小箱の小鳩の事ばかり

第11期(2013年10月-11月)

連綿と続く茫漠の海と
傍らに横たう白い砂地

点々と続く足跡の先
少女の姿があった

少女は指の隙間からこぼれ落ちる砂を見つめ
そしてまた砂をすくっては同じことを繰り返していた

砂はかつて「言葉」と呼ばれていたという
その一粒一粒には「意味」があったのだという

人はそれを使って想いを伝えていたが
誰にも届けられなかった言葉は
色も温度も損なわれ
そして数えきれないくらい長い年月を経て降り積もったその言葉の残滓が
一面に広がる砂浜を作り上げた

時間が止まったその場所で
砂は少女の手を離れ
再び時を刻むかのようにこぼれ落ち
そしてまた砂浜の一部に還っていった

やがて少女はかがみ込むと
今度は砂をかき集め
固め始めた

乾いた砂を固めるのには頼りない腕で
幾度となく力を込めた

尖塔形の顔に丸みを帯びた胴
それから四つの足と長い尾

砂から形作られたその塊に
少女の目から砂がこぼれ落ちると
命が生まれた

四つ足の生き物は2度ほど首をかしげたかと思うと
悠々と海へ向かって歩き始めた

少女はとっさに尾を掴んだが
その生き物は尾だけを残すと
さらに速度を上げて
海の中へ姿を消した

その行方を少女はしばらく見つめ

おもむろに立ち上がると
スカートの砂を払い
自らも海を目指した

私の手から生まれた少女は
こうして姿を消した

灰色の海が凪いでいる

聞こえるのは私の指先が崩れていく乾いた音だけ

私は
まだ私が私の形をとどめている間にここに記しておこうと思う

砂が語りかけた記憶を
生きた言葉があった頃の幾つかの話を