化け猫玉の事

いとでんわ 第2期(2011年12月-2012年1月)

今回は煙の話はお休みです。煙はすねてビニール袋をひきちぎり、私のベッドカバーに穴を開けました。

その昔、蔵王の麓の縁の下で野良猫が子を産みました。その中から我が家に迎え入れられたうちの一匹が白地に赤茶斑のある猫でした。小柄ですらっと見返り美人、これぞ日本猫というたたずまいに鍵尻尾も愛らしく、玉さん、玉さん、と可愛がられていました。年をとるにつれ、体は痩せ細っていきましたが反比例するかのように食欲は旺盛になり、いっそう小さくなった顔は口が裂けた般若の面さながらで、私は晩年の玉を「化け猫さん」と親しみをこめて呼んでいました。
 ある日のこと、母から玉が死んだとの連絡がありました。人で数えて二十二歳の大往生でした。その頃、蔵王の麓の家を引き払った母は仙台に一人、マンション暮らしをしていました。庭がない今、玉の亡骸をどうしたのかと訪ねると、弟が蔵王の麓まで車を走らせ、埋葬してきたというのです。玉は蔵王の麓の縁の下で産まれた子だし長いこと山里で暮らしてきたのだからそこへ帰してやりたい、というのが母と弟が出した答えでした。しかし蔵王の麓に着いたものの所有する土地もなし、結局、弟は玉を河原に埋めました。弟よ、なぜ河原なのですか。水辺では雨が降ったら玉は流されてしまうでしょう。
 朝鮮に次のような昔話があります。母親の言うことに逆らってばかりの蛙がいました。母親は今際の際、息子にこう言います。「私が死んだら川のそばに埋めておくれ」と。母親は山に埋めてほしかったのです。ところが、母の死後悔やんだ蛙は、母親を言葉どおり川の側に埋めました。そこで梅雨時になると、蛙は墓が流されないかと心配してケロケロ鳴くのです。
 私は長雨の時期になるとこの話を語りますが、そのたびに「玉さん、玉さん、蔵王の麓に居りますか、そこは静かな場所ですか。」と小さな額を思います。

=^..^=今週の猫本―化け猫になりたい-
『茂吉の猫』松谷みよこ/偕成社 『茂吉の猫』松谷みよこ/偕成社

 大酒飲みの茂吉は嫁の来手もないため、三毛猫を話し相手にしています。茂吉が酒屋に行くと身に覚えのない勘定がいくつもあるではありませんか。ちょうどその時、童子が現れ、茂吉のつけで酒を買っていくのを見かけます。この童子、実は茂吉の三毛猫で、化け物達に夜な夜な酒を運んでいるのでした。化け物達は茂吉に見つかったことを知ると、茂吉を殺すように猫にいいつけますが、猫は「おら、茂吉のこと、すきだもの」といってそれを拒みます。 茂吉が、ばけものづくしの野原に入ってしまったあたりから背筋がすっと寒くなります。風が吹き火の玉が揺れ化け物踊るばけものづくしの野原を、そっとのぞいてみてください。
そして、化け物達が寄り合いそうな場所を見つけたら私に教えてください。うちの玉がいるかもしれませんから。