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3F/長期滞在者&more

「大丈夫、私たちには音楽という愛がある。」【ARIANA GRANDE「BE ALRIGHT」(2016年5月20日リリース、アルバム『DANGEROUS WOMAN』より)】

長期滞在者

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彼女の微笑みを見た瞬間、私はこの人に出会えて良かったと思った。

4月に出会ったアラビア語の先生は、イラクのバグダット生まれ、バグダット育ち。
教室にはいつも笑顔で入ってきて、明るい声でアラビア語の挨拶を交わしてくれる、とてもチャーミングな先生。
彼女はアラビア語だけでなく、中東の文化やイスラム教のことなどを、地上の目線で教えてくれる。

ある時、私は彼女が語るイラクの現実の話を聴いているうちに、涙を堪えるのに必死になっていた。
先生はきっといろんなことを我慢し、悲しいことにもたくさんあっているのだろうけど、
それを怒りや憎しみとして表現していなかった。彼女の想いがどんどん自分の中に流れ込んできた。
私は先生からできるだけたくさんのことを学んでいこうと思った。

2017年5月22日、月曜日の夜のこと。
先生からラマダンが始まりますねという話があり、私は以前から疑問に思っていたことをおもいきって聞いてみた。
「先生、ラマダンの時期はどうしてテロが多くなるの?」
「あれは、勘違いよ・・・。」 
彼女は小さな声で悲しそうに教えてくれた。

アリアナ・グランデのコンサート会場でテロが起きたというニュースを知ったのは、
翌日の朝のことだった。

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イギリスのマンチェスター・アリーナで大きな爆発があったのは、
2017年5月22日22時35分ごろ、日本時間では、23日午前6時35分ごろのこと。

コンサート会場でテロの可能性のある爆発事件というニュースに、
私はベッドから飛び起き、誰のコンサートなのか? と慌てて調べ、
アリアナ・グランデのコンサートだとわかった時に、大変なことが起きてしまったと青ざめた。

2016年5月20日にリリースされた、3rdアルバム『DANGEROUS WOMAN』が好きだった。
「INTO YOU」のセクシーなMVが好きで、この曲をきっかけにアルバムを手にした。
自分の中の女性性が、気持ちよく刺激されるので、
今日は何を着ていこうかな? と考える時や、いつもよりマスカラをしっかり塗ろう! と鏡に向き合っている時など、
女としての私を意識する時によく聴いている。
だから、8月の来日公演が決まった時も、観てみたい! とわくわくしていた。

世界中の女の子たちに、絶大な人気を誇る彼女のライブでテロ事件が発生し、若い人たちが犠牲になった。
ライブが終わって、一番幸せな笑顔に溢れている時に起きたテロ。
音楽のライブで何度も人生を救われてきた私にとって、こんなに悲しいことはない。

同時に、この事件がマンチェスターで起きたということも、ショックだった。
マンチェスターは、OASIS、New Orderなど、私が多大な影響を受けた大好きな音楽がたくさん生まれた場所。
その地で、音楽が標的にされたということに、胸が痛くてたまらなかった。

ニュースの続報が気になって、家の中ではBBCのラジオを聴き、
iPhoneにはBBCからのニュース速報が通知されるように設定した。

そのニュースの中から、アリアナ・グランデが、マンチェスターに戻り、
2017年6月4日に、テロ被害者支援のチャリティーコンサート、
『ワン・ラブ・マンチェスター(One Love Manchester)』を開催することを知った。

このテロ事件は、先月、COLDPLAYの「Adventure of a Lifetime」を選曲して、「世界はこんなにも美しい」と、
音楽がもたらす世界の美しさと平和を書いた直後の私にとって、心の中がぐちゃぐちゃになるくらいの衝撃を受けた。

One Love Manchesterには、そのCOLDPLAYも出てくる。
それだけではない。Justin Bieber、Pharrell Williams、The Black Eyed Peasなど、
錚々たるミュージシャンが出演を表明した。

チャリティーコンサートは、BBCを始め、Facebook、Twitter、YouTubeなど、様々な方法で生中継される。
日本では、夜中の3時から開始だった。

ライブ中継が始まり、ツイッターで、ハッシュタグ#OneLoveManchesterを辿ると、
世界中のありとあらゆる言葉でツイートがスタートしていた。
一つのコンサートで、こんなに多言語が飛び交う状況を見たことがない! と思うくらいに、
言葉が溢れていた。

そして、アリアナ・グランデがステージに登場した。

このコンサートに出演したアーティストのほとんどが普段着のようなファッションだった。
それは、彼らの行動の早さを象徴すると同時に、
私たちはあなたたちと一緒だと語りかけるメッセージのようにも感じた。
アリアナ自身もジーンズに、One Love Manchesterのトレーナーというスタイルでステージに登場した。
あのテロの後に、彼女が初めてステージに立った。一体、彼女は最初に何を歌うのだろう? と思った。

イントロが聴こえて、「BE ALRIGHT」だ! とわかった瞬間から、涙が出た。

「BE ALRIGHT」 を歌う彼女は、美しかった。
とても綺麗で、かっこよくて、空高く舞い上がるような歌声の響きが、会場にどんどん笑顔を生んでいく。
会場にいる人だけではない、生中継を通して見ている人達の心をどれだけ光へ導いていったか。
彼女の姿が世界を美しくしていくことを感じずにはいられなかった。

“We will be alright”

「大丈夫」
私自身も、大切な人が不安でいる時、悲しそうにしている時、苦しそうにしている時、この言葉をよく使うようにしている。

かつて、私が不安でたまらなかった時に、「大丈夫、大丈夫ですよ」と言葉を繰り返して、落ち着かせてくれた人がいた。
その時の経験から、私は、大切な人が泣いている時ほど、「大丈夫、大丈夫だよ」と繰り返す。
優しさを知ったから、私は優しさを伝えることができるようになった。

彼女が歌う「BE ALRIGHT」にどれだけの人が、安堵を取り戻したことだろう。

アリアナはステージにその姿を見せてから、オーガナイザーとして、出演アーティストと多くのコラボレートを行った。
その中でも、テロ事件後の追悼集会で、マンチェスターの人達が自然発生的に歌った、
地元出身のバンド、OASISの名曲、「Don’t Look Back In Anger」を、
COLDPLAYのクリス・マーティンと共に歌ったシーンには、特に胸が震えた。二人が歌う背中には、慈愛が溢れていた。

COLDPLAYのライブの後に、サプライズで、OASISのリード・ヴォーカル、リアム・ギャラガーが登場した。
前述したように、OASISは自分の人生にとって欠かせないバンドだ。
だから、彼が、OASISの1stアルバム『Definitely Maybe』の1曲目「Rock ‘n’ Roll Star」を歌い出した瞬間、
私は、目の前で何が起きているのかわからないような興奮状態になった。
「Live Forever」を歌ってステージを去るまで、家の中だというのに、私はOASISのライブでいつもそうしていたように、
一緒に歌った。

アリアナ・グランデが中心となって行うチャリティ・コンサートということで見ていたが、
気づけば、まるで自分の音楽人生が凝縮されたようなライブを目の当たりにして、
私は、世界の中で起きたことという視点と共に、自分の中にある音楽という存在の意味を、
深く考えずにはいられなくなってしまった。

多くの素晴らしい音楽が生まれたマンチェスターで、音楽を標的にしたテロが起こり、悲しみと痛みに突き落とされた。
しかし、アーティストたちは愛と共に音を奏で、もちろん、マンチェスター出身のロックスターも歌い、平和を取り戻した。

“テロ”という今、この世界に現実として起きている深刻な問題に向き合い、
ワールドワイドで人気のあるアーティストが集結して、音楽を通して、愛を伝えるコンサートを行った。

このことが、私たちが生きていく世界で、これからどんな意味を持つのだろうか。

私は音楽が好きで、ラジオのDJになった。
そして、難民支援をきっかけに、世界に思いを馳せ、自分が出来ることで伝えたいと活動している。
そんな私にとって、One Love Manchesterは、あまりにも大きなものを惹き起こした。
伝える上でのヒント、頭にひらめいたアイディア、そして、自分がそれらを大事にしていく上で、
どういった人達と生きていきたいかということまで、その影響は計り知れない。

One Love Manchesterの中継を見終わった朝、
私は、そのままの気持ちを言葉にして、コンサート映像の動画を添えて、今自分が伝えたいと思う人に送った。

そのむき出しの言葉は、後から読み返してみると、随分恥ずかしさもあって、
あぁこんなことを送って良かったのだろうかと、
いつもの月曜日のアラビア語の授業中にも、感情がぐるぐると落ち着かないでいたのだが、
授業を終えて、iPhoneの電源を入れると、
音楽のすごさを実感できましたね、めちゃくちゃよかったですという、言葉が次々に返ってきていた。

自分には理解者がいる、と思えた。
それは、私に安心と力をもたらしてくれる。
私の平和は、共に音楽を愛する理解者の存在で築かれている。

テロと戦う。そんな言葉はあのステージで誰も言っていない。
もうそんな向き合い方では、世界が救えないことに、地上での平穏を望み生きる人達は、気づき始めている。

優しさと寛容の中で、理解し合うということ。
そこに音楽が在ることで、それはより可能へと近づく。

大丈夫、まだ間に合う。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜16秒”に乗せて)

チャリティー・コンサート、One Love Manchesterを開催し、
COLDPLAY、OASISのリアム・ギャラガーなどと共に、テロ被害者への支援を行ったアリアナ・グランデ。

あのテロ事件後に、彼女が初めてステージで歌ったのがこの曲でした。
大丈夫、私たちには音楽という愛がある。

Ariana Grande「BE ALRIGHT」

武村貴世子

武村貴世子

ラジオDJ、MC、ライター。
これまで、FM802、Fm yokohama、FM-FUJIなどで番組を担当。

ラジオ番組、司会、ライター、トーク&アナウンス講師はもちろん、
朗読と音楽のコラボレーションライブも展開中。

国連UNHCR協会 国連難民サポーターとして、
難民支援を始め、世界や社会への関心が深く、社会貢献活動にも積極的に取り組む。

また、タロット・リーディングの学びも深め、
フリーランスでその活動の幅を広げ続けている。

Reviewed by
宮本 英実

マンチェスターでテロが起きた。それがアリアナ・グランデのコンサートだったと知った時、そのあとすぐにアリアナがその地に戻りチャリティコンサートを行うと知った時。誰かと話したかったことがたくさんあった。独り言のような、でも誰かと共有したいようなことが小さなことが、たくさん。そんな思いが残っていて、武村さんの文章を読みながら、うんうんと頷いて、またアリアナの曲を聞いた。やっぱりそばには音楽があった。

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