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暴風の中の温室

図書館の中の暴風

はじめまして。「図書館の中の暴風」は、わたし(坂中茱萸といいます)と中田幸乃さんが毎月第二金曜日と第四金曜日に交互に更新する、交換日記のような連載です。

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毎日、暴風の中の温室のような暮らしをしている。見てごらん、外は暴風。なんだけど、わたしの暮らしは温室。具体的には、春ごろから恋人と暮らしはじめた。新しい生活様式。中田さんにはもうこの情報、伝えていたね。親にも言っていないのに。

春から。といっても、わたしの住む県では5月末までコロナウイルス感染拡大防止措置として緊急事態宣言が出されていたので、特にどこにも行かずごろごろ過ごした。でもそれは緊急事態宣言前でも同じだったので特に変わっていない。たまにコーヒーを買いに行ったり散歩に行ったり。公園は人でごった返していて、芝生に寝転がったり、猫に餌をやったり、フルートを練習している人たちがいたりして、なんだか立食パーティーみたいだった。人のざわめきが空気に溶け込む感じ。

しかし外は暴風。それはどういうことかというと、主にわたしの仕事上の悩みのことで、そういった「暴風」が、不意にわたしの周りを吹き荒れることがあるのだ。わたしはそのとき、自分のなかの暗い図書館に潜り込んでしまう。その中で自分よりずっとつらい遠くの世界のことを考える。わたしはダーク・ツーリズムにずっと興味があるんだけど、それは単に消費しているだけなのかもしれないな、と思う。
だからそもそもの方法として、なるべく暴風に目を向けないことをにしている。このあいだ偶然見た若者向けのYouTuberさんが「逃げられないようなつらいことについては、あんまり考えないようにしている」と軽く話していてすごく心に残ったので、以来なんとなく心に留めている。そうだよねえ。ほんとはわたしも「きょうは暴風やし合羽を着ないかんなあ」ぐらいの気持ちでいれたらいいんだけど。なかなか難しい。

そんなふうに過ごしていたら、いろんなことを忘れるようになってしまった。つまり、暴風から意識的に目を逸らすことはすこーしずつできるようになったり、できてなかったりするんだけど、それと比例するようにこれまで書いていた短歌が書けなくなってしまった。痛みが原動力だったのか。良いんだか悪いんだか。こ、これからがんばります。

ええっと、だらだらと自分のことばかり書いてしまいましたね。でも手紙ってそういう図々しさが許されるツールですよね。
中田さんはもう佐渡暮らしですか。あなたと、あなたのパートナーにまた会いたいです。優しくてチャーミングで、たくさんの面白いことを知っている魅力的な二人。あなたたちは少しずつ似ていて、少しずつ違っていて、話しをしていてとても楽しかったです。ドーナツ。食べに行きたいなあ。
それでは、また。


ぼくはかじんかわからないけどまなうらのひとをころしたあとのまぶしさ/坂中茱萸

坂中 茱萸

坂中 茱萸

短歌同人「えいしょ」所属の歌人未満です

中田 幸乃

中田 幸乃

1991年、愛媛県生まれ。書店員をしたり、小さな本屋の店長をしたりしていました。

Reviewed by
佐々木ののか

「温室」のような生活を始めた坂中さん。しかし「暴風」は訪れる。「暴風」に対するスタンスをどこか後ろめたく思っているように見えますが、そのうしろめたさの別称は「誠実」なのだと思います。

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