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2F/当番ノート

佇まいに責任を持つ

当番ノート 第38期

「ところでさ、このアパートメントって、どんな場所にあって、どんな建物なの」
「うーん、あんまり詳細に考えてないというか、あえて固めてないみたいなところがあるんだけど…住人さんに自由に使ってもらいたいし」
「そうだね、お部屋で何を表現するかは住人さんそれぞれだけど、その上で建物全体のイメージっていうか」
「うん、まぁそういう意味では、こんな感じかなというのはなんとなーく頭に浮かんでくる。それで決めってわけではないんだけど。なんかこう、大都会のど真ん中でもないし、かといって超田舎の山奥でもないし、首都圏のどこか、超メジャーじゃない線の各駅停車の駅って感じ笑」
「駅から徒歩10分ぐらい歩くよね。便利すぎない感じ」
「その分敷地は広くて、それなりに広いお庭がある。ほら、住人さんには、踊る人も工作する人も紙芝居する人もいるから」
「建物の高さは?」
「ウェブで書いてくれてる住人さんの部屋数で言うと200とか300部屋ぐらいになっちゃうんだけどw見た目感としては、せいぜい3-4階ぐらいだよね」
「そして、いい感じにボロい笑」
「そう、いい感じに。ピカピカの新築ではない、少なくとも」
「個室と別に、共用スペースもあって、そこでぐだぐだと集まったり、お茶飲んだり、チクチク編み物したりして…」

土曜日の朝、サンマルクの2階席に集まって、スケッチブックとスマートフォンを手にそんな話をした。

この連載の裏で、アパートメントのリニューアルに向けた準備と話し合いを、じわじわと進めている。

これまで連載してくれた住人のうち何名かに、運営に加わってもらって、あーだこーだと。

本当は毎週なんらかのまとまったアップデートがあって、連載が終わる5月の終わりには、大々的にコンセプトを発表してクラウドファンディングのお知らせをーなんてことも話していたが、案の定そんな予定通りスマートには進まず、それぞれに日々の勤労に励みながら、スキマ時間で少しずつ粘土をこねこねしているような感じで、まあ、らしいといえばらしいけれど、暮らしというのはそんなふうにしてえっちらおっちら進んでいく。昼間の仕事でももちろんスケジュールの変更はつきものだが、とはいえずらしちゃいけない納期というものがあるのが大抵で、遅れや微修正がありながらも最後は気合でなんとか間に合わせる、みたいな強制力が働くものだけど、なんだろね、実際のお引越しとか新築とかリフォームとかとかでも、週末にちょっとずつちょっとずーつ、不動産屋巡りしたり設計士さんと打ち合わせしたりしながら、期限はあるようでないような、どれぐらい時間がかかるかはわからないけど、「しっくり」来るまでは決められないし、こだわるところはこだわりたいよね、みたいな、そんな感じよ。我々。

そうは言っても、ようやく動き出せそうというか、実は数年前ぐらいから「リニューアルしたいねぇしなきゃねぇ」と話が持ち上がっては塩漬けになり、みたいなのを何度か繰り返してのようやくの今年、なのだけど、運営に関わるメンバーそれぞれの生活に変化もあり、この場をどうしていこうかという悩みや惑いも経て、それでもこの場を大事に育てていきたいよねという理想のようなものが見えてきて。

この「アパートメント」では、住人さんたちが自由に表現できることを大切にしてきた。だから、そこで語られる物語については、特定・具体的なテーマを持たないできた。この建物の、ウェブサイトの名前が「○○アパートメント」とか「△△荘」などではない、ただ、「アパートメント」なのもそういう理由からだ。

だけど、ここに入居してお話を紡いでくれる住人さんたちが、その人らしくのびのびと表現することを可能にするための空間のありようだとか、私たちが住人さんに何を伝えて、どんなふうにお出迎えして、お部屋の鍵を渡すのかとか、目的や終着点のない暮らしの営みのなかで、それでも「表現」としてつくり届けていきたい世界観はなんなのかとか、そういうものはやっぱり、「なにもない、白紙です」というわけにはいかなくて。それをどうにか、言葉やビジュアルや機能として表現していきたいなと思っている。

「目的」はないけど、どこに向かっていくのかという、指向性・傾きのようなものはきっとある。
「終着点」はないけど、今、この世界を生きていく上での足場は確かにある。

どうあれ6年間、まがりなりにも時間を重ねてきた。
少なくとも、自ずとにじみ出る“佇まい“に責任を持つべき時なのかなと、今はそう思う。

鈴木 悠平

鈴木 悠平

閒-あわい-を掬う日々
企てたり書いたり編んだりしています。

1987年生まれ。
東日本大震災後の宮城県石巻市におけるコミュニティ事業、大学院での地域保健政策及び高齢者ケアの国際比較研究を経験した後、株式会社LITALICO入社。発達障害に関するポータルサイト「LITALICO発達ナビ」(https://h-navi.jp/ )の企画・編集を担当。

ウェブマガジン「soar」(http://soar-world.com/ )の運営、「greenz.jp」(http://greenz.jp/author/SuzukiYuhei/ )シニアライター等も担当

Reviewed by
廣安 ゆきみ

【アパートメントがもし本当にアパートだったら】
「首都圏の」「各駅停車の駅って感じ」「駅から徒歩10分で」「敷地は広くて、それなりに広いお庭がある」「そして、いい感じにボロい」……。



楽しい描写をめぐらせながら、そんなお家でモノを書いている住人さんの姿を思い浮かべる。

毎週あるいは毎月、のびのびと、ときに気負いながら、自分の部屋でモノを書く。

自分の腹のにおいをかぎながら、ひとりで書き上げた一枚の紙。"誰か"に読んでもらおう。でも自分の手で画鋲を持って、こっそりと町の掲示板に貼りに行く……必要はない。

書き上げたモノは、まず、同じアパートのどこかに住む別の住人さんの、郵便受けにストンと入れに行くのだ。これがレビュアーさん。Facebookで毎回、こうしてレビューを書いている人。

レビューとはいっても、批評ではないし、感想文でもないし、かといって返信や応答でもなく。もとの文章をバズらせてくださいという使命を帯びているわけでもなく。

でも、誰より真っ先にその記事を読み込んでくれる人。毎回書き上がるのを必ず"どこかで"待っていてくれる人。そして、もとの書き手が思いもよらなかったような色の付箋を添えて、掲示板に貼りに行ってくれる人。直接会ったことは、なかったりもするけど。



アパートメントという「ウェブメディア」のユニークさはもちろんいろんなところにあるし、いくつかの単語だけで換言できるものでもなく、むしろ「佇まい」の影を点描していくことしかできないかもしれない。

とはいえその佇まいの一面を担っているのは。アパートメントの住人さんそれぞれが、独立はしていても孤立していない、「集合住宅」になっているのは。レビュアーさんというふしぎな立ち位置の人の、おかげなんじゃないかな。

って、それは、自分が当番ノートを書いていたときに、とっても感じていたことです。

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