エッセイなんて書きたくない

第45期

「文章を寄稿してみませんか」と当アパートメント編集長からお誘いを受けた。

快諾した数日後、後悔した。
これが仕事やアートショーのためのプロモーションならば、是が非でも期日内に何らかをひねり出して命と引き換えにでも差し出すのだけど。何もないところに自分事をポンと置くことの行為。当件に関しましてはビジョンもゴールも報酬もない。自由意志で自発的に書きたいことなど持ち合わせていないのだと、自分の空っぽさに気付いてしまった。

このままではいかんと焦り、寿司を食べようという口実でS氏を誘い出した。
Sは何かと相談相手になってくれる数少ない友達の1人。

Sの窓口の広さたるや——執筆のネタ相談、澱のような仕事の愚痴、最近ハマったドラマや漫画、いつか食べたい世界の料理、あったらいいなの架空の間取り——とにかく何でも興味深そうに聞く。興味深そうに根掘り葉掘り聞いてバンバンボールを投げてくる、さも興味深そうに。表情や声色を巧みに使って、話を聞いてる雰囲気は濃縮還元100%カウンセラー風味。

01

Sと寿司屋の暖簾をくぐり奥へ通される。古びた畳の大部屋の片隅に腰を落とし、トウモロコシのかき揚げ(今日のおすすめ)としめ鯖の燻製を頼み、相談スタート。

「で、何でやるって言っちゃったんですか」
「うわ、このしめ鯖の燻製、すごくしめ鯖を燻製にしたっていう味です」
「何か書きたいことが実はあったのでは?」
「あっ、このかき揚げ正解……」
「他の人はどういう切り口ですか」
「オリジナル巻もお願いします」

03

Sから投げられるボールに悩むポーズを作りつつ、エンガワ……ハマチ……と今日のおすすめ寿司ネタを注文用紙に書く。
ペレのサインみたいな字で書いていたのを破り捨て、新しい紙に丁寧に書き直す。

なぜなら、この注文用紙を見た板前さんが「丁寧な字で注文してくれる心意気に応え、今日イチ美味しいの握ったろ」と思うかもしれないから。リーズナブルな寿司屋であっても、ここで最も美味い寿司が食べたい。それに「字がきれいな人はきっと心もきれいな人……」とか思われて見初められる可能性もゼロではないかもしれないし、ガリでLOVEと書かれた皿が来ちゃったらどうしよう。

「そういうしゃらくさい性格がバレるのがイヤなんですよね?」
「しょうもなさをひた隠しにしてる残念な生き様を書いたらいいじゃないですか」

02

繰り出すアイデアが清々しいまでの他人事。嫌すぎて絶対自分じゃ思いつきませんでした。
欲と見栄と傲慢さが詰まった注文用紙を店員に差し出す。

寿司が来るまで、半生を思い返す。

雅号も画題も、日常の自分を解放するためのものである。もっと簡単に言うと魔法少女になるコンパクトだ。
自らの意思で変身することを選択している。虚飾と言われてもいい、それを纏う時こそ自由でいられるのだから。
賢そうに見られたい、美しいものの力にあやかりたい。コンプレックスの吐き出しから始まった私の創作活動。

オリジナル巻が来た。
カリフォルニアロールと言われるものが親戚にいそうである。しかしあくまでもこれはオリジナル巻、他人の空似だろう。

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オリジナル
最初の、初めての、初代の
新たな、新規の
独創的な、創造的な
伝統にとらわれない、伝統の殻を破った
〔複製の〕元の、オリジナルの、原文の

自分で認めた創造的な私。ひっそりと守り続けてきたしょうもなさの本質を暴く新しい私。
8回書ききった先にはどんな世界があるだろう。破壊の先に新たな創造があることを信じてオリジナル巻に手をつける。

ちなみに編集長はエッセイ書いてなんて一言も言ってないことを最後に述べておく。