「あのさ、綺麗な日本の言葉を教えてよ」
ふいにそう訊ねられて
口から出た言葉は、「ゐまち」でした。
「ゐまち」とは月の名前。
平仮名のほうがしっくりくる。
ほっこり座って空を眺めたら、ゆっくりと昇り出す月。
月の名前は、風流だなぁと思う。
その昇る様を、名前を聞けば想像できるんだもの。
その人は、月の昇る空を。
わたしは、陽の沈む空を。
背中合わせに湖岸に立って、綺麗だなーとか寒いねーとか
他愛のないことを呟きながら、夜が来るまで眺めてました。
2012年、きっと最後の秋晴れだった日。
忘れたくない、大切な一日。
この日の写真を公開するのは、実はここが初めてです。
その人はアパートメントが、大好きな場所だと言ったから。
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昨年の個展は2回目なので、「一掬」にサブタイトルをつけようと決めていて
最初の候補が「ゐまち」でした。
いろいろ思うところがあって
最終的につけたのは「朔」。
「朔」とは新月のこと。
新月は、物事のはじまり。
明けない夜はない、とはよく聞く言葉だけど
月の昇らない夜はある。
真っ暗な朔の夜から 時を刻めばか細い月が昇るように
目には見えなくても そこにはきっと・・・
大切なものは、きっとどこかに隠れてる。
それがどこにあるのかは、まだ見えてないのだけど。
あ、朔の次に昇るか細い月は
「既朔」って言うんです。
目を細めてやっと見えるくらいの月。
幸せってそうしないと、実は見えないものだったりするのかな。
外に出て空を見上げたら、ちょっと目を細めてみなくっちゃ。
今夜は既朔の月、なので。