ドラマチックな日常の欠片(2014.05.01)

第14期(2014年4月-5月)

20140501

「起きてる?」
「起きてる。天気は?」
「朝から雨だって。多分もう降ってる。」
「わー。さむそうね。」

 くるりと毛先がはねた寝癖。少し腫れぼったい瞼。ソロソロと寝室から出ていく後ろ姿は頼りなさげで、リビングからうっすらと射し込む光が透過しそうだった。時計を見て安心する。恋人は早番、僕は遅番。

  抜け殻のような形をした掛け布団にはまだ暖かさが残っていて、広くなったベッドで何度か寝返りをうつと、僕は決まってもう一度眠りに落ちていく。時折、リビングのほうからこちらを疎ましそうに覗く気配が感じられるのも、いつも同じだった。10分か20分寝坊をして寝室からでて行くと、くるりとはねた毛先は艶やかに整えられていて、するりとした体は薄手のカットソーと細めのデニムに着替えられていた。そして、引き出しからファンデーションとか、マスカラとか、そういうの(詳しくはよくわからない。)をいくつか取り出して手早くメイクを始めるのだった。その順番は毎日決まっていたから、ファンデーションを塗り終えたあたりで、僕は朝ご飯の準備に取り掛かることにしていた。

お互いの動きと空気を読む、言葉のない会話。
短い朝の時間はリズミカルに過ぎていく。

  あとから家を出るほうがベッドを整えて、トーストを焼き、カフェオレを淹れる。そして、何のジャムを塗るか聞くといったように、一緒に生活するようになってから自然と役割分担ができていった。うちにはいつもボンヌママンと実家から送られてくるジャムがいくつかあって、その中でも恋人はごろごろと果肉の残った自家製のイチゴジャムを好んで選んだ。ただ、もともと甘いものが得意ではないということもあって、口にはださないけれどバタートーストや、チーズトーストの方が好ましいようだった。

  そんな甘いものが苦手な恋人もイチゴとビスケットには目がない。意図せずそれらが手に入ると文字通り飛びあがって喜ぶ。ゆっくりと大事そうに口へはこんで、ふるふるふると震えながら「おいしい…:)」というのだ。それを見るために、こっそりイチゴやビスケットを買って隠しておいたりもする。その日も昨晩のうちに買っておいた小ぶりで粒の揃ったイチゴを見つけて、朝からはしゃいでいた。

お気に入りのオウムのマグカップ、近所で評判のベーグル、エスプレッソから淹れるラテ。
単調になりがちな朝もちょっとしたきっかけで変化する。

幸い雨は傘をさすほどではなかったが、新しいトリコロールの傘をさしてご機嫌な様子で出勤していった。