煙が来てからというもの、眠りの精は悲鳴を上げて逃げ去り、彼らが身にまとっていた闇色のドレスは煙に喰いちぎられ無残な姿をさらしている谷底の部屋へようこそ。煙の朝駆け夜討ちで私は慢性的な寝不足です。
黒猫といえば魔女。黒猫を飼うことになって、それでは私も魔女に成りすましましょうと一人ひそかな盛り上がりを見せていたのですが、ひきとった猫は黒猫と呼ぶには何かがおかしい。以前からこの猫の容姿はみすぼらしいと家族内でまことしやかにささやかれていたのですが、先日、私の体にぴたりと身を寄せて丸く納まっている猫を撫ぜていたら気づいたことがありました。逆毛を立てると現れる和毛。さらによく見ると、どうやら毛の表面だけが黒くて内側の毛は白い。面白くなって毛をぐしゃっとかき混ぜたら、ほこりでもかぶったようなもしくは焚き火の後のか細い煙のような、黒と白が綯い交ぜの奇妙な風貌の猫がそこに現れました。というわけで、コートを着、ニャンとすまして黒猫きどりなのが我が家の猫です。ブラックスモークという毛色だそうで、その聞こえから斜にかまえて睨みをきかせた不良猫が思い浮かぶのですが、その落ち目ぶりはむしろ格好良い。というわけでこやつの名前は仮に煙と決めたのでした。
=^. .^= 今週の猫本―うちの猫は魔女の猫―
魔女と黒猫の物語は山とあるのですが、その中でも私のお気に入りがこの本です。
市でほうきを探しているロージーの前に現れた大きな黒猫。黒猫の誘うような足取りについてくとみすぼらしい格好のおばあさんがいました。そのおばあさん(実は魔女)からほうきと黒猫を買い取りますが、このほうき、にぎっていると動物の言葉が分かり空も飛べる代物でした。
黒猫いわく、自分は猫の王子だが魔女から『音なしの魔法』をかけられている。この魔法がかけられている限りほうきを持っている人間のどれいでなければならず、魔法を解くには、ほうきとぼうしと大釜を揃えないといけない。それを聞いたロージーは知恵ある黒猫とこれらを探しに奔走します。ロージー自ら考えなければならないまじないの数々も愉快です。
この物語はファンタジーにも関わらず、猫が猫らしく描かれています。猫をじっと観察したことのある人なら思わずうなずいてしまうようななにげない仕草がちりばめられており、うちの猫もまさか……と思わせてくれるところがあるのです。わが家の煙は黒猫から落ちこぼれてしまいましたが、この本を読むときだけは文中の猫と煙を重ね合わせ、いつか煙もエブリデイ・マジックの世界を繰り広げてくれるとほくそ笑んでいます。
「ネコにはとけぬ魔法のために、子ネコは星の間にすわる。
子ネコの王子を救い出す/三人の女王があらわれるまで、王座にすわるものもなく。」
―黒ねこの王子カーボネル より引用