現代の妙好人。

長期滞在者

アート・ブラッセルというアートフェアが4月24日から27日まで開催されたのだが、
そこに、日本の堀尾貞治さんとその仲間4人が現場芸術集団「空気」として参加した。
彼らのアテンドのような形で仕込みや客の通訳なども少し手伝うことになり、
仕込みを含めた会期中、毎日会場に足を運んだ。

今回の展示は「Art Vending Machine」と銘打たれたもので、
アントワープにあるアクセル・ヴェルヴォールト・ギャラリーの企画による。
「芸術自販機」と英語で書かれた箱の中に堀尾さんと数人のメンバーが閉じこもり、
観客が外から1ユーロコインを投入口から入れ、メニューの中から選んで注文すると、
1分弱で現代アート絵画が出てくるというパフォーマンス的なイベント。
日本では「百均」としてやっていることを、1ユーロ均一でやっている。

彼らのブースには写真に見えるように、ガラクタが壁や床に配置され、
この後アクリルカラーでベタベタと色が塗られていく。
(この色は毎日塗り重ねられていく。)
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ヨーロッパが主だが、世界各地からアートギャラリーが集まり、
そう安くはないわけ知り顔の芸術作品が広い会場に所狭しと並べられ、
着飾ったアートピープルがわけ知り顔に闊歩している中で、
この企画はかなり痛快だ。
しかも、このイベントが進行しているすぐ横には、
アクセル・ヴェルヴォールト・ギャラリーの本ブースでは、
堀尾さんのより大きな絵画作品が(間違いなく1ユーロ以上の値段がついて)展示されている。
「空気」のメンバーの友井さんの話によると、
日本で「百均」をやったときに、堀尾さんは一度、画用紙に千円札を貼り付けて作品にしたそうだ。
(それを見た観客達は爆笑していたらしい。)
紙幣や偽札をアート作品にして、それに高い値がつくことはアートの世界ではある種定番だ。
ところが、堀尾さんは(おそらくそんなことは意図していなかったのだろうが)、
とにかく「その場で作り続ける」という勢いに乗って、そんな定番をひっくり返したのだった。
貨幣価値を転倒させる芸術の価値をさらに芸術そのものをもって転倒させられる人がどれだけいることか。
さらにそこにはユーモアも諧謔もある。

オープニングの前日、設営、仕込みの日だったのだが、ベルギーはその日ゼネストで、
公共交通機関がほとんど停止。ブリュッセルの場合、かろうじて中心部に通じる幾つかの
交通機関は動いていたが、会場のある郊外の地下鉄駅までは行けない状態。
それにも関わらずなのか、そんな状態だからなのか、まあどっちでもいいがタクシーはつかまらない。
なので、一応いけるところまで地下鉄で行ってみたものの、そこから会場までのトラムもバスもやはり動いていない。
仕方ないのでそこから歩こう、と堀尾さんが言い出したので、とりあえず歩いてみることになった。
「空気」のメンバーの和田さんと山下さんはその道中、一ユーロ絵画のネタを拾って歩いている。
その途次、前から訊きたかったことを堀尾さんに直接尋ねてみた。

堀尾さんには『妙好人伝』という周治央城さんという彫師との合作があるのだが、
なぜ堀尾さんが「妙好人」を題材に選んだのかが前から気になっていたのだ。
堀尾さんは、「なぜ」の答えになるような返事はしてくれなかったのだが、
色々とその作品を作るに至る経緯を話してくれた。
その話ぶりからすると、貧しく虐げられた境遇にあった多くの妙好人の生き様に共感したから、
というのが『妙好人伝』を作った理由なのだろうと感じた。

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「Art Vending Machine」で堀尾さんがひたすら作品を作り続けているのをみると、
どうしても鈴木大拙の『日本的霊性』や柳宗悦の『南無阿弥陀仏』に書かれた
妙好人、浅原才一のことを思い浮かべてしまう。
できてきたものに対する「これでいいのだ」的絶対肯定。
とにかく作ることが好きで仕方がないという子供のようなエネルギー。
スイッチが入ると誰にも止められない。
(会期中4日間で約1500作品を描き上げた。)
そして、その作品がその周りの人たちをつなげ、暖かくする。
堀尾さんを現代の才一と呼びたくなるのは僕だけではないと思う。

この企画を傍で眺めながら、おれもとにかく作り続けなければ、という思いに駆られ続けた。
世の中にはまだまだすごい人たちがいるのだ。
もっと会って、もっと交わして、もっと作ろう。