谷底本箱煙猫―空を飛ぶねこのはなし

長期滞在者

「この子たちの背中に翼がはえているのは、この子たちの生まれる前に私が見た夢のせいかもしれないわ。あれは空を飛んでこの町から出ていく夢だったもの」(『空飛び猫』より)

暑くて暑くて溶けてしまいそうなくらい暑くなるとあらゆる場所で猫が落ちているのが目につく。ところかまわず行き倒れるように予告なくぼてっと寝転がりそのままじっと動かないその姿は、いる、というより落ちている、というのがしっくりくる。多分に漏れず、谷底の煙猫も重たい体で歩いていたかと思うと、ずしん、と音を立て床に倒れのびていしまう。私のほうもそろそろ限界と冷房をつけて数分後、部屋も快適になるとどういうわけか、さっきまで餅の様にのびていた煙猫が空を飛ぶのだ。顔も体もちょうど真横を向き、前足は斜め前に後足はななめ後ろにすっくと伸びてきれいな弧を描く。背中に見えない翼があるのではないかと思うくらい完璧な飛び姿。ル・グウィンの『空飛び猫』の美しい挿絵を思い浮かべたものの、おまえはおでぶだから夢の中でしか空を飛べないねえ、と1人笑った。

さて、その時は思い出せなかったのですが、翼がなくても空を飛ぶ猫の話が『とびねこヘンリー』です。空を飛びたかったその猫は熱せられて膨らんだ気球に飛び乗って一匹で空中旅行としゃれ込みます。さて十分空の旅を満喫した猫ヘンリーですが、降りる方法が分かりません。気球はどんどん流されていきます。そこに見つけたのが一本のコード。これにぶら下がることでヘンリーは気球の操縦法を見つけます。わしに出会い、がんの群れに突っ込みながらも、ヘンリーは必死に気球を操ります。ぶら下がっているひもにじゃれつく猫の習性が話をムリなく運んでおり、絵は写実的、どこかで本当にあった話ではないのかなと思えてしまう不思議な魅力があります。まあ、煙猫は気球に乗ってもきっと体のバランスを崩してかごから落ちてしまうでしょうけどね。

☆今月の一冊:
空飛び猫』(ル・グウィン作/講談社)
とびねこヘンリー』(メリー・カルホーン作 エリック・イングラハム絵/佑学社)