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猫と暮らせば

図書館の中の暴風

「図書館の中の暴風」は、わたし(中田幸乃)と坂中茱萸さんが毎月第二金曜日と第四金曜日に交互に更新する、交換日記のような連載です。

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茱萸さん、こんにちは。

こちらは随分寒くなってきました。わたしの誕生日は10月15日で(お祝いのLINEをありがとう!)毎年、金木犀の香りが漂い始めると、母から「そろそろ誕生日だね」と連絡がくるのですが、今年は9月の末には金木犀が香っていて、寒い地域に住んでいることを改めて実感したのでした。原付通勤にも少し慣れてきて、運転しながら、草木や花の香り、景色の移り変わりを楽しむ余裕が出てきたよ。水分を含んだ朝の空気は本当に美しいです。相変わらず超低速運転で、すれ違った人から「自転車より遅い」と言われたりしていますが、徒歩より速ければ良いのです。そう思えるようになったことが成長です。

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今週は耕さんが島外に出店で一週間ほど家にいません。7月にもしばらく不在だったことがあって、その数日間は、怖くてほとんど眠れなかったの。段々と外が暗くなるにつれて落ち着かなくなり、何も手につかないので、家中の明かりを点けたまま早々に布団に入り震えていました。だから、今回も不安で仕方がなくて、出店が決まった日からずっとそわそわしていたのです。

でも、なんだか結構平気みたいです。

多分、猫がいるから。

猫のいる生活なんて想像したこともなかったのに、今、この、あたたかな体温を持つ小さな生き物の存在に、不思議なくらい救われています。静かな夜の闇に古い家がすっぽりと包まれても、床で丸まってうとうとしている猫がいてくれたら平気です。そっと撫でると、あくびをしながらうにゃうにゃと鳴く。その気の抜けたような声に、恐怖でぎゅっと硬くなっていた気持ちがほどけていきます。

前回、耕さんの不在に耐えられなかった自分が、あまりに弱くて、情けなくて、自信を失い続けていたので、穏やかな夜を迎えられていることがしみじみ嬉しいです。ただ、料理をする気力が湧かないので、おでん(職場でもらったタコと、鶏肉、ジャガイモ、大根、がんもどき、厚揚げ)を大量に作って毎日食べています。ははは。

ここ一年、ずっと誰かと生活していた(マダムもそう)から感覚を思い出せなくなっていたけど、それなりに楽しく一人暮らしをしていたんだよなぁ。

耕さんと付き合うまで恋人がいたこともなくて、周囲から散々心配されたり、馬鹿にされたりしていた(失礼ね)けれど、特に焦ることもなかったのは、一人でも平気だったからだと思う。それに、好きだな、と思う異性がいても、距離が縮まって、相手の好意が自分に向いているかもしれない、と思うと、途端に気持ちが悪くなって顔も見たくなくなるということが続いていたので、漠然と、自分はずっと一人で生きていくのだろうと考えていました。

そんな自分が、耕さんと知り合って、7年間、近づいたり離れたり(音信不通になったり)を繰り返しながらも関係が続いてきて、今こうして一緒に暮らしているのは、なんだかすごいことだなぁと、ぽかんとしつつ、思います。

でも、その、ぽかんとした「なんだかすごいことだなぁ」が煮詰まって、この人がいないと生きていけない、みたいな気持ちになっちゃう。好きな人と一緒にいることでしか自分の価値を見い出せないような考え方から、抜け出せなくなることがあります。だから、猫とふたり、穏やかに過ごせたこの数日の心を、お守りのように覚えておきたいと思います。大丈夫だ、と思えるお守りを、ちょっとずつ増やしていけたらいい。(レビューを書いてくださっている佐々木ののかさんの著作『愛と家族を探して』も、お守りのような一冊になりました)

わが家に、猫がいてくれてよかったです。

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茱萸さんの書く映画や音楽や料理の話を読むと、静かな熱を感じます。そして、その興奮の火がこちらに移ったかのように、映画を観たり、音楽を聴いたりし始めているわたしがいます。思えば、大学時代も、茱萸さんから良い作品や作家を教わりました。自分を圧倒する何かを、能動的に探して、体験してみる茱萸さんの姿勢にずっと憧れています。

映画、なかなか観る時間を取れない(と言いつつ、DS3でポケモンする時間は確保しているのですが…)けれど、観たい!です!最近、久しぶりに映画館に行って観た「はちどり」が素晴らしかったです。

それでは、寒くなってきたので風邪を引かないように気をつけてね。仕事が忙しいようで心配です。わたしはいつでも茱萸さんの味方じゃ。逃げ出したくなったら佐渡においで。

もうすぐ茱萸さんも誕生日だねぇ。

偉大な猫
中田 幸乃

中田 幸乃

1991年、愛媛県生まれ。書店員をしたり、小さな本屋の店長をしたりしていました。

坂中 茱萸

坂中 茱萸

短歌同人「えいしょ」所属の歌人未満です。

Reviewed by
佐々木ののか

ひとりでも平気だったはずなのに、いつの間にかひとりでいることに不安を覚えるようになった。しかし、誰かの不在から感じる不安は、さらに強くなるための幸福の階段の途中なのかもと感じました。

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