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3F/長期滞在者&more

空いているという価値

長期滞在者

この週末は、近くでアートブックフェアが開催されていたこともあり、うちのギャラリーでもお揃いの肩掛け袋を下げたお客様をたくさんお見かけしました。

今年は企画展の会期中ということもあり、会場に足を運ぶのは叶わなかったのですが、SNSのタイムラインに上がってくる会場の雰囲気をみると、超満員です。近頃は上野の美術館に行くのでもチケットを買うのに並び、中も大混雑というのは当たり前になってきました。美術に対して多くの人たちが関心を持ってくださるのはとても嬉しいことなのですが、さすがに年の瀬のアメ横を思わせる人混みの中で視覚表現の小さな声に耳を傾けるのは難しく、何となく足が遠のいてしまいます。

東京を遠く離れてひとり旅を楽しもうと思ったら、やってきた2両編成の列車が超満員だとがっかりします。「ローカル線は人が乗っていないことにも価値がある」という意見があります。ギャラリーや美術館もお客様が来てくれないと困りますけど、本当は人がいない静かな会場も素晴らしいと思います。

平日などは、午後6時ごろになると、仕事帰りに寄ってくださるお客様でとても混み合う時もあります。時々閉館直後に残っていたお客様に、誰もいない会場にもう一度ご案内することがあります。多くの方が脚を運ぶ賑やかな会場もいいのですが、機会があれば、まるで作品が自分のために、目の前にあるかのような体験も味わってもらいたいのです。誰に気兼ねすることなく、作品の並び順も無視して、気になるイメージを行きつ戻りつする自由や、しばしその場に佇んでぼんやりと目の前のイメージを眺めるというような濃淡のある時間の使い方は、普段の暮らしの中で作品とともに暮らしている感覚に近いものがあります。作品を自宅に迎え入れることとは、インテリアとして部屋を彩るひとつのピースとして隙間を埋めるようなものではないし、常日頃ガン見するために買っているわけでもなく、自分の性に合ったやり方を実践する作家さんのモノと、一緒に暮らしているという実感が心地よいのです。だから見たり見なかったり、その場で眠たくなったり、ハッとしてまた目の前の作品に目をやったりすることから、今まで出会ったことのない感情が芽生えるかもしれないし、冊子では眼を惹いたはずの強い表現が、長時間観ることに耐えられないことを知ったり、極端に展示数がすくなく、色数も控えめな静謐な表現が、実はものすごい力を秘めていることに気付かされたりすることもあります。

最近のルーニィは、時間帯によっては、とても混んでいますが、それでも一日中ひっきりなしに人が訪れるわけではありません。半休を取った早めの午後、ぜひ静かなギャラリーに脚を運んで、自分のお気に入りの作家さんをみつけに来て欲しいです。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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