うりゃりゃ 第六話

第4期(2012年8月-9月)

「確かに結婚出来ればいいかなあって思ってたわ。でもそれは学生時代の話。なんかあまりにも呆気なくて、さっきの結婚式。」

「それはあっこが合同結婚式に慣れていないからだよ。渋沢ちゃん?だっけ。も、自分に未来について考える貴重な時間になったんじゃないかな。だって彼女、その前に離婚式にも参列しているわけだろ。」

武智にとっては優雅なひとときだった。

「家庭か。ちょうどよい二人の距離感だ。これが商店街に机を出してる占い師さんだったら、ここまでの距離感はだせないと思うよ。しかしだ。僕たちも家庭をもったわけだから、家くらいは欲しいよなあ。せめて庭つきの。」

「渋沢ちゃんのトコロも家庭を持ったわけになるのよね。確か彼女はそれまではモバイルハウスに住んでたのよ。自分でその都度作って。でも家庭を彼女たちも今は持ってるわけでしょ。じゃあ当然いつまでもモバイルハウスってわけにはいかないよね。」

「それはどうかなあ。渋沢ちゃんって子の相手はケニーさんじゃない。ケニーさんは昔っから家の屋上で暮らしてたんだよ。そのモバイルハウスってのをボクはちゃんと見たことないんだけど、地元の人からは大人気なの?ケニーさん、そういうトコうるさいよ。」

「一ついい。」

あっこは情報交換を武智に要求する。

「あの彼はケニーって言うの?それって本名なの??この島でケニーって言ったら彼のコトになるの?」

「あっこ。まあ今からカウンターを作るからカウンターに座れよ。ケニーさんはケニーさんだよ。ただ、本名となると話は変わってくるよ。本名は二ノ宮敬二じゃないか。」

「二ノ宮敬二??それって可笑しくない?なんでケニーなの??だってせめて『ニノさん』とかそんな感じじゃない。」

「あっこ!おいおい、今頃になって二ノ宮敬二さんに食ってかかるなよ。あっこの悪いトコだよソレ。ニノさんってなんだよ。ニノさんだったら、今までケニーって呼ばれていた二ノ宮敬二はどこにいるんだよ。」

「なんか一輪車に文字が書かれてない?ななえちゃんだっけ?今、両目が湿布で塞がっていてよく見えないんだよ。ちょっと確認してくれないかなあ。」

ケニーとななえは一輪車を石段の入り口まで運んできていた。ななえが、石段に登ったら今いる場所がこの島のどのあたりか分かるかもしれない!って提案したのだ。

「文字ですしー。何やら消えかかってるけど確かに書かれてますしー。」

「で、なんて書かれてあるの?ユニークなネーミングとか書かれてない?じっくり確認して欲しいんだ。三文字でこう書かれてないかい?そうだな。ななえちゃんに言っても問題ないだろ。オンバ。オンバって書かれてない?」

「オンバ?オンバとは書かれてないですしー。なんですか?オンバって??」

「オンバのコトはななえちゃんにはいいよ。そうか。オンバとはそんなうまいコト書かれてないか。で、なんて書かれてるんだい?」

「のさんですしー。」

「のさん?」

「のさんじゃないですしー。にのさんですしー。」

「にのさん?にのさん??にのさんって書かれてあるの??その一輪車??」

「文字は消えかかってるですけど、『にのさん』って読めますしー。」

ケニーのおでこがどんどん冷えてくる。さっきまでの熱は一体どこに放出されていってるのだろう??

「どうしたんですしー。なんかおでこから冷や汗のようなモノが出始めてるですしー。」

「ななえちゃん。驚かないで聞いて欲しい。それ多分オレの一輪車だよ。」

「そもそも、あなたとこの一輪車をセットで私はみつけたですしー。そんなに驚きようがないですしー。」

にのさん。なんでここで『にのさん』を思い出すんだ??すっかり忘れていた。

健次郎なわけがなかったんだ、オレの名前は。だってオレはこの話の主人公だ。

誰もが主人公と言い張るこの世界で、ようやくオレは主人公の役を手にしたのだ。

誰だよ健次郎って??

にのさん。正しく表記すると『ニノさん』だ。

ニノさんってのは、オレの本名からきた、そうだな。なんていうかニックネームみたいなもんだ。

どこから『ニノさん』がきたかって?

思い出した以上仕方ない。

この「うりゃりゃ」の主人公、今まで仮として『ケニー』と名乗っていた『ニノさん』こと私の本名を言うよ。

二ノ宮。

二ノ宮敬二。

「以前、ネットで竹島に行ったとやらのケニーさんの行方を探そうと『二ノ宮敬二』で検索をかけたコトがあるんだよ。」

武智はあっこに言う。

「すると面白いことにね。どうやら『二ノ宮敬二』とやらは他にもいるそうなんだよ。持ち出しの現行犯か何かだったかな?刑事さん。確か森田刑事の事件簿とやらに『二ノ宮敬二』って同性同名の名前があったんだよ。」

「森田はこの島を嗅ぎ付けたはず。」

ケニーは咄嗟にななえの口を塞いだ。
しかし失敗する。いまだケニーの両目は湿布で覆われていたのだ。

(続く)