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2F/当番ノート

パンくず

当番ノート 第13期

これから先、「私」と「今まで撮ってきた写真」にできることがあるとしたら、
2つ、挙げることができるだろう。

今日はそのうちの1つを。

「良いことも、悪いことも忘れちゃうからなあ。」

一緒に行ったところ、話したこと、思い出を、すぐ忘れる。
だから、いつだって写真だけが頼りなのだと
忘れっぽいあのこが言っていた。

思い返せば、私が写すとりとめもない景色に、
価値のようなものを与えてくれた人がいるとしたら
多分あのこだ。

「パンくず いっぱい 落としておくからさあ、」

なんて。

そんな話をしながらヘラヘラ笑ったのは、どの帰り道だっただろうか。

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いつも、大体、
隣か正面にいた。

交わす会話は決まって、同じ部の仲間の話。
「この間」や「あの日」や「あの頃」の思い出話。
叶う範囲と叶わないかもしれぬ範囲の
「いつか」や「今度」や「もしも」の話。

カメラを鞄に入れてきたことを思い出すのは
そんな他愛のない会話をしながら、
だらだらと校内を散歩している時とか
美味しそうにものを食べてる時とか
くだらないイベントやサプライズを練っている時とか だった。

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パンくず5
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アイスを頬張りながら帰った日
春っぽい曲を思いつくだけ歌って散歩した日
天気がいいからって授業をサボった日
夏よ 終わるな、と嘆いた日

劇的に嬉しいことがあったわけでも
劇的に悲しいこともがあったわけでもない、いつもの景色。

「忘れられない時」と「忘れたくない時」があるとして、
「忘れられない時」の前後に散らばった
この なんてことのない時のひとつひとつが
私の「忘れたくない時」なのだろう。

確かにそこにあったよ、と
いつかの自分や誰かに証明したい愛しい時なのだと思う。

たくさん計画していた「いつか」や「今度」を置きざりにして、
ついに 別れ道手前まできてしまった。
隣り合って、寄り道しながら歩いてきた私たちも
いよいよ別々の我が道を歩く。

当たり前に転がっていた 愛着いっぱいの毎日が
いつかは当たり前じゃなくなることを知っていたから、
歩いてきた道には、たくさんパンくずを落としてきた。

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そうだ、
いつの日か、

なんだか少し疲れちゃったなあ・・・なんて思う日がくるだろう。
どうやって歩いてきたのか分からなくなって、忘れてしまって寂しくなって、
泣き出しそうな時が、いつか来るのだろう きっと。

その時はどうか、
私が落としていったパンくずを辿りながら、
元きた道をあるいてみてほしい。

ゆっくり辿れば、自然と口元がゆるんだり、ぷっと吹き出したりできるはず。
もう一度先に進む元気をもらえるかもしれない。たぶんね。

それでもどうしても前に進めなくなってしまったのなら、
パンくずを辿りきった最後にいる私が、ポンと背中を押しにいこう。

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青臭い、と言われてもいいから
そんなパンくずみたいな役をもらえればいいなと思う。

きっとそれは私が残したものだけではなくて、
これを読む誰かが残したものだってそうだ。
残した自分や傍にいる人のための、みちしるべのパンくずになるかもしれない。

人間は、少しずつ忘れてしまう生き物だけれど、同時に
「思い出す」という瞬間も与えられているはずだから。
いつか思い出す時のために、
来た道にはたっぷりの 希望や愛情や思いを残しておきたい。

かみはら えみ

かみはら えみ

パンくずのようなものを落としながら歩いています。
紙の写真が好きです。
社会に揉まれ、順調に…過去の自分に鼓舞されています。

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