谷底本箱煙猫―エパミナンダス

長期滞在者

 白くってふわふわしていて地面に落ちているもの、なーんだ。
 
 この時期になると家の外にも部屋の中にも、このふわふわしたものが現れる。外にあるのはポプラの種子で、綿毛を身にまとっているため風に舞いふわふわと漂い、地面を白く覆う。初めて見たのは19の頃、大学のキャンパス。私の目の前、気まぐれに飛んできたこの大きな綿毛はいったい何なのか、と辿ったらそこには大きなポプラの木があって、季節外れの雪景色に驚いたのを覚えている。同じ時期、我が谷底の部屋でもふわふわと舞う物体が現れ始めるのだが、これは猫の毛であり、さわやかな春を抜けたこの時期、換毛期に突入した煙猫の体から次から次へと生み出されている。煙猫が転がるとふぁさーっと舞い、軽くなでてもふぁさーっと舞い、顔をうずめた日には顔中毛だらけになる。それよりなにより布という布はすべて毛だらけなので、出掛ける前の一儀式、粘着テープのコロコロにも念を入れ、準備OK、出かけるぞという時に限って煙猫が伸びをしてこちらをチラ見、ニャ、と小さく鳴いてすり寄ってきてすべて台無し、黒いストッキングに煙猫特有のスモーキンな毛がわさーっと張り付き、私はうなだれて再びコロコロを手にするのである。少し気を抜くと部屋の隅という隅は和毛でいっぱいになる。こちらも暇さえあれば毛を梳いてやるのだが、梳いても梳いても一向に抜け毛は減らないので煙猫がはげちょろけになってしまうのではと心配してしまうほどだ。手入れしながらぶつぶつと唱える呪文、けっこう毛だらけ猫灰だらけお前の体は綿だらけ。

 白くってふわふわしていて地面に落ちているものの正体は以上ですが、きいろくってふわふわしていておいしいものはなんでしょう。『エパミナンダス』というお話に出てくる「きいろくってふわふわしていておいしい」というフレーズが本当に好きで、このお話を語ったあとはいつもきいろくってふわふわしていておいしいものを食べるのす。ホットケーキの時もあればカステラの時もあり、蒸しパンの時もあれば玉子焼きのこともあります。これぞ美味しいの3拍子!と声に出すたびについついにやにやしてしまうのです。
 さて、『エパミナンダス』というのは男の子の名前です。エパミナンダスはお母さんに次々とおつかいを頼まれるのですがこれが全くうまくいきません。ケーキを取りに行ったときにはぎゅっと握りしめて持って帰ったためにケーキを駄目にしてしまいました。そこでお母さんは、ケーキはきれいなはっぱにつつんで、それを帽子の中にいれて頭にかぶってそっともってくるんだと言い聞かせます。次にバターを頼まれたときエパミナンダスは、なんと、前回教えられたケーキの方法でバターを持って帰るのです。もちろんバターは溶けてしまいますしエパミナンダスも体中がバターだらけです。一時が万事この調子で物語は進んでいきます。そして、最後には絶句してしまうオチが待っています。テンポのよい笑い話です。

☆今月の一冊:『おはなしのろうそく1』より「エパミナンダス」(東京子ども図書館編/東京子ども図書館)