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レモンクリームパスタ

図書館の中の暴風

茱萸さん、こんにちは。

佐渡に帰ってきて、二週間が経ちました。一昨日、ドーナツ送るよって連絡したときに、茱萸さんが超・喜んでくれてかわいかった。

昨日、ちょっと具合が悪くて、それは単に風邪なのか、もしかしたら猫アレルギーなのか(そうではないことを祈る)、埃っぽい場所を掃除したからなのか、分からないけれど、耕さんが持って帰ってくれた「いちごミルクドーナツ」を、おいしかったのに、おいしかったよって伝えられなかった。「レモンクリームパスタ」を作ろうって、数日前から話していたのに、クリームチーズが入るなら食べないと言ってしまった。クリームチーズが入ることなんて最初から分かっていたのに。結局、耕さんが、ズッキーニのペペロンチーノを作ってくれて、それをほとんど黙って食べて、お風呂にも入らずに寝室へ行った。早く寝るんだよ、という言葉に甘えて食べたものの後片付けもしなかったくせに、眠れなくて、布団の中で、水木しげるの『劇画 ヒットラー』を読んでいた。

単純に身体の不調なのだろう、とも思うのだけど、精神的なものだったらどうしよう、と心配になる。精神的な、というのは、「何もしていなくて申し訳ない」「自分にはできることが何もない」という罪悪感でいっぱいになって、身動きが取れない状態のことなど、です。耕さんが食後の後片付けをしようと立ち上がったとき、それを制して、「わたしは今日何もしていないんだから!」と言うと、「したでしょ、掃除も洗濯もしたし、ごはんも作ってくれたよ」と返ってきた。「別に何もしていなくてもいいし」と。そうだ、何もしていないわけじゃない、でも足りないと焦る。耕さんは、優しい人だなぁ、と思う。この優しい人に、迷惑をかけているのではないかと、また不安になる。優しい、いい匂い、作る料理がおいしい、早寝早起き、レモンケーキを頻繁に作る、ストレッチを頻繁に行う。こういう、この人のここが好きだな、と思う要素を、自分と比べて、自分を落ち込ませる材料に使ってしまうのは悲しい。だから、できるだけ精神的に安定していたいと思う。

自分の奥の方に潜れば潜るほど、よいものが見つからない。だから、なるべく探さないようにする。考えないようにする。自分のことは。不安定に陥りたくないから。不安定は怖い。自分の中で暴れまわる風を抑えつけるようにして、生きている。

茱萸さんが、「暴風を見ないようにしていたら、短歌が書けなくなった」と書いてあって、その誠実さに、わたしは、自分の感情の余計な部分を見ないようにすることに慣れてしまったんだな、と感じました。ぐらつきそうになったら、笑い飛ばしてやり過ごす。その態度は、誠実に生きている人たちに失礼ではないかな。

茱萸さんのつくる短歌がとても好きだけれど、恋人さんとの話を聞くことも好きだし、うれしい。生きていてくれ、と思う。あなたのつくるものを見続けたい、と思う。でもそれは、エゴなのだろう。茱萸さんにも、耕さんにも、生きていてほしい。

次は、茱萸さんの恋人さんにも会いたいです。4人で会えたらゆかいだね、わたしと、耕さんと、茱萸さんと恋人さんと。

それでは、また。

猫、長い。
中田 幸乃

中田 幸乃

1991年、愛媛県生まれ。書店員をしたり、小さな本屋の店長をしたりしていました。

坂中 茱萸

坂中 茱萸

短歌同人「えいしょ」所属の歌人未満です

Reviewed by
佐々木ののか

中田さんの日常に降り積もる心配事。でも、不安を乳化するような「いちごミルクドーナツ」や「レモンクリームパスタ」の存在の大きさに私は何だかホッとするのでした。

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