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「目を逸らしたあなたをわたしは見ている」

図書館の中の暴風

「図書館の中の暴風」は、わたし(坂中茱萸)と中田幸乃さんが毎月第二金曜日と第四金曜日に交互に更新する、交換日記のような連載です。

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幸乃さん。お元気ですか。毎日暑い日が続きます。蝉が鳴いているのが聞こえるけれど、木や建物を見上げても姿は見えない不思議。蝉はどこにいるのでしょう。

先日、面白いドキュメンタリー映画を見ました。アメリカの人種差別の歴史を追った『わたしはあなたのニグロではない』という映画です。今日はその感想を書きますね。

映像は、公民権運動家であり作家のジェームズ・ボールドウィンの書籍やスピーチ、インタビュー等の資料をベースに構成されています。また、同時代の活動家であるキング牧師やマルコム・X、メドガー・エヴァンス等の肉声映像も織り込まれており、それだけでもかなり見る価値のある映像となっています。(キング牧師とマルコム・Xの対談を見たことがありますか?二人の喋り方の違いがまるで正反対で印象的でした。)
そういった1950年代から1960年代にかけての古い映像だけでなく、ごく最近に起こった黒人問題にまつわる事件の映像なども組み込まれ、過去と現代を行き来するような多層的な作りに。人種問題が過去の歴史ではなく今に続いていることを示唆させるものとなっています。

冒頭。おそらく1960年代ごろのTV討論の映像です。白人男性のインタビュアーがゲストの黒人男性に、「これだけ法整備が進んで、黒人支援も手厚くなった。他に何が望みなのだ」(意訳です。正確な言葉は忘れました)というような内容の質問をします。一般的な構図として、加害者が被害者へ発してよい質問ではないと一見して分かるはずですが、そういう質問すらまかり通っていたのがこの時代の人種構図なのです。これは意識の問題です。加害者側は差別している意識すらないので、こういった発言もまた暴力であることに気づけていない。

では、現代はそういった「間違った」意識はもうないのか。答えはノーと言えるでしょう。アメリカだけではありません。この問題はあらゆる差別問題に通底する問題だと痛感します。結局のところ、差別の本質として加害者に当事者の意識がない限り、法整備がなされたところで変わることはないのです。

一方で「加害者」である白人もまた、現代では苦しんでいることは容易に想像ができることです(トランプ政権が誕生したのもその一因でしょう)。
彼らの差別の根底にあるのは「恐怖」だとボールドウィンは語ります。異なるもの、未知への恐怖。それらを安全への脅威とみなし、その結果が差別へと繋がります。本当はどのような個人であるかを知る前に、白人という枠組みから外れた人間は人間として捉えることができない。その分断に、差別の土壌があるのだと言います。
このような問題の本質を、ボールドウィンはおそろしく的確で詩的な表現で以て語ります。

映画の最後。それまで淡々とした映像が続きますが、最後にあの有名な「奇妙な果実」の映像が流れます。黒人がリンチされ殺害された上に、木に吊るされて見せ物にされているショッキングな映像です。下には大勢の人間がいます。しかし誰もその「果実」を直視していません。わたしもまた、目を逸らしそうになりました。そこにナレーションが入ります。

「目を逸らしたあなたをわたしは見ている」

わたしもまたその当事者の一人であるのだと、本当に、それはもうひしひしと感じました。
わたしたちは限られたスペースでより豊かに生きるために、自身の加害者性について、常に内省しなくてはならないのです。

その上で、知ることは財産になりうると改めて実感しました。知る機会を奪われる世界ではありませんように。かなり見応えのある作品でした。なんだか今回は映画の感想に終始してしまいましたね。最近はこんなことを考えているのでした。

幸乃さんの日常。夕闇のせまるころ、慌ただしく夕飯の準備をしたり、ひとりで火を見つめる時間があることは、一つの幸福をもたらしていると思います。「できることをするしかない」という気持ちにたどり着けることは、とても良い時間なのでしょう。
何もない時間。直接のつながりはないけれど誰かのつながりがもたらす時間。幸乃さんも、よい夏をお過ごしくださいね。

夕暮れの大気の匂い含ませて夢の続きのような水炊き/坂中茱萸

坂中 茱萸

坂中 茱萸

短歌同人「えいしょ」所属の歌人未満です。

中田 幸乃

中田 幸乃

1991年、愛媛県生まれ。書店員をしたり、小さな本屋の店長をしたりしていました。

Reviewed by
佐々木ののか

黒人差別に関する映画を観た坂中さん。誰もが当事者であるという考えは重い一方で、知らない誰かと繋がっているあたたかさもあると教えてもらった気がします。

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