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2F/当番ノート

うりゃりゃ 第三話

当番ノート 第4期

「ええっ!グルメ三昧ツアー??そんなのわざわざこの島でする必要ないじゃない。
東京のデパ地下ででもやってるんだし。どうしちゃったのケリーちゃん。最近疲れが溜まってるんじゃない?
グルメ三昧ツアーにでも行ってきてリフレッシュしてきなさいよ。ええっ!グルメ三昧ツアー??
ちょっとケリー。それって島でやってみたら面白いじゃない!!やろうよ。」

ケリーは疲れていた。マッサージチェアに100円追加しようにも手持ちが100万しかない。

「100円玉ってどんな形をしてるのかしら?」

ケリーはふと思う。
(5円ハゲってのは昔、オンバを持っていた祖父から一度だけ聞いたコトがある。
でも100円玉って本当に頭皮にそれほど悪いものなのかしら?私にはどうしてもそうは思えないマン。)

「ケリーさんお電話です。何やらケニーさんという方から。」

「え?ケニー??私はケリーよ。どうせ人違いでしょ。電話切ってちょうだい。今疲れているから。今と言わず金輪際私疲れる予定マン。」

武智は静かに受話器を置く。
武智がこの島に来てから早5年が経つ。

武智は命を絶とうと思ってこの島にやってきたのだ。

立とうにも立たせることが出来なかったのだ。ななえに対して。

「武智。人の愛の形は採石場で採れる石の使い道よりは少ないと思うですしー。」

ななえは海ホタルを放出しながらいくらか輝きを取り戻した。
ななえもかつてはビーチガールズとして名を馳せていたのだ。

長谷寺あたりか。まだ鎌倉の大仏さんが足腰がしっかりしていて、元気に七里ケ浜までスケボーに乗っていた頃は金輪際無かった。

ななえは武智と三人でクラゲ漂う海を深夜まで飽きもせず眺めていた。
まあ飽きるわな。なんせプラヌラの段階だ。ななえはこの年プチグラパブリッシングに退職願を出したのだ。

「プッチモニなんて。」

武智の言葉はもちもち生そうめんのように、いつもと違って甘い味わいの弾力がある。
武智はこの界隈の不良どもの間では「カミソリの団吉」と呼ばれている。
もっともこの界隈は教育熱心な親御さんが多くて不良が昔っからいないのだ。

武智がいじめようにもいじめれるのは、ななえの下半身だけだ。

「カミソリの団吉ってのはね。高校の時に演劇部の先輩のケニーさんが付けてくれたんだよ。」

「ケニー?あのデニーズでいつも珈琲一杯で朝まで鍋パーティーをしていた?」

鎌倉の大仏が驚いた顔をしたいのだけれども仏頂面で困っている。
神様じゃないのだ大仏さんは。アーレント読んでたってアーメンなんて言えやしない。
だったらTUTAYAでオーメンを借りてくるよ。アーメン。特別記念セールでレンタル100円。

「ケニーさんにはほんとお世話になった。ケニーさんのお陰で今年はいい夏になったよ。
本当いい夏になった。まあ、今年の夏、ケニーさんいないんだけどね。」

武智はその年の春に、ケニーにジョナサンに呼び出された。
いつもデニーズに呼び出すケニーがジョナサンにだ。

その年にジョナサンリッチマンが日比谷の野音に来日したコトは当然武智も知っている。

しかし、不失者であるケニーがそれだけの理由でジョナサンに呼び出すわけがない。

「ロイヤルホストでも良かったじゃないですか!」

武智は開口一番にケニーに耳打ちする。チッ!!!

「武智。お前とは今夜手打ちにきた。この後、手打ちのもちもち生そうめんを食べに行こうと思っている。
だから今は耳打ちするな。」

「ホストは止められたのですか?」

武智がケニーに舌打ちをする。あ!舌打ちのチッ!!!はここで挿入か!!!(コピーライター養成講座より)

「ホストは昨日止めたよ。退職願は座間のポストに投函だ。座間ー見ろだ。座間の景色をゆっくり見てきてやったよ。
武智、お前座間に行ったことある?あそこ海が見えないんだぜ。ザマーッスサマーってな気分。」

「座間のご実家に帰られるのですか?ご実家、弘前ですよね。」

「ファミレスってのはね。そりゃ沢山あるよ。24時間オープン?オープンテラス無いよ。だから確かに便利っちゃ便利だ。でもね。武智。朝の3時に家族全員がファミレスでオリーブ牛バーガーを頬張ってたらお前どう思うよ。オレ何とも思わねえ。」

「しかし、ケニーさん!昨夜溜池山王のA&Wであなたはオリーブハマチバーガーを家族で頬張っていましたよ。
ご自身が竹島で放流されたオリーブハマチを。」

「竹島にしばらく行こうと思ってるんだよ。なんかなあ。人生の立て直しって言うか、、、まあなんだな。
デモに行く度に、『でもなあ、、、』って思う暮らしもなんだかんだだよ。だから武智。お前とも当分会わないと思うよ。
人生立て直しだー!立て直せる竹島で?わかんねえや。じゃあねー。竹島行ってないかもよ!」

後ろにEZLNのバックプリントを着たケニーの後ろ姿を見たのはそれが最後だ。
ケニーはその夜のジョナサンの支払いを多めに何故か支払った。
100円多めに。

「武智、あなた100円玉って見たことある?」

ケリーが武智に問いかける。

ケニー。
ケニー?
ケニー??

先ほどの電話で受話器の向こうの男は確かにケニーと名乗っていた。

聴こえ始める。

ジョナサンリッチマンのしゃがれた声が弘前のねぷたの喧噪に入り交じりながらも。

(続く)

藤井 佳之

藤井 佳之

四国の高松という街で、完全予約制の古本屋を営んでいます。名前は、「なタ書」です。
「なんで予約制なんですか?」とよく聞かれます。「お客さんがあんまり来ない」からです。

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