「美しい世界への始まり 」【BAROQUE「PUER ET PUELLA」(2019年7月30日リリース)】

長期滞在者

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「この曲、良いですね」

最初に話したのは音楽の感想だったのに、
それをきっかけに、お互いが胸に隠していた思いが、言葉として吐露されていくことがある。

一つの曲の素晴らしさへの「共感」が鍵となって、固く閉ざしていた心の扉が開いていく。

この曲があったから、この人と確かな言葉を交わすことができた。

自分の人生で「大切だ」と思う出会いや、自分がここにいたいと思える美しい世界は、
音楽が導いてくれることばかりだ。

随分と頭の中が重たい日々を過ごしていた。

明かりをつけることすらも面倒になってしまった部屋で、
眠る前のクセになってしまったように、
何の感情もなく人差し指でスマートフォンの画面を動かしていると、
24時間限定で公開になっている、ミュージックビデオの情報が目に入った。
すぐにその動画を再生した。

初めて聴いたその楽曲は、みるみるうちに私の心にずしりとのしかかっていた、
誰にもぬぐえないと思っていた苦しみから解放してくれた。

今すぐこの曲の素晴らしさを伝えたい。
深夜にも関わらず、私は曲を聴いてこみ上げた感情を一気に書いて、ツイッターで投稿した。
そして、この曲を聴いて欲しいと思う人たちに、一斉にメールを送った。

今年発表された楽曲で瞬時にこのような気持ちに駆り立てられた楽曲は今のところ、
BAROQUE「PUER ET PUERA」だけである。

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2011年12月。
当時DJを担当していたFM-FUJI「ROCK IN BOOTS」にBAROQUEをゲストとして迎えることになった。
私はそれまでBAROQUEの楽曲を全く聴いたことがなかった。
そこで、BAROQUEを尊敬している友人に相談して、持っている楽曲を全て送ってもらい、
その時点で聴くことができる全音源を聴いて番組収録の日にそなえた。
彼らのライブを初めて観たのは、翌年、2012年1月6日のTOKYO DOME CITY HALLだった。
想像以上に真摯なライブスタイルで、
特に「ヒトのイロ」から「exit」に続く世界観に吸い込まれるように魅入ってしまったことをよく覚えている。

BAROQUEのギタリストである圭さんと話したのは、たまたま席が隣だったからだ。

2014年11月。
赤坂BLITZにJさんの主催イベントを観に行った時のことだった。
話しかけられるまで、私は隣に座っていたことにすら気付いていなかったのだから、
あの時、圭さんが声をかけてくれなかったら、今につながっていなかっただろう。

複数のバンドが出演するイベントだったので、ライブの転換の間に話をすることができた。
その時に初めて、圭さんが、世界のこと、難民のことに関心を持っていることを聞いた。

そこから、じっくりと話す機会を何度か続けてきた。

難民問題に関心を持ってくれるミュージシャンなどから声をかけられることは少なくなく、
それならばと、2017年に、国連UNHCR協会の会議室で、表現者たちと集まって「アーティスト勉強会」と称して、
月に一度、共に学びを深めた。圭さんは、この勉強会に毎回必ず出席していた。
学生たちの難民支援アイディアのコンペティションにも審査員として参加してくれた。

その中で、圭さんは、この世界の現実を知ることで生まれた感情を、彼なりの言葉で語ってくれていた。
時に戸惑い、迷いながらも、懸命に何かを手探りで、その本質をつかもうとしていた。

2019年7月30日。
BAROQUE、4年ぶりとなるニューアルバム『PUER ET PUELLA』がリリースされた。

この作品に収録された「PUER ET PUELLA」という楽曲を最初に聴いた時に、
あぁこれは、この数年間で圭さんが自身が生きた道の中で経験し、感じ、目にし、葛藤し、
強烈な痛みや悲しみの中で見つけてきた感情と言葉たちを、音へと昇華させた曲だと思った。
また、圭さんが敬愛する、世界の現実と向き合い、音楽を表現している世界的ロックバンド、
U2からの系譜を感じずにはいられなかった。

そして、何より、この楽曲はヴォーカルの怜さんの歌声が、曲に込められた並々ならぬ思いを鮮やかに飛翔させている。
そのことに私は、怜と圭という2人のミュージシャンで形成されている、BAROQUEの豊かな信頼関係を感じた。

アルバム『PUER ET PUELLA』は、表題曲「PUER ET PUELLA」に象徴される、
この世界を大きく包み込むような優しさと美しさにあふれる壮大なスケールの曲だけではない。
飛び跳ねてしまいたくなるようなわくわくとしたきらめきあふれるナンバーや、
ヴィジュアル系と呼ばれる世界で尖った存在でいた彼らのエッジが研ぎ澄まされたロックチューンなど、
BAROQUEが2001年に産声をあげてから今に至るまでの、
怜と圭が抱く惜しみない音楽への愛情と探究心が一つ残らず内包されたアルバムである。

彼らは、今の自分たちが挑戦してみたい音楽には果敢に取り組み、
そして、自分たちの音楽を愛してくれている人たちに最高の笑顔が生まれる瞬間を真っ直ぐに願って、
音楽を生み出している。

私がこのアルバムが好きだ、と思った理由はそこにある。

人は生まれたときには何も持たない。

人は死ぬときにも何かを持っていくことはできない。
もしも何かを持っていけるとしたなら、己に刻まれた記憶だけだろう。

この世界に生まれて、全ての時を終えて、振り返った時に思い出すのは、
私は誰かと出会ったことで生まれた喜びや幸せなのではないかと思う。

アナタトデアエテワタシハシアワセデシタ

自分の根底に常にあるのは新たな音楽への冀求だ。

新しい曲が聴ける瞬間には、これまでに聴いたことがないような嬉しい驚きを求めている。
音に触れて喜びで心が満たされることを望んでいる。

あなたに出会えて幸せでしたと思うように、
私は人の手が紡ぎ出す音楽にも同じような感情を抱いている。

私にとって「PUER ET PUELLA」はそういう曲だ。

世界の現実は、決して優しくない。
けれども、痛みも悲しみも、残酷さも知ったからこそ、あきらめないで求める優しさと愛がある。

それは一人では決して辿り着けない世界だ。

この手に、この音楽を携えて。
あくなき探究心と共に。

美しい世界へと。

【ラジオDJ武村貴世子の曲紹介】(“♪イントロ〜1分15秒〜1分47秒”に乗せて)
それではここで、7月30日にリリースされた、
BAROQUE、4年ぶりとなるニューアルバム『PUET ET PUELLA』から1曲お届けしましょう。

このアルバムにはこんなコンセプトがあります。

「この世に生を受けて成長していく少年と少女
時に不条理な現実世界を生きる
人との関わり合いの中で見つけたものと失ったもの
最後にその心に描くヴィジョンはどんな景色だろうか。」

人は何も持たずに生まれてきます。
そして、光を知り、色を知り、言葉を知り、誰かと出会うことで、その人生を形成していくのだと思います。

愛情に包まれて、笑顔にあふれる毎日も、
時として、なんでこんなことが起きるのかと納得できない出来事に、
打ちのめされ、悲しみで前が全く見えなくなる日もあるのが、人の生涯ではないでしょうか?

この「PUER ET PUELLA」という曲を初めて聴いた時。
私はまさに、この先の未来が全く見えなくなる不安と暗闇の中にいました。

けれども、今私が言葉を乗せているこのイントロを聴いている時に、
その暗闇を未だ感じたことのない風が吹き飛ばしてくれるような感覚がありました。

あぁこれは私が今までに聴いたことがない、新しく出会える世界が広がる音楽だとわくわくした気持ちになりました。

そして、今、ここで鳴ったドラムの音に、はっとしました。
どんどん音への意識が高まる中、ヴォーカル怜さんが、どんな歌声で、どんな言葉からこの曲を歌い始めるのだろうと、
どきどきしながら、聴き進めていました。

さて、まもなく、この曲の歌声が響きます。
あなたはその歌い出しから、どんなことを感じるのでしょうか?

あなたにとって、この曲との出会いが、
美しい世界への始まりとなりますように。

BAROQUE「PUER ET PUELLA」