ミニチュアのはなし。

長期滞在者

 
ぼくが小学生低学年の頃、ビックリマンシールやラーメンバー、ミニ四駆にキン肉マン消しゴムが流行っていた。ビックリマンシールなどはシールほしさに大量買いをしてお菓子を捨てる子もいたりして、軽い事件になるくらいみんな熱中していた。ぼくは特にキン肉マン消しゴム、略してキン消しの熱心なファンだった。シールとは違いコレクションするのではなく(でも500体くらいはあった)要はままごとのように遊んでいた。
小さな部屋を世界に見立て、ミニチュアのゴム人形を使って、ぼくの住む町の何百倍もの広大な世界を創り上げることに夢中になっていた。

ぼくが好きだった設定は、東と西の国のはなし。まだ人間が魔法を使えたころ、東の国には世界を制する力を持つ選ばれし後継者が生まれる。国は栄えていて、王は国民から愛されていた。一方、西の王は独裁的で国民から財を搾り取り、国は荒れていた。東の国を目の敵にしていた西の王は後継者を抹殺しようとさらってしまう。
そして、東の国のひとりの兵士が後継者を助けに向かうところから物語りがはじまる。

とは、言っても、あとは順番に攻めて行き、勝ったり負けたりするだけなのだが。

キャラクターによって声色を変えて、能力やら必殺技をあれこれと考えたりした。意識的にか無意識にか善と悪を決めてしまっていたけれども、必ずしも善が勝つとは限らず、結末を決めるのもひとつの楽しみだった。

大抵は結末に至る前に夕食の時間になったり、弟に邪魔されたりで、物語りを完結できないことが多かったが、十回に一回くらいは壮大な物語りをぼくのものにできた。

部屋の片隅で、居間のこたつに寝転がりながら、お風呂に入りながら、トイレで、庭で、車内で、どこででも遊んだ。楽しくて楽しくてやめられなかった。

高学年になると自転車でどこでもいけるようになった。ひとり遊びは減ってゆき、友だちと遊ぶことが増えていった。兄がファミコンを手に入れてからはキン消しの活躍の場は皆無状態となる。やがてガラクタ入れの箱に詰め込められた。

ある日、遊ぶ友だちもつかまらず、ひまだったので、久しぶりにキン消しを箱から取り出してみた。しかし、どうにもつまらなくて物語りを展開することができず、すぐに箱に戻した。なんだかショックで悲しかったのを憶えている。

いまでも何かが崩壊するとき、決まってあのときと似た感情が芽生える。
いままで築き上げてきたものがまるで幻のように感じられ、事実なのかぼくの脳が創りだした妄想なのかよくわからなくなるような感覚。

事実はなく、あるのは解釈だけ。

ならば、なんらかしらの形でぼくの血となり肉となり、共に人生を歩んでくれている記憶たちを大切にしたいと思う。
不確かだから虚しく、儚いから愛おしいものたち。

あの小さな部屋で創りあげた世界のように。