当番ノート 第8期
世のなかにはいろいろな生き物がありますが、そのなかでも妙に気になる生き物があります。 カタツムリに寄生するロイコクロリディウム、虫に寄生する冬虫夏草、胞子で自分を殖やす変形菌やキノコの類い、 こんなものがなんとなく気になって、たまに絵の題材にしたりします。 この生き物たちのなかで特に気になる点は、自分と自分以外の境があいまいであることです。 自と他を区別するもの、それはきっと遺伝子でしょう。 では…
当番ノート 第8期
「21世紀は、27歳で迎える」 これは僕が小学生のときに、 ドラえもんに出てくるような未来の世界を思い描きながら、 指折り数えた魔法の数字である。 同時に、その記念すべき年明けに27歳になっている自分を想像した。 この「21世紀は、27歳で」のフレーズはその数字の単純さゆえに、 大人になってからも思い出すほどずっと僕の中に残り続けていた。 ああ、あと何年か、と。 そしてやってきた2000年の暮れ、…
当番ノート 第8期
「西海のフュフィファルフォスに住む海の民の間には、こんな伝説がある」 …真っ暗い深海を泳いだり、その底を歩いたりしていると、彼方から赤々と燃える火の玉が近づいてくる。次第に、何かが地面をがたごとと走る響きや、みしぎしという軋みが一緒になって聞こえてくる。それらは猛烈な勢いでやってくるが、こちらは金縛りにあって身動きが全く取れない。すると、一人の奇妙な格好をした貝人(かいじん)族の男が、炎に包まれた…
当番ノート 第8期
美しいものをみた 空気がすうっとしている 洗われたような空を見上げて星の瞬きを見る 風が吹き抜けて木が音をたてた 目を閉じると怖いけれど何かに守られているように感じる 人気がなく神々しい そこから何かが種々産まれる根源がある いつも何かに揺れ動いている自分 思いやりにあふれていたり、壊してしまいたくなったり、 いろんな思いをいったりきたりしている でもそこに行けば分かる 聖堂のような場所 星が瞬い…
当番ノート 第8期
トランプの塔を組みあげるような手つきで、書類を美しく積み重ねることに情熱を傾けていた男が、服は洗濯せず畑で燃やす主義の女と結婚した。 彼らが籍をいれたのは、彼らのひとり息子が結婚する半年前のことだった。 港町からやってきた美しい娘と息子の縁談がまとまったのち、花婿の両親が正式な夫婦ではないことが判明した。こんな家にだいじな娘をやるわけにはいかない、と花嫁の両親は激怒した。婚約はあわれ破談する…
当番ノート 第8期
結婚式の撮影のお仕事をいただきました。 幸せな時間に包まれ式は進んでいきます。 式もいよいよ終盤になり、新郎新婦の生い立ちから出会いまでの スライドショーがスタートしました。 可愛い写真や楽しい写真が流れていく中で、両家のご両親の結婚式の写真が出てきました。 金屏風の前で撮られた、何の変哲もないお二人の写真。 緊張のせいか表情も硬く見た瞬間には、お世辞にも良い写真とは言えませんでした。 でも、その…
当番ノート 第8期
作為のない絵を描きたいと思うことがあります。 絵なんてものは100%が作為なので、それならば何にも描かないほうがいい、ということなのでしょうか。 私が描きたいのは、なにかのひとつの法則、ひとつの主張、ひとつの流れ、が、そのまま結晶になったもの、というか。 私は鉱物標本が好きです。 それは、否応なく作り上げられた塊、物理法則がそのままかたちになったもので、その純粋さがうらやましい。成長過程がそっくり…
当番ノート 第8期
マンボウは緑色のビニールシートで保護された水槽の中にいた。 何年か前に水族館に行った時、 僕はそのマンボウの水槽の前で、 長い間忘れていたことを思い出していた。 それは僕がまだ学生のころ、時間はあるしお金はないしで、 バイクひとつで日本中を旅していた時のことである。 その日は海を渡るためにずっとフェリーの中で過ごしていて、 深夜になってもなかなか寝付くことができず、 デッキにでて風にあたりながら気…
当番ノート 第8期
お久しぶりです。変わらずお元気でいらっしゃいますか? こちらは元気です。新しい職場への行き来の折、毎日のように宇宙空間を散歩していますが、その度に驚くほど多くの発見があります。この数カ月間で特によく感じるのは、辺りの星雲の霞(かすみ)がより深くなり、星ぼしの色やかたちに大きな変化が現れ始めたということです。 あなた方がお住まいの地球とは異なり、この辺りでは季節の巡りがとてもゆるやかです。七つの季節…
当番ノート 第8期
京都は祇園にあった小さなお店 そこは9席ほどのカウンターがあって、確か後ろに二人掛けの机がふたつほど 真ん中には70歳くらいのおばあさんが一人で切り盛りしていた 入り口の窓には鮮やかな黄色いレモンが飾られて 観光客が多い通りにひっそりと小さくそのお店はあった 見落としてしまいそうなほど地味な外観に、初めて入る時はいたく緊張をした 時々咳をしてしゃがみこむおばあさんは どう見ても具合がいいとは言えな…
当番ノート 第8期
1世紀前、蜃気楼がぽかりと浮かぶ北の港町で「町いちばんの美(うつく)しっさん」と呼ばれた男の血を受け継いだ女は、その美しさの呪いにより、生涯にわたって苦労をせおうことになった。 美しい男——わたしの曾祖父は、地主の14番目の子、待ちに待った嫡子として生まれたが、医者から「20歳を待たずに死ぬだろう」と告げられた。 長らく男子がうまれなかったことから、地主夫婦はやむなく、長女の婿を跡継ぎにする…
当番ノート 第8期
静岡で小さな写真屋と小さなギャラリーとレンタル暗室を営んでおります大野と申します。 ご縁をいただき4月、5月とアパートメントさんにお世話になることになりました。 よろしくお願いします。 さて、冒頭でお話しをしたように僕は小さな写真店を営んでいます。 以前は皆さんの住む街のあちらこちらにありました「街の写真屋さん」。 フィルの現像やプリントをしたり・・ 証明写真を撮ったり・・ アルバムやフレームを販…