長期滞在者
まっすぐに、やりたいことに向き合っている人々は美しい。たとえ、泥だらけであっても、汗だくであっても、全身から滲み出る美しさがある。そんな人々の仕事に触れると、不思議と自分まで背筋が伸びる気がする。ありがたいとさえ思う。 先日、徳島を拠点として活動しているBuaisouのトークイベントに足を運んだ。ひょんな偶然から彼らのことを知ったその翌日に、家の近所のPaddlers Coffeeさんでイベントを…
当番ノート 第33期
半分こえた。 という文句で始めたこの連載も、半分をこえた。 というのは言いたかっただけで、本題は昨日「ソール・ライター」展に行ってきたことだ。渋谷のBunkamuraで開催されていた。 ソール・ライターというのはアメリカ人の写真家で、ニューヨークを舞台に写真を撮り続けてきた。ときどき絵も描いた。 若い頃は芸能人の華やかなグラビア写真で有名になったけど、60歳くらいに引退して、以降は何気ない街の風景…
長期滞在者
できて間もないGINZA SIXは、大勢の人でごった返していた。 銀座に来慣れている人、あまり来なさそうな人、アジアからの観光客。ショッピングバッグを持った人、草間彌生のかぼちゃの写真を撮っている人。ファッションブランドに勤めている恋人によれば、オープン以来新宿や表参道から銀座へと人が流れているそうで「松坂屋跡地にできた、銀座エリア最大級のデパート」という触れ込みは伊達じゃないらしい。誰もがこの新…
当番ノート 第33期
[第四話 大切な仲間について] 突然ですが、皆さんに[仲間]っていますか? 私にはいます。 沢山いる中のひとつが「WHiTEBEACH」の皆だと思っています。 そう、私が所属していたアイドルグループのことです。 そもそも私がWHiTEBEACHをクビになったのは、端的に表現すれば、「素行不良」でした。 一生懸命だったのは間違いないのですが、自分のことばっかりで、メンバーやスタッフさん、ファンの皆さ…
当番ノート 第33期
魔法の言葉が手に入ったと思ったのに 気づかぬ間に僕の手の端からこぼれ落ちて いつの間にか灰色の抜け殻だけ あの輝きがなんだったのか思い出せない 土曜日の商店街の雑踏の中 僕の目は君の姿を捉えたはずなのに 僕は目を逸らした 君は気づかぬまま僕の横を通り過ぎた 雑踏と僕は溶けて同じになった 千切れた思ひ出つなぎ合わせて 寂しさを噛み殺す 夢に堕ちようとする 手首に漂うジャズクラブの香り 嘘みたいな本当…
当番ノート 第33期
ホステル(ゲストハウスとも言いますが、僕はホステルと呼ぶのが好き)での仕事は、基本的には掃除がメインの地味な仕事ではありますが、日本全国、海外からのゲストとの出会いは、僕にとって、他の仕事ではなかなか味わえないとても素晴らしい価値あるものです。 他府県の話を聞いたり、海外の料理を作ってもらったり、自分は京都にいながらまるで毎日国内旅行、あるいは海外旅行をしているかのような、少し非現実的を味わえる仕…
当番ノート 第33期
いつから大人になるんだろう。 成人したら大人なのか、社会人になって自立したら大人なのか…それとも…。 2年前の6月に夫の母を看取った。大往生だった。私たち夫婦のことを「わたしのこども」という人たちがこの世からはみんないなくなった。 義母の葬式の帰りの車の中で、「もうこれで私は大人なんだ」と思ったのだ。55歳にもなった大人が思うことではないのかもしれないのだけれど、「今までは…
当番ノート 第33期
プレイリスト作りが難航している。 職場の向かいの席の人から、RADWIMPSでひろやすさんが好きな曲を詰め込んだリストをくれという要望をもらったので、ハイ喜んでと答えたものの、いざ並べてみるとしっくりこない。好きな曲だけだとやっぱバランスがね。リストには流れってものがあるし。緩急とか。その人の音楽の好みも考慮しないと。「前前前世」は入れとくべきか。 RADWIMPSってバンドが好きです。というのを…
当番ノート 第33期
卍第三章 移住生活in岩手県久慈市卍 スーツケースに小型のテレビを入れて、親友たちに見送られ、東京-久慈間を結ぶ夜行バスきずな号に乗り、12時間揺られ、私は単身岩手県久慈市にやってきました。 2016年4月のことでした。面接以来2回目の久慈市です。 久慈市にやってきて、最初にやったことはスイミングスクールに通うことでした。 [海女さんになりたい!!!] その気持ち一心できたのはいいものの、泳ぐこと…
当番ノート 第33期
薄暗い部屋の中、僕はふいに目を覚した。 ・・・というより頭が痛くてうまく眠れない。 きっと少し酒を飲み過ぎたのだろう。 首の後ろ、頭との付け根あたりにズンとくる感じの鈍い痛み。 こういう時は大抵目の奥の方からも痒いような痛いような感じがする。 そんな痛みに襲われながらも僕は目を開いて こうやってその状況を文章に起こそうとiPhoneの画面を見つめている。 文章に起こしてみるといかに自分が現代文明に…
長期滞在者
夜、橋の下で暗い水面の写真を撮っていた。 ほとんど真っ暗で、橋の外れにある遠い人工照明が青く弱く水面に漏れるだけ。 かなり長時間シャッターを開けなければ写らないような暗さで、揺らめくかすかな青い光が面白く、つい30分以上そこにかがみ込んでカメラのファインダーを覗いていたのだった。 30分間微光の下にいて、ふと気がつくと、青いと思っていた光からいつしか色が消えている。 白い光が水面に揺らいでいた。 …
長期滞在者
彼女の微笑みを見た瞬間、私はこの人に出会えて良かったと思った。 4月に出会ったアラビア語の先生は、イラクのバグダット生まれ、バグダット育ち。 教室にはいつも笑顔で入ってきて、明るい声でアラビア語の挨拶を交わしてくれる、とてもチャーミングな先生。 彼女はアラビア語だけでなく、中東の文化やイスラム教のことなどを、地上の目線で教えてくれる。 ある時、私は彼女が語るイラクの現実の話を聴いているうちに、涙を…