佇まいに責任を持つ

第38期(2018年4月-5月)

「ところでさ、このアパートメントって、どんな場所にあって、どんな建物なの」
「うーん、あんまり詳細に考えてないというか、あえて固めてないみたいなところがあるんだけど…住人さんに自由に使ってもらいたいし」
「そうだね、お部屋で何を表現するかは住人さんそれぞれだけど、その上で建物全体のイメージっていうか」
「うん、まぁそういう意味では、こんな感じかなというのはなんとなーく頭に浮かんでくる。それで決めってわけではないんだけど。なんかこう、大都会のど真ん中でもないし、かといって超田舎の山奥でもないし、首都圏のどこか、超メジャーじゃない線の各駅停車の駅って感じ笑」
「駅から徒歩10分ぐらい歩くよね。便利すぎない感じ」
「その分敷地は広くて、それなりに広いお庭がある。ほら、住人さんには、踊る人も工作する人も紙芝居する人もいるから」
「建物の高さは?」
「ウェブで書いてくれてる住人さんの部屋数で言うと200とか300部屋ぐらいになっちゃうんだけどw見た目感としては、せいぜい3-4階ぐらいだよね」
「そして、いい感じにボロい笑」
「そう、いい感じに。ピカピカの新築ではない、少なくとも」
「個室と別に、共用スペースもあって、そこでぐだぐだと集まったり、お茶飲んだり、チクチク編み物したりして…」

土曜日の朝、サンマルクの2階席に集まって、スケッチブックとスマートフォンを手にそんな話をした。

この連載の裏で、アパートメントのリニューアルに向けた準備と話し合いを、じわじわと進めている。

これまで連載してくれた住人のうち何名かに、運営に加わってもらって、あーだこーだと。

本当は毎週なんらかのまとまったアップデートがあって、連載が終わる5月の終わりには、大々的にコンセプトを発表してクラウドファンディングのお知らせをーなんてことも話していたが、案の定そんな予定通りスマートには進まず、それぞれに日々の勤労に励みながら、スキマ時間で少しずつ粘土をこねこねしているような感じで、まあ、らしいといえばらしいけれど、暮らしというのはそんなふうにしてえっちらおっちら進んでいく。昼間の仕事でももちろんスケジュールの変更はつきものだが、とはいえずらしちゃいけない納期というものがあるのが大抵で、遅れや微修正がありながらも最後は気合でなんとか間に合わせる、みたいな強制力が働くものだけど、なんだろね、実際のお引越しとか新築とかリフォームとかとかでも、週末にちょっとずつちょっとずーつ、不動産屋巡りしたり設計士さんと打ち合わせしたりしながら、期限はあるようでないような、どれぐらい時間がかかるかはわからないけど、「しっくり」来るまでは決められないし、こだわるところはこだわりたいよね、みたいな、そんな感じよ。我々。

そうは言っても、ようやく動き出せそうというか、実は数年前ぐらいから「リニューアルしたいねぇしなきゃねぇ」と話が持ち上がっては塩漬けになり、みたいなのを何度か繰り返してのようやくの今年、なのだけど、運営に関わるメンバーそれぞれの生活に変化もあり、この場をどうしていこうかという悩みや惑いも経て、それでもこの場を大事に育てていきたいよねという理想のようなものが見えてきて。

この「アパートメント」では、住人さんたちが自由に表現できることを大切にしてきた。だから、そこで語られる物語については、特定・具体的なテーマを持たないできた。この建物の、ウェブサイトの名前が「○○アパートメント」とか「△△荘」などではない、ただ、「アパートメント」なのもそういう理由からだ。

だけど、ここに入居してお話を紡いでくれる住人さんたちが、その人らしくのびのびと表現することを可能にするための空間のありようだとか、私たちが住人さんに何を伝えて、どんなふうにお出迎えして、お部屋の鍵を渡すのかとか、目的や終着点のない暮らしの営みのなかで、それでも「表現」としてつくり届けていきたい世界観はなんなのかとか、そういうものはやっぱり、「なにもない、白紙です」というわけにはいかなくて。それをどうにか、言葉やビジュアルや機能として表現していきたいなと思っている。

「目的」はないけど、どこに向かっていくのかという、指向性・傾きのようなものはきっとある。
「終着点」はないけど、今、この世界を生きていく上での足場は確かにある。

どうあれ6年間、まがりなりにも時間を重ねてきた。
少なくとも、自ずとにじみ出る“佇まい“に責任を持つべき時なのかなと、今はそう思う。