うりゃりゃ 最終話

第4期(2012年8月-9月)

「勧善懲悪ってさあ。みんな好きなわけじゃない。でもさあ、博之さん。あんたの場合、完全超悪だよ。今これ漢字に直すと全然感じが違ってくるんだけど、そのフィーリング感じてくれてる?」

「キ、キキさん!いつからココに!!いるかな??ココに!!」

「いるかいらないかで言ったら、キキさんはいるよ。でもオンバの写真は今はいらない。分かるよな、博之。」

「ええい。もうこうなった以上は仕方あるまい。かくなるうえはー!!!」

博之はポケットに忍ばせていたナイフを取り出して、キキの胸元に深く突き刺す。

「あなたの言ってるオンバってのはね。乳母車のコトじゃない?私の言ってるオンバは正確に発音するとオンバー。今ここにいる状態がまるでBARであるかのようなコトを表す形容詞よ。」

「あっこ。ますます言ってる言葉の意味が分からないじゃないか。オンバー??まるでBARのような状態??そんな状態がこの島のどこかにあるってコト??」

「ちょっと貴方がた見た目の冴えない二人。いや失敬。中身も冴えない二人。特に女性の方。あなたは確か山下亜紀子さんかな?36歳独身で原稿まだ終わってないですよね。まあ、その話は事件とは関係ない話だ。」

「ちょっと、お前、人の妻に向かって完全に事実だけど、なんて失礼なコトを一応言ってるんだよ!」

武智はその男の胸ぐらをつかもうとする。

「おい!ネジー。コトを荒げるな!!前に話したばかりじゃないか。話の分からない人間と銀行とのお付き合いはほどほどにしておけって。」

「森田刑事。どうもこの女は二ノ宮敬二と繋がっている気がしまして。」

「あれ?キキさん、この船乗ってなかったですしー。」

「ななえ!なんでお前、ここにいるんだ!!」

武智はネジーの胸をつかんでいた手を慌てて離して、ななえに駆け寄る。

「武智こそなんでこの島にいるですしー。」

「森田刑事!この一輪車。大量の血がついています!!」

ネジーはななえの乗ってきた一輪車を森田に差し出す。一輪車からはいまだにポタリポタリと血がしたたり落ちている。

「ななえちゃんだっけ?正直に事件の全容を話してくれないか。」

「うりゃりゃーキッチンで話しますしー。」

(うりゃりゃーキッチンをニノに手放したのがいけなかった。あいつはそのうち、LOLOバーガーを作り出すって踏んでたのに、あの野郎完全に過去を消し去ろうとしてやがる!一刻も早く消しておかないと、持ち出しの事実が島の人間に伝わってしまうじゃねえか。)

ケニーはうりゃりゃーキッチンに向かう足取りを更に速める。

「キキさん?キキさん来てくれたの??」

「キキさん??誰のコトを言ってるの? ごめん。ケニー、私だけど。」

「渋沢ちゃん!一体今までどこに行ってたんだよ。離婚式の途中からすっかり記憶が無くって。」

「ケニー、ごめん。私、離婚式どころかこの島で結婚式をあげたの。相手はケニーという男よ。私がここに来た理由は察しがついたかしら。この島にケニーは二人といらない!!」

渋沢はポケットに忍ばせていたナイフを取り出して、ケニーの胸元に深く突き刺す。

ケニーの胸から血が溢れだす。既におでこは先ほどやられたばかりで未だに血が流れているのだ。

うっすらとしていく意識を保つために、ケニーは自分に言い聞かせる。

(島で人生を立て直すなんて、考えてみれば甘かった。持ち出しっていっても、たかだか数十万だ。アイコー印刷で黙って数十年営業部長を続けていれば返済出来てた金額じゃないか。。。)

「現行犯で逮捕する。」

ネジーは渋沢の手首におもむろに手錠をかける。

「森田刑事。二ノ宮はこの状態ですけどどうしますか?先に病院に連れていった方がいいのでは?」

「しかし、この時間にこの島であいている病院なんてあるのか?おい!本部に電話して救急ヘリの至急手配だ。」

「その必要はないですよ。刑事さんがたお二人。」

武智は森田に静かに告げる。

「え?ひょっとして君、ドラマでよくある実は医者だったってパターン??」

「森田さんとやら。残念ですがそれは違いますね。私は武智軍の単なる末裔。末裔が大抵するコトって言えば!!」

武智はポケットに忍ばせていたナイフを取り出して、森田の胸元に深く突き刺す。

「ちょっと!刑事さんにそんなコトをしたらどうなっているか分かってるの?せっかく出来た私たちの家庭はもう終わりじゃない!!」

あっこは慌ててポケットに忍ばせていたナイフを取り出して、武智の胸元に深く突き刺す。

「大変ですしー。キキさんが来てくれないから、どんどん胸元に深くナイフが突き刺さった人ばっかりになってるですしー!!」

ななえは慌ててポケットに忍ばせていたナイフを取り出して、ネジーの胸元に深く突き刺す。

「ポケットにはね。昔っからよくナイフを忍ばせてたもんだよ。なんて言うのかな?その方がなんとなくカッコいいって感じ。なんかそんな感覚って幼い頃ってあるじゃない。だけどさあ。おかげで狙われるんだよ。あいつはポケットにナイフを忍ばせてるってね。おけげでさあ。ポケットにナイフを忍ばせてる奴らのナイフを出すタイミング?そんな嫌なもんまでしっかり覚えてしまってね。」

キキは胸に突き刺さったナイフを取り除きながら、博之に尚も話を続ける。

「薄っぺらいのに胸はすっかり頑丈になっちゃったよ。常にナイフで狙われるわけだからね。そうなりゃこっちの胸もどんどんドス黒くなっていく。博之さん。じゃあ、あなたに聞いてみたいよ。ドス黒くなった胸を貫くナイフって何だと思う?」

博之はゆっくりと後ずさり始める。

「あんた。今日、オンバの写真をここで展示しようとしたわけでしょ。でもホントは分かってたんでしょ。その写真を見に来る人たちそもそもが、ポケットにナイフを忍ばせながらやって来てるって。だからあんたは狙われたかったわけなんだ。最初っから。」

ケニーはうりゃりゃーキッチンの前に着く。中から悲鳴が聞こえる。ずっと、ずーっと。

「遅かったか。まあいつものコトだよ。この島に来た人が悲鳴をあげて血まみれになるのは。でも翌日にはカラッとしてる。なんでかって?胸を貫くナイフを誰も持ってやしないもん。それじゃあ、そんなナイフがどこにあるかって?簡単な話じゃない。ポケットって服を着てるから付いてるんでしょ。服を着てなかったらポケットにナイフを忍ばせられないじゃん、そもそも。」

ケニーはフェリー乗り場の方に足を向けて歩き始める。

「始発のフェリーがそろそろ出港する時間だわ。久しぶりに島をでるか。誰かに会いたいなあ。そういやキキさん何してるだろ?どこにいるんだろうな今は。」

「変な話だ全く。ナイフを忍ばせてたおかげで、すっかりナイフに刺されても平気になった。だけどもだ。世の中はナイフを忍ばせた奴ばかりで溢れかえってやがる。刺しても仕方ないのにだ。ケニーのやつ、そこんとこ上手く言ってたよな。そして何よりあいつの作る料理は最高に旨い。うりゃりゃーキッチンにでも久しぶりにいくか。あいつよく言ってたよなあ。オンバーを作りたいって。あれから2年半かな?どうせ泥酔した奴らでカウンターが溢れかえってるんだろうよ。」

キキはフェリー乗り場の方に足を向けて歩き始める。

「ドス黒くなった胸を貫くナイフってのはね。」

ケニーはフェリーの甲板で煙草をふかしながら、すれ違うフェリーに一人語りかける。

「握力ってのが大事なわけなのかね?」

キキはポケットから携帯灰皿を取り出す。すれ違うフェリーにそっと話しかける。

「それでもオレの乗ってるフェリーが沈んじゃったら、そっちのフェリーさん。ちゃんと助けにきてくれるもんなのかね?」

(終わり)