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小さな部屋と小さな鍋

図書館の中の暴風

茱萸さんこんにちは。

今日の佐渡は春の陽気です。現在室温16度。しかし明日の最高気温は4度(tenki.jp)ですってよ。ひぇ〜。古い家(特に修繕していない)で暮らしているので、寒い日は、本当に寒いです。特に台所は、火を使っていても、手を動かしていても身体があたたまりません。油類が順調に固まります(油が固まるということを忘れて料理を始めると、フライパンをあたためたあとで作業を一旦中断してストーブの前で油を溶かす必要があり、テンションが下がります)。

そんなわけで、寒い日には極力台所に立ちたくないので、おでんや鍋をよく作りました。鍋は、早川ユミさんのレシピの「ほうれん草鍋」、おでんは『うかたま』のレシピが気に入っています。ほうれん草鍋には、豚バラ肉とくずきり、ほうれん草と、みじん切りにしたニンニクと生姜をこれでもかというほど入れます。簡単でおいしい。おでんには、鶏肉、じゃがいも、大根、とびうおのすり身(本当においしい出汁が出ます)、厚揚げ、ウインナー巻き、練り物を二種類くらい、そしてちくわぶを入れます。ちくわぶ、佐渡に来るまで食べたことがなかったけれど、毎回必ず入れるようになりました。うまい。パートナーはちくわぶが好きすぎて、ちくわぶと大根だけのおでんを作って食べていたことがあるよ、かわいいね。茱萸さんの作るおでんの具はなんですか?ちくわぶ、食べたことありますか?

寒さは辛いけれど、仕事中、びゅうびゅうと冷たい風の音を聴きながら「今日はおでんにしよう!」と思いつく嬉しさ、こたつに入って鍋を食べる楽しさは、何度だって味わいたいものです。

そういえば、去年、茱萸さんに再会したのがこれくらいの時期ですね。わたしたちも、すれ違うたくさんの人たちも、マスクをしていなかった。本屋で待ち合わせをして、近くのカフェでパスタを食べながらおしゃべりして、茱萸さんは、大学生の頃にわたしがプレゼントしたトリのブローチをつけて来てくれた。新型コロナウィルスの感染が拡大する少し手前の時期でした。

本当に、あのタイミングで会いに行ってよかった。わたしたちが、集まってはくつろいでいた友人のアパートにも久しぶりに行くことができたし。先月、彼女があのアパートを出て故郷の沖縄に帰ると知ったときは、いつかその日は来るだろうと予想していたにも関わらず、少しショックを受けてしまいました。思えば、彼女の部屋でもよく鍋を作って食べたね。小さな電気鍋に、4人分の具材をぎゅうぎゅうに詰め込んで。そして頻繁に吹き溢れる鍋つゆ。彼女の部屋は清潔で、あたたかくて、あらゆるものが居るべき場所を用意されて、そこに穏やかに収まっていた。彼女ののんびりとした性質にすっぽり包まれているような、居心地のよい部屋でした。またあの部屋で一緒にごはんを食べたいなぁ、いつかふらっとそんな日があるんじゃないかと思っていたから、寂しさをしばらく引きずっています。もしかしたら、彼女があの部屋で暮らしていてくれたから、わたしは平気で遠くに行けたのかもしれません。

小さな電気鍋も、部屋も、写真も(そもそも撮っていない)なくて、記憶を引っ張り出す手がかりは減っていく。忘れてしまったらもう2度と取り戻せないかもしれないから、それくらいにささやかな記憶だから、時々、立ち止まって確かめたい。

後ろを振り返ると、大切な記憶に引っかかって余計なことも思い出してしまうので、ちょっと怖いけれど。最近は、何かを誤魔化すように、立ち止まらぬように、パートナーと二人揃って大声で歌(「残酷な天使のテーゼ」)を歌ってばかりいますが、一人の静かな時間も作らねばなぁと思います。こうやって茱萸さんに宛てて文章を書いていると、必然的に自分の中に潜ってゆこうとするので、ありがたいです。自分の考えていることを、まとまった文章で伝えることが難しくなってきている…

それでは、また。季節の変わり目、身体に気をつけて過ごしてね。

家の庭です。植木鉢にこんもり積もった雪がかわいい。
中田 幸乃

中田 幸乃

1991年、愛媛県生まれ。書店員をしたり、小さな本屋の店長をしたりしていました。

坂中 茱萸

坂中 茱萸

短歌同人「えいしょ」所属の歌人未満です。

Reviewed by
早間 果実

「今日はおでんにしよう!」
魔法のコトバ
ほうれん草鍋
口にすれば短く
ちくわぶと大根だけのおでん
だけど効果は凄い
トリのブローチ
細やかな日々の風景
小さな電気鍋
いつか忘れてしまう
残酷な天使のテーゼ
忘れるのは
固まる油
それが潜るから
ストーブで溶かすひととき
マントルになって支え
こたつ鍋
じわじわと核に染み入る
頻繁に吹き溢れる鍋つゆ
消えるんじゃなくて
またかよって笑い声
愛しいから溶け込む
あの部屋
ここに消えない言葉がある
往復書簡
だからまた会えるね
こんもり雪の積もる庭
約束しなくても

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