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2F/当番ノート

人心 ~ひとごころ

当番ノート 第7期

望さんに初めて逢ったのは
お祖父ちゃんのお葬式でした。

恰幅の良い身体に、優しい雰囲気。
初めて逢う、わたしの叔父さん。
当時わたしは小学生で
九州で見知らぬ親戚に囲まれて、もぞもぞしてたような記憶。

望さんは母の兄で、8人兄弟の5番目。
7番目の母とは歳が近く、特別仲が良いように感じてました。

二度目に逢ったのは、弟の結婚式。
その時もニコニコと優しい顔で、みんなとお酒を呑んでる姿を憶えています。

そして、三度目は一昨年の12月。
望さんは痩せて、不自由な身体で滋賀県にやって来ました。

ある病気の投薬がきっかけで、身体が思うように動かなくなって
どんどん弱っていく望さんに元気になって欲しい。
末っ子の叔母さんに付き添われ
料理上手な母の元へやってきたのです。

田舎ならではの澄んだ空気と自家製野菜と
わいわいと囲む、日々の食事。
美味しい、美味しい
望さんはそう言って、ちょっとずつ元気になっていきました。

一緒にいてほっこりする、望さんは優しい人です。
わたしはわたしのことを、優しい人だとは思っていないのだけど
優しい人には優しくなれる、ただそれだけのことかもしれない。

ある時、望さんの身体をマッサージしていたら
ボソボソと望さんが呟くので、「ん?」と聞き返すと

「きっとれいこちゃんは、良い人の縁に恵まれるよ」
そう言ってニコっと笑ってくれたので、
ああ、そっかーと
お母さんと仲がいい理由が、少し見えたような気がしました。

12月の晴れた雪の日の窓辺で
わたしは望さんの写真を撮りました。

あれから1年と少し、望さんには逢っていません。
仕事で近くまで行くことはあるけど、自由な時間がなくて
今の望さんがどういう状態なのかぼんやり知ってることもあって、逢いに行けないでいます。

知らなくていいこともある。
どうかこのまま、知らないままでいてもいいですか?

現実から逃げることは、悪いこと、なのかな。
わたしの中の望さんは、あの日で留めておきたくて。

逢いに行けない根性なしでごめんなさい。
一日でも長く、望さんがわたしのいる世界にいて欲しいと願ってるんだけど。

望さんはいまごろ、なにを想っているのかな。

初めて焼いた白黒写真。
大事にしてくれてるといいな。

望さんが持って帰った、2012年の手作りカレンダーの1月は
この針穴写真でした。

夜は必ず明けるから。
時は必ず進むから。

でも・・・たまには時が止まって欲しい。
そう願うときもあるのです。

八木 玲子

八木 玲子

琵琶湖畔在住

写真で生きてます
星と月と、ぼくらのこれから

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