アホをバラさず事無きを得たい

第45期

ある日のこと。ありがたいことに絵のお仕事がひと段落したので、私はいつものカフェで請求書を作っていた。

恥をさらすのは中々しんどい作業なので、癒しのぬこ画像を挟みながら編集します。池袋のぬこ。

恥をさらすのは中々しんどい作業なので、癒しのぬこ画像を挟みながら編集します。池袋のぬこ。

PCとスマホの電卓アプリを交互ににらめっこしていたら、向かいに座って同じく仕事をしているS氏が怪訝な顔をしている。

「何やってるんですか?」
「請求書作ってるんだけど、ギャラリーと作家で按分比が決まっててさあ。計算が難しいんだよね」
「へえ、そういうものですか」
「んんん」
「まだやってるんですか? どんな計算?」
「足し算……5つめくらいでいつも数字打ち間違えちゃって」
「請求書作ってるんですよね? Excel苦手?」
「Excel使ってないし」
「ちょっと見せてください」
いいよと言うが先かPC画面を覗き込むS氏。
「まさか……Photoshop……だと……?」
「ぐぬぬ」
「Photoshopwwww 見ながらwwww 電卓wwwwww」
それから5分程度、S氏の横隔膜の緩やかな死を私は静かに見つめていた。

友人宅のぬこ。背中に乗ってくれた日の事は忘れない。

友人宅のぬこ。背中に乗ってくれた日の事は忘れない。

そう、私は請求書をPhotoshopで作っていたのである。
Excelを知らないわけではない。仕事のやりとりで開くことはあるし、人が組んだ計算式に数字をポチポチ入れて工数だって出している。ただしそれだけだ。当初ネットでフォーマットを探したことはあるが気に入ったレイアウトのものがなかったし、ダウンロードしていじるとデータは死んで生き返らなかった——触れる数式が皆生き絶える——そして悲しきモンスターの心は折れた。

面倒じゃなかったか?
馬鹿にしないでいただきたい、ド面倒です。
ただ私は、著しく数字に対する向上心やら執着やらが欠落している。アレルギーと言ってもいい。

悲しきモンスターにとって請求書作成は、絵が売れたらやる面倒な儀式くらいにしか感じていなかった。儀式なのだから仕方ない。いつか人間になりたい。

根津のぬこ。まんまる。

根津のぬこ。まんまるでめっちゃ福々しい。お腹吸いたい。

数字弱くても絵描けるから別にいいんじゃない? と流さないでほしい。なんと私は勤め人でもある。マーケティング的な部署でデザインの仕事をしている。

毎月開かれる数値報告ミーティングなどでは、色とりどりの棒グラフや分布図を、目で追って理解しようとするうちに時間が過ぎていく。目はスライドを追い、耳を傾けては頷き「話が早すぎて分からんな」と考えている。

私は、会の終わりに「……で、要約すると好調なのか不調なのか?」とカラフルな南米の蛇グラフの容体を尋ねる。すると賢き若者が解をくれ、私はそれに満足げに頷く。つい最近まで「全て分かった上で話を簡潔にまとめたがる性格の人」と認識されていた。皆が何言ってるか分からないので、要約した一言を素直に求めただけである。それがバレた後も(別に隠してたわけじゃないけど)制作依頼は絶えず、そこそこ忙しくさせていただき何とかなっている。理解の仕方が人と違えど、着地が揃えば結果オーライだ。

じゃこ天みたいなサビ猫じゃこちゃん。場末のバーのママみたいな猫が好き。

じゃこ天みたいなサビ猫じゃこちゃん。場末のバーのママみたいな猫が好き。

自分の恥を晒してまで何が言いたいかというと、できないことを頑張って克服する暇があったら、できることに磨きをかけるか、好きなことをできることに変えていくことにエネルギーを注いだ方がいい。何がいいって、そっちの方が断然楽しい。楽しいことは「もっと楽しくしたろ」という欲も出る。

苦手を多少克服したところで得意な人には敵わないし、嫌いなことは全力で避けていいと思う。私の苦手を助けてくれる人がいるから、磨いた得意で私はその人を助ける。

友人実家のぬこ。めっちゃ柔らかくて長い。

友人実家のぬこ。めっちゃ柔らかくて長い。

そう言っているうちに、見かねたS氏が請求書記入したら納品書も出来ちゃうスゴいシート作ってくれた。私のPhotoshop製請求書にデザイン寄せてくれてまでいるホスピタリティ。え何これめっちゃ便利やんExcelしゅごい。

晒したくない私の恥や外聞を見てるのがS氏は楽しいという。
労働の返礼に、私は今日もこうして恥を晒すのである。