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2F/当番ノート

うりゃりゃ 第五話

当番ノート 第4期

「こう見えてもあたし大学で歴史学を専攻していたんだから。選考にモレスキンのノートを抱えてそのままトイレに駆け込んじゃった。トイレは駆け込み寺じゃないのにね。いけね、あたしあの時何やってたんだろ。若気の至りかな?そして今は薄毛のたたりね。」

「ごめんね、あっこ。この島で離婚式が御法度なんて知らなかったのよ。ついケニーさんの口車にのせられて、、、」

渋沢は自分が一体どこに閉じ込められているのかすら分からない。あたり一面がダークブルーなのだ。

「誰も知らないのよ。素顔のケニーは。」

「え?ケニー。あっこ、あなたケニーさんのコト何か知ってるの?」

あっこは渋沢に2分前に電話で呼び出されていた。もちろんそれが離婚式の案内だとはつゆ知らずに。

「あっこ?あたし。ケリーよ。大学のゼミで一緒だった。久しぶり!ちょっと調べて欲しいコトが出来たのよ。」

1ヶ月は経つだろう。あっこが大学を卒業して以来会ってなかったケリーからの電話を受け取ったのは。

(コクのある甘だれで卒論を塗りそめているなんて言えないわ)

「二人とも!今回の離婚式は見なかったコトにしといてやる。もっともオレ見てないんだけどね。」

カラミ煉瓦で編まれたニット帽を被った男が、手に持っているライトで渋沢とあっこを照らす。

「あれ?あなた、おでこだけ光り始めたですしー。」

「ん?んんん??どこだここ?確か離婚式を始めて最初の5分くらいで渋沢ちゃんが、、、あれ?」

「知れば知るほど浅はかさが見えてくるですしー。あ、私の名前はななえといいますですしー。」

ななえは樹齢250年はあるであろう老木の側でその男を見つける。男の脇には一台の一輪車が横たわっている。

「あなたはピエロですし?一輪車の練習してたですし?渋沢って誰ですしー??」

ななえからの立て続けの質問に、ケニーは頭をなんとか整理しようとする。

しかし、おでこの辺りがどんどん熱を帯びてくる。

「それにしてもさっきの足長蜂の大群はどこに行ったんだ?お前の足に刺さっている一匹だけしかいないじゃないか?」

ニット帽を被った男の姿が二人にハッキリと見えてくる。
明らかにカラミにくい風貌。

あっこは気付いた。

「あなた!武智軍の末裔ね!!」

「末裔?武智軍??馬鹿言うんじゃないよ。あっこ馬鹿だけど。末裔も何も武智だよ。」

武智はケリーに用事を頼まれてこの島に来ていた。どうやらケリーの学生時代の友人がこの島に来ているという。

「武智!おばあちゃんの笑顔がごちそうよ。だから、あっこという女の子以外の若い女の子を見つけたら、とにかく洞窟に隠していって。あの島の中腹には、その昔、武智軍が足長蜂から身を潜めたっていう洞窟があるらしいから。」

「分かりました、ケリーさん。しかし万が一若い男を見つけた場合はどうしたらいいのですか?」

「創作意欲が湧いている男はもうあの島にはいないはずよ。家族連れには嬉しいわね。武智。そういえばあなた家族いるの?」

家族。家族。。

武智家の末裔として育ってきた武智にとって、幼少の頃から「普通の家族」という存在は隣の芝よりダークブルーだった。

「家族か。なんじゃ家族ってー!!」

武智の両手はいつしか真っ赤に染まっていた。

「旨いオムライスにはねえ。売り切れ必須のケチャップってのがいるもんなんだよ。ケニーってこの島で名乗り始めた、、、ええっ!武智??なんでここにいるのお前??」

「ケニーさん!あなた竹島に行ったんじゃ??」

「武智。話しが長くなる。オレはもうケニーの名前を捨てたんだよ。そこのお嬢さん二人。悪いけどこの男とゆっくり話がしたい。ちょっと席を外してくれないか。いや待てよ。席を外さなくていいよ。男二人に女二人だ。ちょうどいい。今からこの四人で合同結婚式をやろう!」

合同結婚式は静かに始まっていく。

「おでこがどんどん熱くなってくるよ!!」

なんだ?この一輪車は??と思いながらもケニーはななえに湿布を要求する。

(続く)

藤井 佳之

藤井 佳之

四国の高松という街で、完全予約制の古本屋を営んでいます。名前は、「なタ書」です。
「なんで予約制なんですか?」とよく聞かれます。「お客さんがあんまり来ない」からです。

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