当番ノート 第49期
最近はふだん一緒にいる人のおかげで、ほんとうにいろんなところへ旅をするようになった。今まであまり一人旅をしてこなかったのは、じぶんの頭の中のうるささと対峙したくなかったからかもしれない。ほかの人のことがわからないからどうにも比較はできないけれど、毎日、起きたときから眠りに落ちる瞬間まで頭の中にはっきりとした言葉がたえず浮かんでいる。暮らしのノイズというのは「非日常を取り入れる」というテーマのために…
当番ノート 第49期
自分とそれ以外の境界線、あるいは自分というなにかの輪郭について。 *** 自分と他人のふたつが別々の存在であることは、たいへん明快な真実だ。他人は自分と別の体を持ち、自分とは別の心で思い、考えている。自分の体の調子や気持ちが自分にしかわからないように、他人の調子や気持ちもその人にしかわからない。どんなに近しい存在、生みの親や、愛する人だとしても、彼らは自分とは異なる存在である。 では、他人という表…
長期滞在者
年越しは飛行機の中だった。大晦日の成田空港は案外空いていて、ちょっと拍子抜けしてしまう。 飛行機の中で迎える新年は日付変更線との追いかけっこで、「いままさに新年になった!」という実感はない。 だから大晦日の便は人気がないのかな。 案外いいものです。2019年と2020年が隣り合う世界を行き来するのは。 あけましておめでとうございます。今年もよろしくね。 1月10日(金) 帰国。長時間のフライトで身…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
無地よりも柄ものが好きで、その結果、合わせにくい服ばかりがタンスに増えてしまう。ベーシックな無地の洋服は万能。ファッション雑誌には着回し、3 way、スタンダードという言葉が踊る。そういう服はあらゆる場面にも着ていけるだろう。でもあらゆる場面っていつのことで、何回くらいあって、どれくらい心踊るだろう? 好みの柄は目にした瞬間から私を喜ばせてくれる貴重な存在だ。そして、複数の色づかいが幸せを感じさせ…
当番ノート 第49期
君が跡形もなく居なくなった生活はかなしさよりも日常の坂道を転がり続けることだった。損失、そこなう、底無しの幸福のコロニーの中、朝日で部屋に浮かぶ薄い埃たちが輝いてスローモーションのスノードームのように。 幸福の象徴は波風のない日々が続くこと 愛してるって偶像の中、幾度も輪郭を確かめて、君の鼻のかたち、唇の縁取り、37度程度の体温、孕めたかなしみはありもしないもの 鬼さんこちら、手の鳴る方へ 囃し立…
当番ノート 第49期
朝が苦手というよりは、夜のことが好きすぎるのかもしれない。人びとがみな寝静まっていて、気配がない。守られた部屋の中で、この惑星の中でたったひとり、わたしだけが起きているような錯覚。朝よりも、昼よりも、自由をゆるされているようにもおもえる。わたしをとがめるすべてのものも、きっと眠っているような気がするから。 家で仕事をするようになってから、前よりももっと起きるのが下手になった。身体がベッドの底に沈ん…
当番ノート 第49期
あたりまえがあたりまえになったのって、いつからだった? *** ふと、すごくびっくりした。 「心のなかで何かを思ったり考えたりしてるとき、内側で話している声は、どこから聞こえてくるんだろう」 初めてこのことを不思議に思ったのは、たしか幼稚園生くらいの頃だったと思う。 「ねえ、鹿ちゃんはしゃべってないのに、鹿ちゃんにだけ鹿ちゃんの声が聞こえるのは、なんで?」 「それはね、鹿ちゃんが心のなかで『思って…