谷底本箱煙猫―ピーターサンドさんのねこ

長期滞在者

「ねこがいないんだ。子ねこでもいいからいたらいいのに。ねこのいないだんろなんて!ねこのいない家なんて!すぐにもねこを見つけなきゃ。子ねこだっていいんだから。そしたら家は、欠けたものなし!」 (『ピーターサンドさんのねこ』より)

煙猫と新居に引っ越してからひと月がたち、新・谷底の様子はというと、ここにも猫、そこにも猫、あそこにも猫、人も歩けば猫にあたる、そんな毎日だ。誰が言ったのかは知らないが、猫が家につくなんて、うそでしょう、と言いたくなる。というのも、最近の煙猫は調子に乗っている。先住猫達を差し置いて、大きな顔をして歩きまわり、ベッドの上を占有しては気持ちよさそうにのびている。さて、煙猫は扉という扉は全部開けないと気が済まないたちで、一度でも人が開けているのを見るとそれからしばらくの間、隙間に爪を入れてはなんとかして開こうと頑張るのだ。扉がうんともすんとも言わなくてもガリガリガリガリ全身の力を込めて押したり引いたり自慢の後足でキックの応酬をしたりと、猫一番の努力賞。そんなある日のこと、流しの下の開きの扉に両手をかけて立っている煙猫の姿を見つけた私は髙見の見物を始めたのだが、ものの1分、巨大な体をおもりにして扉を引き、ちょっと空いた隙間に片手を差し込んで開けてしまった。扉の奥には煮干しや鰹節などの乾物が入っているのだが、開けたことで満足したのかそれには見向きもしないで煙猫は去っていった。少しの時間がたって、流しの下から何やらがさごそと音がする。中から扉を押して出てきたのは、得意げな表情の尾の長い猫だった。それからしばらくたってまた音がする。尾長猫も煙猫も扉の前になんだなんだと集まってきた。鼠でもいるのかしらん。私も猫達と一緒に扉をしばらく見つめていたが、覚悟を決めてオープン・ザ・ドア!しゃなりしゃなりと出てきたものは鼠よりもはるかに大きいもしゃもしゃ猫だった。ナイスコンビネーション、煙猫が開けて尾長猫が入りもしゃ猫は閉じ込められる。こう書くと無事にキャットクラブに入会できたように思える煙猫だが、毎日のように追いかけ追いかけられ、ずうずうしくも居場所を横取りしてはシャアアアアアアアアアッと威嚇されすごすごと退散。新・谷底は賑やかです。

猫がわが家にもいたらいいけど、飼う事はなかなか出来ないから少しの間だけでも借りることができたらいいのに、と思ったことがある人はいませんか。猫の習性上、実際そうはいきませんが、『ピーターサンドさんのねこ』ではその夢をかなえることができます。
避暑地の島、ホタル島にやって来る人々は夏の家を住みやすく整えた後、猫を探しに出かけます。さて、島にはピーターサンドさんという猟師が住んでいました。ピーターサンドさんは数えきれないほどの猫を飼っています。人々は島中を自由に歩いている猫から気に入った猫をつかまえ家に連れて帰るのですが、つまりそれはピーターサンドさんの猫であり、夏の間だけ彼から猫を借りているのです。そしてひと夏が終わると猫たちはピーターサンドさんのもとへ戻ってくるというわけです。ところがそんな夏のある日、ピーターサンドさんがけがをしてしまいます。島をはなれて入院しなければならないピーターサンドさんは島の医師に猫の世話をたくすのですが、彼はそれを忘れてしまいました。夏が終わり人々は島を離れ、冬になった頃、ピーターサンドさんはやっと島に戻ってきます。その次の夏、再び避暑にきた人達にピーターサンドさんは猫を貸してくれませんでした。さあどうしよう。猫がいない家なんて考えられない!この後、1人の女の子と一匹の子猫の出会いから、再び猫が家々に戻ってきます。

追伸:残念ながら煙猫は慣れるまで時間がかかる臆病者なので貸出には向かないようです。
二伸:たった今のこと、煙猫が立ったままかけた手が扉にはさまれて身動きがとれなくなっていたのでしばらくは大人しくしてるかもしれません。

☆今月の一冊:『ピーターサンドさんのねこ(ルイス・スロボドキン作/あすなろ書房)