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遠くと近く

図書館の中の暴風

「図書館の中の暴風」は、わたし(中田幸乃)と坂中茱萸さんが毎月第二金曜日と第四金曜日に交互に更新する、交換日記のような連載です。

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茱萸さんこんにちは。

寒いね。こたつに入って、愛媛の友達が送ってくれた「ポンジュース」をがぶがぶ飲みながらパソコンに向かっています。アルバイト先の鮮魚売り場では、毎日10時頃になると誰かがスタッフ全員分の飲み物を買ってくるという習慣があって、わたしは主に、小岩井の「純粋りんご」「純粋ぶどう」「純粋みかん」時々「CCレモン」「コクのミルクコーヒー」を支給されています。スタッフのTさんは「コクのミルクコーヒー」を愛していて、在庫切れだとブチ切れる。今日はブチ切れながら「ダイドーブレンド バリスタズクラフト ラテ 世界一のバリスタ監修」をスタッフ全員に買ってくれました。わたしは、家で飲むみかんジュースは果汁100パーセントだし、珈琲は耕さんや友達が焙煎した豆で淹れたものしか飲んでいないから、果汁20パーセントのジュースやペットボトルのカフェオレをもらってニコニコ飲んでいる自分を嫌なやつ、と思います。嫌なやつと思うこころが嫌なやつ。でも、「今日はCCレモンにしてみた」という気まぐれや、いつの間にか(中田には小岩井のジュース)という共通認識ができていたことを、嬉しく思っているのもほんとうです。

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茱萸さん旅行に出かけていたんだね。わたしも今月は十日町まで小さな旅行をしてきました。旅の目的は「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」。絵本作家の田島征三さんは瀬戸内国際芸術祭の参加アーティストでもあって、ハンセン病の療養所である大島に作品があります。わたしは何度か作品制作のお手伝いに行っていて、それをきっかけに、大島で芸術祭のお客さんに向けたガイドをしてもいました。実は、耕さんと知り合ったのも大島での征三さんの制作現場です。

初めての「絵本と木の実の美術館」は本当に楽しくて、こどものような素直さで驚いたり喜んだりしながら館内をまわりました。大きな作品、動く作品が多いのですが、作品のおもしろさはもちろん、それらにたずさわったたくさんの人たちの声が聞こえてくるようで、そのこともなんだかうれしかった。動く仕組みがちゃんと目に見えるようにつくられているのです。征三さんの、ポジティブに人を巻き込んでゆく魅力、巻き込まれるときの明るい感情がよみがえりました。

芸術祭のお手伝いをするのが楽しくて仕方がなかった頃は、美術館に行くことも大好きで、展示を目がけてあちこち足を伸ばしていました。そうしていないと不安でもあった。作品の前に立ち、見て、聞いて、触れて、自分の中から言葉を探し当てる作業を繰り返していないと自分が存在しているのか分からなかったのだと思います。一人の人と向き合い続けたこの数年間は、「あなたを知りたい」という気持ちでいっぱいで、自分のことを見ていませんでした。自分の輪郭がぼやけていたから、出てくる言葉は薄ぺらで、「あなた」がいないと自分が揺らいでしまうから、失うことを過剰に恐れた。今回の旅ではいくつか美術館や展示をみてまわったのですが、他者の表現に対峙する時間が自分に必要だったことを思い出しました。いつも会う人、いつも見る風景も愛おしいのだけど、そこから離れてしまう時間も必要です。

遠くて近い茱萸さんとの往復書簡、もっと自由なことばで書けるよう、精進していきたいと思います。よろしくどうぞ…

旅に出る前日と、当日の朝が一番嫌いな中田より(旅の準備が苦手なのです)

と、思っていたけれど。ドタバタ荷物を詰め込んで、港へと向かう車の中は、いつも希望に満ちていることを思い出しました。今回は、「ン・パカ・マーチ」(「夢のクレヨン王国」OPテーマ)を聴きまくってテンション爆上がりでした。

今回行った美術館のうちのひとつ、ミティラー美術館
中田 幸乃

中田 幸乃

1991年、愛媛県生まれ。書店員をしたり、小さな本屋の店長をしたりしていました。

坂中 茱萸

坂中 茱萸

短歌同人「えいしょ」所属の歌人未満です。

Reviewed by
佐々木ののか

小さな旅の目的地として「絵本と木の実の美術館」を訪ねた幸乃さん。幸乃さんが他者の作品に触れる背景には「生きるため」と言ってもよいほどの大きな理由があったのです。

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