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3F/長期滞在者&more

バランスよく

長期滞在者

24D735E8-4B4C-4837-9386-8269A5579E212月に入ると、各所で学校の卒業制作展や、ワークショップの修了展が数多くひらかれます。限られたスペースの中に、時間をかけて取り組んできたものの一端を示そうと、撮影やプリントばかりでなく、写真の並べ方や、額装なども慎重に検討して、まとめあげていきます。年末からこの時期にかけていろいろ相談に乗っていますと、自分の写真の選び方に苦労されている方が多いのです。先週飾る写真を選んで、本プリントに入ると打ち合わせしたのに、翌週には、また振り出しに戻ってしまう。
5枚のうち最後の1枚を絞りきれずに、いくつかの写真を机の上で取っ替え引っ換えする人は少なくありません。
どっちを選んでも大差ないよ、と言ってもなかなか納得してもらえない。更には、こちらを選んだらバランスが悪くないですか?などと聞いてきたりする。この「バランス良く・悪く」という言い回しは、しばしば耳にするのだけど、僕自身これまでどうすればバランスが良いのか習ったことがない。
でも、いざ本番の展示を控えて、結構な割合で「バランス良く」という言葉を用いたがるのです。この作業の出発点が「バランス」であると多くの人が考えているのだろうと思います。

いくつかのレクチャーでこの抽象的で悩ましい問題について取り上げたことがあります。小展示の場合、バランスを無視しろ、というのが僕の持論で、非常に限られたスペースである程度の自分の持ち味を見せるには、色や形のバランスを優先したら、大事にしていた写真が選から外れてしまったということでは、本末転倒です。多少形が崩れていても、自分が大事にしている図版を中心に壁面を組み立てた方が良いに決まっているし、そもそも空間を見るのではなく、写真の中に描かれる対象を僕たちは見るのだから。構成という骨組みを鑑賞するための展示ではないはずです。

なるべく自分の意図に沿う形で伝わるよう、構成を練り上げたいという意見もあります。でもそれは展示の直前ではなく、制作プロセスのもう少し前の段階だと思います。時期が迫った頃のそれは、表面だけを取り繕うようなもので、できの悪いものが良くなったりすることはありません。

写真作品は大体の場合において複数のイメージを繋ぎ合わせて、ひとつのテーマや物語を組み立てます。展示スペースの大小、掲載されるページ数によって、同じシリーズでも枚数が増えたり減ったりするわけで、数メートルの壁や、4ページ程度の
誌面で取り組んできた全てのことを盛り付けるのは不可能なことは、誰もが分かっているのに、いざシンプルに、コンパクトにまとめようと思いつつも、つい欲張って色々盛ってしまいがちです。少しでも収録点数を確保しようと、3列3段の9点を並べるというのも、狭いスペースの集合展示などでは鉄板の構成プランに思われていますが、もともと30枚くらいでまとめようとしていたものを、9枚でアレンジし直すのは実はかなり難しいのです。むしろ潔く3枚くらいまで削ぎ落とした方が、目に留まりやすく、想像力が働きやすい展示になるのにと良く思います。その場できちっと決断することを恐れず、過剰なオニ盛り展示を戒めて、水たまりに小石を投げ込むような感じで、小さなさざ波に注意が向くようにまとめていくのがコツです。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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