざの上でリラックスするみいちゃんの写真が送られてきて、安心したし、ちょっとムカついた。わたしのみいちゃん!!!

みいちゃんのことが好きすぎて、誰にも渡したくないみたいな気持ちになることがある。猫だからいいけど、自分の子どもだったら……とか考えると背中から肩にかけてゾゾゾッとした。しばらく子どもは産めないな。

家に帰ると、真崎は「これ好きなんだよね~」と言いながら、うちにあった着る毛布を着ていて「焼酎のお湯割りがあるよ」と言うと、「飲む~!」と言ってうつ伏せになり、足をパタパタさせながら焼酎のお湯割りを飲んでいた。

後から帰ってきた恋人さんが「真崎さんって動物みたいだね。リラックスしてくれてよかった」と小声で言った。みいちゃんがあくびをした。

わたしと恋人さんとみいちゃんと真崎。平和な4生命体暮らし。

2月18日(日)

起き出して原稿。今日は美容室に行く日。

何だか最近、何もかもリセットしたいというか、デトックスしたいというか、漂白がしたい、という気持ちになって、漂白と言えばブリーチだということになって、美容室を予約した。

わたしの通っている美容室はネイリストのchinatsuさんに教えてもらった場所で、希望通りに切るお客さん商売というよりは(もちろん希望通りにも切ってくれるのだけど)よりよい髪型を提案してくれるタイプの美容師さんがいる。

その日も「デトックス的にブリーチしたくて」と言うと、「そういう理由でブリーチするの、まじでいいっすね」と言ってくれて、あとはお任せにした。結果、切る予定のなかった髪を切り、刈り上げるくらいのショートカットになって、金髪にしようかなと何となく思っていた髪色はピンクになった。知らない自分をまた知れたみたいで、うれしい。

それから、ここに来ると今まで着ていた服が似合わなくなる。たぶん新しいファッションに挑戦できるように、わざと似合わなくなるように切ってくれているんだと思う。

渋谷で恋人さんと待ち合わせをしたら、遠くのほうからわたしを見つけた恋人さんが「あーっ」という口をして、それから少しうれしそうな顔をしていた。「違う女の子とも付き合っているみたいで、お得な気分だ」と言っていた。飽きさせないように髪型を変えたり、メイクを変えたりしないとな、と思った。キューティーハニーみたいでいいな。

髪型を変えたら、何だかすっきりして、今まで手が付かなかった原稿がスイスイ進んだ。美容室だとかネイルサロンだとかエステだとかというのは、精神科にかかるようなジャンルの疲れじゃない、だけど、絶対にケアが必要な疲れを癒す機能があると思っている。だから、美容に携わる方々は皆さまセラピストだ。

病院に行く、と思うと、心なしか少ししんどい気持ちになってしまうけれど、美容室とかエステとかに行くと、気分が上がる感じで元気になれる。来月までまた頑張ろうと思いながら、夜遅くまで原稿を書いて寝た。