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3F/長期滞在者&more

コロナの夏

長期滞在者

この数ヶ月間で確実に生活のルーティーンが変わってしまった。

当たり前のように仕事場に向かい、休みもせいぜい2ヶ月に一度くらい、という生活が20年あまり続いていた。2011年の震災の後だって、ほぼ毎日仕事場に足を運んでいたのだ。zoomをはじめとするオンラインミーティングが急速に普及して、ギャラリーの仕事であってもいつの間にか店頭に出てやるべきものと自宅でやったほうが効率が良い仕事に切り分けるようになった。

在宅ワークなんて、自分には関係のない別世界のことかと思っていた。

5月の下旬ごろまではコロナの後始末的な事務作業や、補助金の手続きなどに忙殺され、その後も、ミーティング、作家との打ち合わせ、新しい企画やサービスの開発などが続き、密状態を避けるために、自宅で仕事をしているうちに、今手掛けている仕事の大半は、わざわざ都内の仕事場に出かける必要がないことに気づいたのだ。今さらなんだ、と思うかもしれないが、元々やり残した仕事を自宅に持ち帰ることもしてこなかったので、それはそれで、オンオフの切り替えにはなっていたのだ。

そういう訳で、かつて毎日のように元気よく出勤していた僕は今は週に2日顔を出す程度だ。

仕事が終わった後の夜の大半は、仕事場の近くで食事をとり、遅くまで残ってくれたお客様や、居合わせた馬喰町界隈の住人たちと色々情報交換をしながら楽しく過ごすのが普通だったが、それさえも、今や朝、昼、晩、自宅で食事をとるし、お酒もあまり飲まなくなった。そしてそれが苦痛でなく、こういう生活も楽しいとさえ思えるようになってしまった。居酒屋に行けなくて寂しいなんて、今は全く思わない。

こうなってくると、今まで楽しく過ごさせてもらった裏千代田の街には申し訳ないが、今までのように、気軽にあちこち訪れる頻度が減ってしまい、外出自粛が解けても変わらないような気がしてきた。

昭和の頃のように、外食はハレの日のご馳走であれば良いのかもしれない。

そもそも今は、仕事を離れて、気軽に誰かを飲みに誘えるような状況ではないのも事実で、そうなると、若者たちばかりが、今になってコロナの感染が再び広がり始めているのも納得できる。

そうなると、やはり外出自粛が解けたとはいえ、サービス産業は本当にキツイと思う。家の外でお金を払ってひとときの楽しみを享受することが多くの人々にとって、積極的かどうかはともかくとして、優先順位が大きく下がっていることは間違いないのだ。

かくいう、ぼくたちギャラリー経営にしても人ごとではない。大急ぎで目の前の足元を固めながら、近い将来の場のあり方についても、大きな転換期に差し掛かったことは間違いない。

これは、運営の手法だけではなく、おそらく取り扱う作家の属性をも大きく転換する必要に迫られているのだ。それが嫌なら、別で大きく稼いで、今では死語と化した企業メセナ的に、先鋭的にやりたいことを収益度外視で金をつぎ込むしかないだろう。

ただ、20年以上続けてきた今までのギャラリーの仕事を大きく変えていく必要があることは、数年前から感じていたことで、このコラムでも、2年以上前にそのようなことを述べてきたつもりだ。コロナに関係なく、ギャラリーと作家さん、あるいは作品、そしてそれを受け止めてくれるお客様との結びつきは、大きく変わっているし、それが商業的なギャラリーであればあるほど、場を持って、それを維持していくことの根本的な意義を問い直す時期が来ているのだ。

ぼくからすると、いよいよそれがやって来たかという思いなのだ。

何かを変えよう、と一念発起して、新しい様式に変えることはいくらかの苦痛を伴うものだ、

しかし、抗えないほどの大きな出来事は、躊躇する暇もなくそれまで、生活もビジネスも一変してくるれるものだとつくづく思う。

それにしても、 ギャラリーで作家さんやお客様を交えて、ワイワイとレセプションパーティーができるのはいつになることかと思う。冬でも冷房を最強にしないと暑いと感じるほど人が集まる機会など、ずっと先のことなんだろう。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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