「 フラーレン : fullerene 」
球体は、最も小さい表面積で最も大きい空間を覆うことのできる形です。
その必要を見たすため、自然界でも人工物でも、しばしば球体が現れます。
しかし、表面を構成するのが曲面ではなく、硬い平面の組み合わせでなければならない場合もあります。硬い平面の組み合わせで作られた多面体を、より球体に近づけることを考えましょう。
球体はすべての面が均一です。多面体でも全体が均一に構成されているのは正多面体で、その中で最も球に近いのは20個の正三角形からなる正二十面体です。そしてさらに球体に近づけるため、すべての頂点を削ってみます。そうしてできるのが、正五角形を12個、正六角形20個で構成された切頂二十面体という形です。
切頂二十面体は、自然界でも人工物でもよく見られる形です。
一番身近なところでは、「サッカーボール」がまさに切頂二十面体です。実際はこの立体に空気を入れて膨らませることで、より球体に近づけています。
多くの「ウイルス」も、正二十面体や切頂二十面体の形をしています。ウイルスは同じ形の蛋白質をコピーして、キャプシドと呼ばれる外殻を作っています。その上でエネルギーの消費効率を上げるため、円に近い切頂二十面体の形が選択されるのです。
巨大な切頂二十面体の人工物である「ジオテックドーム」についても考えましょう。思想家であり、建築家であったバックミンスター・フラーは、人類の生存を持続可能なものとするための、最小で最大の効果を引き出す構造を研究していました。その中で、同じ形の素材を組み合わせ、より大きな荷重にも耐えられる建造物「ジオテックドーム」を設計しました。ジオテックドームは、主に切頂二十面体をもとにして作られた、三角形のガラスで構成された透明で巨大なドームでした。
これらの形に全て共通しているのは、より少ない単位で構成され、より効率的に、より丈夫な構造を求めた結果、切頂二十面体が選択されたことです。
そして最後に、近年発見された切頂二十面体を紹介しましょう。
それは純粋な炭素で構成されたサッカーボール、「フラーレン」です。フラーレンは、炭素分子の同位体C60で、炭素原子の60個で構成されています。C60は、切頂二十面体以外の形をとることもありますが、最も安定しているのがフラーレンの形です。フラーレンの名は、その発見の2年前に亡くなったバックミンスター・フラーに敬意を込めて名付けられたものでした。