3月の初めに、「音声日記を送り合うだけ」のライングループができた。全員が全員の顔を知っているわけではない、雑多なグループだ。夜になるとぽつぽつと投稿される誰かの一日を開いて、その人の声に、静かに浸る。思いを馳せる。
Aさん
2018年3月1日、23時34分、天気はれ。私はこれからの録音を、多分3分か4分か5分きっかりに切って、タイトルは1から31までにして、毎日の良かったことを、主に良かったことを、話していこうかなって思っています。今私は京都にいます。京都のゲストハウスの中庭の縁側に座って、右足を上にした足組みをして、録音をしています。京都にはパーちゃんときていて、9時ぐらいに家を出て、で、あの、新幹線のチケットを取ったのも昨晩だったし、本当に弾丸っぽい感じで京都に来ました。観光のためです。で、京都に着いて、スッゲー重い荷物を二人で背負って、二条城っていうお城まで、ひたすら歩いてました。で本当に面白いことに、お昼と夜ごはんどちらもオムライスを食べました。そのお昼に食べた方のオムライスが私の中で、人生で6番目ぐらいに美味しいオムライスで、中がケチャップライスで、薄焼き卵で、ケチャップが、こう、反復横跳び式にこう、かかってる、みたいなオムライスで、すごいスタンダードなオムライスで。や、美味しかったあ。あ、良かったこと。良かったこと、オムライスが美味しかったこと。夜の方も美味しかったこと。で、あと、ゲストハウスがすごい素敵なところ。そのゲストハウスのあの、リビングが素敵で、ソファの色が最高に良くて、緑色の、黄緑色の苔みたいなソファなんですけど、良くて、天井も高くて、中庭には木が一本あって、風鈴があって、オーナーもすごいいい人っぽいし、明日も泊まりたいなあって、思ってます。あと二条城っていうお城が、スーーーッゴーーイかっこよくて、外壁が水色、なんですけどね、その水色が、ちょっと錆びた感じの、多分金属が、風化してちょっと深みのある、ターコイズ色みたいな、色になっていて、それがすごい良かった。なんだろう、家の布団をあの色にしたいなってぐらい、綺麗な色で、すごいかっこよかった。あとフツーに、京都に友達と来れたこと。あああと、9時までに書かなきゃいけない文章があって、それをギリギリに提出できたこと。かな。以上。早くお風呂に入りたいなあ。
Bさん
3月2日。舞台を見に行った。地点という劇団の、正面に気をつけろという舞台で、なんかめちゃくちゃすごかった。バラバラのパズルのピースをものすごい勢いでぶつけ続けられるみたいな舞台で。最初は何が起こっているのか全然わからなくて、言葉を聞き取るので精一杯で、でもだんだんぶつかってきた言葉がはまっていって、最後までそのパズルの完成図は見えないんだけど、うっすら、めちゃくちゃな、あのアレ、風刺画、みたいな。巨大な塊が見えてくる、みたいな舞台で。見終わった後、鮃ちゃんと二人で、呆然として椅子に座りっぱなしになってて、周りにいた人がみんないなくなって、ようやく我に返って、煙草に吸いに行ったけど、体の震えが止まんなくて、気づいたら灰がめちゃくちゃ長くなってて。初めて、舞台をみてこういう感覚になったなあっていう舞台だった。舞台そのものは、戦争で死んだ兵士たちの霊がその自分の生きていたことと死んだことを語りながら、それが現代を生きる人たちとリンクしていく、っていう内容で。舞台はコンクリ打ちっ放しで、舞台っていう舞台はなくて、デハケもなくて、ただ椅子が並べられている前に、照明と、ギターとベースとドラムがあって、一番壁際から1.5メートルぐらいのところに60センチ幅ぐらいの溝があって、溝の中は鏡ばりになっていて、天井からは、その溝の向こう側だけは、たくさんの裸電球がぶら下がってて、全部の裸電球に、お子様ランチの上にのってるみたいな日本の旗が二つづつ付いてて。上手の奥にドラムセットがあって、溝を挟んで手前にベースがあって、下手の手前にギターがあって、多分それはその音楽をやっている人たちとのコラボの舞台みたいな感じだったんだけど。生演奏で音響をつけていって、音楽が途切れている時に喋ったり、どんどん楽器の音が大きくなっていって役者の声をどんどん聞かさなくしていったりしていて、ライティングはその裸電球とオレンジのスポットと、あと赤いサイレンみたいなのがあって、多分あれも意味があったんだろうけどよくわかんなくて。役者がひたすら喋っていて、喋っているというより叫びに近くて、最初は何を言っているのか全然わかんなくて、だんだんそれをイメージさせる言葉をところどころに入れていって、同じことを何回も聞かされているような気がするけど、目の前で起こっていることは全部違っていて、繰り返しではなくて。多分、作演が言いたかったことを100パーセント分かったとしたら、文章に起こされて読んでしまったら、それは一人の人間の思想として、めちゃくちゃ客観的にみて読んで「まあこういう人もおるよな」みたいな気持ちになったんだろうけど、舞台としてジワジワ目の前に現れて、完成がよくわかんないまま、でも一つ一つの言葉は、すごく、わかるとこがあって、全部が100パーセント、受け止めることはできないんだけど、ジワジワ自分の中に共感が生まれていって。それが逆によかったのかもしれない、って思った。70パーセントぐらいをわからせて、30パーセントの共感で埋めた、みたいな。舞台セットもよかったし、役者のエネルギーが何よりすごかったし、何が起こったのかわかんなくて、帰りのバスを探すのも億劫になって、二人でタクシーで帰った。タクシーの運ちゃんがめっちゃ気のいいおっちゃんで、色々話しかけてくれたけど、鮃ちゃんが完全に放心状態になってて、なんか気まずいなって思って適当に受け答えをした。ほんとは、今日は舞台を観る前にもっといろんなことがあって、舞台を観る前の時点で、とっくに精神のキャパシティを超えていたんだけど、それがめちゃくちゃ昔のことに思えるぐらい、すごい舞台だった。終わった後に、カフェスペースみたいなところがあって、そこで役者とか演出家とか普通にいて、喫煙所に行ったら、役者に囲まれて普通に話してて、「今日は下に寄り過ぎてた」とか「練習の時から寄り過ぎてたかもな」とか、めちゃくちゃ客観的に整理し直してて、かなわねぇ〜って思った。以上。これは、もうちょっと整理がついたらもう一回話したい話。追記、昨日見た夢がめちゃくちゃ面白かった。
Cさん
こんばんは。田中志遠です。今日は、あの、銀座にある丸源ビルってところに行ってきました。で、なんか、丸源ビル、あそうや、こないだ、昨日かな、話した、ビルなんですけど、その今日行った銀座のビルがやばくて!何がやばいって、あの、バブルの時にできたビルでボロボロなんですけど、銀座にある、ボロボロのビル。地下に降りる階段があるんですよね。で、そう結構怖くて、暗くて、地下に降りる階段があって、その階段を降りたら、なんか、なんつったらいいの、すごい、なんかバブルの時代に流行ってそうな、西洋の彫刻風の石膏像、銅像、彫金像、みたいな。のがいっぱい置いてある大広間みたいなのがあって。そこ元々はなんかテナントが入ってた場所なんで、あの自由に入れちゃうんですよね。で、自由に入れるんですけど、そういうのがいっぱい置いてあって、そこだけちょっと薄暗く、青白い電気がついていて、正直めっちゃ怖かった。めっちゃ怖かった。っていうのも、ずっと使われていないところやから、なんか、なに、人間が入った痕もないし、んー。でも銅像たちは多分ずっとそこにいるんでしょうね。だから馴染みすぎてて、むしろ、銅像たちが「なんでお前らきたん」みたいな、目線をこっちに送っているような。わ、すみませんちょっと通知が来たけど。ような気すらして。やばかったなあ。よかったらこの後に座標を、場所の座標を送るんで行ってみてください。その座標の、地下一階なんで。では、今日は以上です。ばいばい。
Dさん
はいえっと今日は、また個展なんですけど、えと、今日、何から話せばいいんだろうな。個展終わったあと、ぴらめたんちに行きました。楽しかった、なんか。米食べたい、あと肉と野菜食べたい、って言ったら、お味噌汁と、大根と煮たのと豚肉のやつを作ってくれて、おいしかった。ぴらめたんだいすき。フフ。いや別に食べ物を恵んでくれるとかではない。旅行一緒に行きたかったなあ。個展があと一週間ぐらい遅かったらなあ、一緒に行きたかったなあ。個展はすごい楽しい。けど、でもなんかめんどくさいお客さんとか、あでも、めんどくさい、めんどくさいけど、でもなんか私に会うことを、なんか、なんだろうな、変なお客、変なお客? なんか前も来てくれて、絵を買ってくれて、昨日も来て今日も来た、おっさんがいて、そのおっさんは割とみすぼらしい服を着てて、あなんか又吉に似てる!又吉に似てる風貌の、7時30分ぐらい、閉館30分ぐらい前に着て、閉館の時間までいて、っていうおっさんがいて、別になんかすごいデレデレしているとか、そういうわけじゃないんだけど。なんかちょっとはにかんで、「ンフフフフ」みたいな感じで、昨日も不二家のペコちゃんの絵柄が入ったお菓子をめっちゃくれて、差し入れに。それは嬉しいけどなんか、昨日、絵を、二つ買ってくれて、シール……じゃないやポストカードも、そんなに迷うこともせず、何枚か「ガサッ!ガサ、ガサッ!」って持って買っていって、でもなんか握手してくださいとか一緒に写真撮ってくださいとか言われるわけでもなく、ただ絵を純粋にみて帰っていくから、別にそんなに変な人ではないんだけど、ちょっと、怖い。なんか感想のノートに昨日は、「パンってスゲエ!」っていう吹き出しがついた、なんか少女漫画風の女の子の絵を、一生懸命スマホをみながら書いていって、今日また7時半ぐらいに来て、「また来ました!」みたいな感じで来て。オススメのパンを教えてくださいっていうコーナーを作って、書いてもらう、っていう試みをしているんですけれど。昨日来た時に、そのパンが思い出せなくって、その人が。「パン屋で売ってる60円ぐらいの小さいパンってなんていうんでしたっけ」みたいな。(え、なんだろう、あんドーナツとか? なんだろう)ってすごい考えたけど、私全然わかんなくて。パン屋にある60円ぐらいの小さいやつぅ!?みたいな感じじゃないですか。で、「ちょっとよくわかんないんで明日また来ます」って言われて、(明日また来んのかい)って思ったけど、「あ、ありがとうございますう」つって。で、今日また来て。「なずなさん分かったんですよ僕の好きなパン!」つって、ニッコニコでコーヒーブッセを出してきて。しかもコンビニで売っているような普通のコーヒーブッセで。(ブッセッッッ)って思って。(ブッセってパンなのぉ!?!? パン……、かなあ……。パンなのかアレ。パン屋で売ってるとこみたことないぞ)って思ったけど、「ああ!ブッセなんですかあ!」みたいな、とりあえずなんか、エ、ブッセナンダ、ワア、みたいなことを言って。その人がブッセ二つくれて、(ブッセ……)っていう気分になった。ハハハ。その紙にも、コーヒーブッセって書いてくれて、でまた、じっくり絵を見てくれて。帰りがけに、2回目の感想ノートを書いてくれて、「今日でとりあえずもう来れないので、なずなさんに好きなパンをお伝えすることができてよかったです」(ま、パンじゃないけどなブッセだけどな)って思ってたんだけど、その下見たらなんか、5センチぐらいのブッセの絵が書いてあって、コーヒーブッセって書いてあった。すごいなあ。あーゆー人ちょっと怖いけど、でも仕方がない、お客さんだし。あとぴらめたんとぱるぱるが個展にきてくれて嬉しかった、びっくりした。来てくれないのかなあって思ってたから。嬉しかったなあ。
Bさん
3月5日。えー。すっごい久しぶりに役者の練習に行って、めちゃくちゃあざができて疲れた。バイト終わって、なんか店から出て5秒ぐらいで傘がバッキバキに折れて、いやなんか傘を忘れて大学の世界堂で買った、ビニール傘だっんだけど、その時たまたま遠藤明子の展示をやってて、遠藤明子コラボ傘、みたいなのが売ってて、傘がなくて、傘を買いに行っただけなんだけど、図らずとも遠藤明子グッズを買ってしまって、その時。そん時は「まあ普通に傘欲しかっただけなんですけどね」みたいな思ってたんですけど。今日傘が即バキバキに風に負けてしまった瞬間、そこそこ大事な傘だったんだなあって思った。そういうことが多い。寝ます。以上。
Eさん
3月7日の夜。今日は私にとって、もうこれまでずっと悩んで来たことへの区切りをつけに、バイト終わった後、区切りをつけに行きました。ずっと、悩んでた、ことに自分の中で答えが出て、それを伝えに行ったんですけど。んー、思ってた「こうなるだろうな、こういう風に今日は終わるだろうな」って予想していた結果には、まるでならなくて、予想外のことが起きて、結局今日区切りつけるはずが、つけられず、帰って来ました。んー。本当に、事前にこっちが「今日はこうなるかなあ、ああやっぱりこうなるかなあ」とか何個か、予想したことって、見事に裏切ってくるなあって、見事にそうならないなあって、人生、そういうもんだよなあって、最近つくづく、思います。ああでも、もう、今週中には、これまでずっと悩んで来たことが、片付きそう。全部終わったらお話ししたいなあって、思ってます。もうなんか、感情がぐちゃぐちゃで、てか、ぐちゃぐちゃを通り過ぎて、途中からちょっと無、無。虚無。状態になって、帰りの電車も今も、そうなってたんだけど、ぱるぱるの今日の音声日記を聞いて、もうほんっとうに嬉しくて。嬉しいし、癒されて。鮃ちゃんとはたまに舞台見に行ったりして会ってたけど、もうみんなとは二ヶ月、もしかしたら三ヶ月ぐらいもう会えてなくて、なんかたまに、すっごい急に、ずーっとこのままもう一人でやっていくのかなあって、考えて、やるせない気持ちになることとか、この春休み何度かあったから、こういう風に「会いたい」とか言ってくれるのは、本当に嬉しい。すごく、救われた。ありがとう。ありがとう。ほんとうに。私の周りには、常に、しっかり、自分はこういう風に生きたいとか、こういう風にはなりたくないとか、自分の中でしっかり、芯があって、だからこそ、周りの人とか世の中に対して疑問とか怒りとか抱く人がたくさんいて、私はそういう人に会うたびにすぐ流されるというか、そうだよねえって共感してしまう自分が情けなって、羨ましいって思って、すごくそういう友達を見ると、いいなあかっこいいなあって思うけど、でも本当、そんな、そんなかっこいいものじゃ本人たちからしてみればなくって、本気で悩んで本気で苦しんで本気でぶつかって、毎日毎日毎日毎日そういうのと戦っているんだろうなあって。うん。でも私みたいな、人からしたらその姿ですら、その姿が、すごく魅力的に見えるんだよっていうのを、最近脚本にしたいって思っていて、すごく黙々と思い描いています。もう今回、スタッフやって思ったけど、私はスタッフはもうやらない。向いてない。向いてなくないけど、やっぱり私は脚本を書いて伝えて相手に届けて、それか役者をやって、誰かの人生を歩んで、同じように身をもってお客さんにその子の伝えたいことを伝えるっていうことを、そのどっちかをやりたいんだなあって、今回の舞台関わって、強く、気づけた。気づくことができた。はやく、会いたい。この春休み、確実に、ちょっとだけど、また自分がやりたいこと、自分がどっちの道に進みたいのか少しずつ絞られて、見えて来てよかったなあって思っている。やばい、もうこんなに喋ってしまった。今日はこの辺で。明日は、ちょっと早起きしないといけないから、今から急いでお風呂に入ります。おやすみなさい。
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夜のアパートとか、マンションが好きだ。一つ一つのオレンジの光の向こうに、それぞれの日常があるのだと思うと、たまらなく愛おしくなる。