鍵のはなし。

長期滞在者

 
ぼくが彼女さんと付き合い始めた年の暮れ
「クリスマスなんてどうでもよくないかい?」
なんて馬鹿正直にいうことができないくらいには、お互い気を使っていた。
だからデートはしたはずだけど
どこでなにをしたのか記憶は定かじゃない。

ただ、デートが終わったあと、彼女さんは実家の山梨に帰郷し
ぼくは彼女さんが住んでいた府中のアパートで留守番をすることになっていた。
当時、ぼくは笹塚に住む友人のマンションで居候していたが
彼女さんと知り合い、仲良くなるにつれ、府中のアパートにお邪魔することが増えていった。
その年の暮れも、一人の時間を確保したいということもあり、合鍵を預かり留守番させてもらうことになった。

たぶん映画か舞台を観て、食事しながらお喋りをし、駅で彼女さんを見送ったと思う。
ぼくはTSUTAYAで映画を2、3本借りて、ポテチやらチョコやらをたくさん買い込んだ。
それをパクつき珈琲でも飲みながら映画鑑賞する予定だった。

寒空のした家路を急ぎ、アパートの階段を登る。
足音をたてないように気を付けていても、カンカンと冷たい音がなった。
ドアの前に立ったとき、次するべき行動に移すことができなかった。
鍵がない。

ぼくは当時、財布や鍵をなくしてしまうことが多々あった。

携帯の時計をみる。登り電車の最終は終わっていて笹塚に戻ることはできない。

鍵がいまどこにあるのか察しはついていた。
その日、ぼくは彼女さんと一緒にアパートを出た。施錠したのは彼女さんだ。
たぶん、おそらく、このドアの向こうに鍵はあるはず。

とにかく、ネカフェを探してそこで夜を明かした。
彼女さんが帰郷している間は笹塚のマンションに戻り、大晦日にはぼくも新潟へ帰郷した。

年が明けて彼女さんと一緒にアパートへいくとテーブルの上に鍵はあった。

彼女さんはそれをみて笑った。ぼくはそんな彼女さんをみてホッとした。そんなぼくの態度をみて彼女さんは、「今回は忘れただけだったから良かったけど無くしたら大変なんだから今後こういうことがないように」と優しい顔で叱り、ぼくは鍵っ子になった。

はじめて生活らしきものを共にしたアパート。
初々しい思い出がつまっている。
そしてそれは更なる体験への序曲だった。
ぼくと彼女さんの物語りがはじまった場所。

鍵をなくすようなぼくのズボラさは、彼女さんとは正反対なもので、それは時として良い作用を及ぼすこともあれば、その逆もある。
意思疎通が神がかっていることもあるし、いくら説明してもまったく話が噛み合わず平行線のままなこともある。
それでもこうして一緒にいられるのはバランスの問題なんだろう。
鍵と鍵穴のように。

この扉をひらくことができるのはひと組だけ。

その奇跡をぼくはすぐに忘れてしまう。
だから孫悟空の頭の輪っかの如く、いつも首から鍵をぶらさげている。
鍵が揺れるたびに思い出す。
ぼくは彼女さんと生活しているんだって。