日本のヤバい女の子
【4月のヤバい女の子/女とヤバい女の子】 ●有明の別れ(巻一) ――――― 《有明の別れ(巻一)》 二条の左大臣家は長い間世継ぎに恵まれなかった。ようやく待ち望まれて女の赤ちゃんが生まれたとき、「この子を男性として育てなさい」という神様のお告げがあった。 父親の左大臣は娘を男装させて育てることにした。同時に、娘も生まれたと偽って架空の姫君を作り出した。 父の作戦は成功した。少女が屋敷の多く深くで誰…
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【3月のヤバい女の子/献身とヤバい女の子】 ●おかめ ――――― 《おかめ伝説》 長井飛騨守高次は窮地に立たされていた。 高次はベテランの大工である。京都・大報恩寺の本堂の工事を任され、がぜん張り切っていた。 しかしなぜかーーー自分でもなぜそんなことをしてしまったのか分からないのだがーーー木材の寸法を間違って切断してしまったのだ。 それもただの木材ではない。この日のために信者から寄進された特別な木…
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【2月のヤバい女の子/執着とヤバい女の子】 ●橋立小女郎 ――――― 《橋立小女郎》 天橋立の近くに一匹の狐が住みついていた。頭が良く、意地が悪く、毎日のように通りかかった旅人や漁師を騙すので、皆手を焼いていた。 素行の悪さを隠すように可愛らしい娘に化けて現れる狐をいつしか人々は「橋立小女郎」と呼ぶようになった。 ある日、一人の漁師が浜で舟を出そうとしていると、松林から突然見たことのない娘が現れ、…
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【1月のヤバい女の子/後戻りとヤバい女の子】 ●宇治の橋姫 ――――― 《宇治の橋姫》 暗闇の貴船神社に一人の少女が立っている。真夜中にたった一人で参拝する様子は尋常ではない。少女はある女のことを考えていた。妬ましい、憎らしい女だ。 どうしてもあの女を抹殺したい。少女は自分を生きたまま鬼に変えてくれるよう貴船神社に祈った。 七日ののち、お告げがあった。 「髪で五本の角を作り、顔に紅を、体じゅうに丹…
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【11月のヤバい女の子/下ネタとヤバい女の子】 ●鬼が笑う ――――― 《鬼が笑う》 峠を嫁入りの籠が行く。裕福な家庭の娘だった。人々がおめでたい行列を作りぞろぞろと歩いていく。と、そこへさっと黒い雲が現れ、花嫁をさらっていってしまった。 目の前で子供を拐かされた母親は半狂乱になり、娘を探す旅に出る。歩き回っているうちにすっかり日が暮れたので、宿を借りようと山の中のお堂を訪ねた。 古いお堂には庵女…
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【10月のヤバい女の子/証明とヤバい女の子】 ●山姥と百万山姥 ――――― 《能「山姥」》 都に有名な遊女がいた。彼女はスターだった。「山姥」の曲を歌わせるとたいそううまく、人々からは「百万山姥(ひゃくまやまんば)」というあだ名で呼ばれていた。 ある時、百万は親の十三回忌のために善光寺へ詣でようと、従者とともに旅立った。 越中・越後の辺りへ辿り着いた一行は、山を越える道を里の男にたずねる。 男は上…
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【9月のヤバい女の子/理不尽とヤバい女の子】 ●トヨウケビメ(羽衣伝説/奈具の社) ――――― 《羽衣伝説/奈具の社》 岩陰に水音と女の声。 丹波の山にて八人の天女が水浴びをしていた。 飛沫が舞い、傍らに置かれた彼女らの羽衣を湿らせる。薄く発光するように美しい布は岩の上に無防備に投げ出されたままだ。 軽やかに遊ぶ八人に、ふと不穏な影が近づく。近くに住む和奈佐という老夫婦である。彼らはこっそり水辺に…
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【8月のヤバい女の子/別れとヤバい女の子】 ●乙姫(浦島太郎) 泳ぎに行きたくて居ても立ってもいられない日々です。雑誌なんかもう、Instagramに最適な浮き輪やら水着やらでお祭り騒ぎです。みんな海のことを考えている。魅力的で恐ろしく、優しい海のことを。 ――――― 《浦島太郎》 昔むかし、浦島太郎という漁師がいた。ある日魚を釣りに行った浜で子供が亀をいじめていたので、かわいそうに思い助けてやっ…
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【7月のヤバい女の子/口紅とヤバい女の子】 ●倩兮女 ――――― 《倩兮女(けらけら女)》 良い夜だった。男は一杯引っかけてほくほくと夜道を歩いていた。飲み歩いているうちに随分遅くなっていたらしく、辺りに人影はない。 最初は酔いのせいだと思った。誰もいないはずなのに、視線というか、気配というか、とにかく何かが「いる」ような感じがするのだ。 始めのうちは「昔はいくら飲んでもそんなことなかったのに俺も…
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【6月のヤバい女の子/夏服とヤバい女の子】 ●山姫 春が更け、衣替えの季節です。 夜でもぬるぬると重い、湿気に満ちた空気が透明な息苦しさになって体を喜ばせる。腕の内側を風がすり抜けていくのがおもしろい。 毎朝袖丈やら上着やらに悩んでしまってあわや遅刻の日々です。先週の日曜、衣装箪笥の中身をすっかり入れ替えました。 誰からも恐れられる女の子も夏の装いを楽しみにしているでしょうか。彼女たちも青い開襟シ…
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【5月のヤバい女の子/我慢とヤバい女の子】 ●飯喰わぬ嫁 ――――― 《飯喰わぬ嫁》 あるところに独身の男がいた。彼はとてもけちだったので、「結婚すると妻の食費がかかる。飯を食わない女がいたら結婚してもいい」と言ってずっとひとりで暮らしていた。 まわりの友達は(この調子では、こいつはずっと独り者だ)と思っていたが、意外にも彼はある日突然結婚した。何でも、ほんとうに飯を全然食わない女だという。 そん…
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■新生活とヤバい女の子 ――――― ■絵姿女房 一枚の絵があった。女の絵だ。少しはにかんで、目とくちびるの端に微笑をたたえた女。この絵は彼女の夫のために描かれた。うつくしい妻の姿に目を奪われたきり仕事が手につかない男のために、妻が描かせたのである。 結婚してからというもの24時間妻に見とれていた男は、絵を懐にしまい込みようやく畑仕事に出た。少し耕しては絵を眺め、少し耕しては眺めするものだからいっこ…