猫の名前は ”チロ”
わたしが10歳の頃に我が家にやってきた。
肩にちょこんと乗ってしまう程の小さな小さな猫だった。
あっという間に、たくましい大人の雄猫になったチロ。
わりと人懐っこく、でも淡々としているような性格だった。
家と外を行き来するチロはたくさん野良猫とけんかしては、顔や体に傷をおって帰ってきた。
野ネズミを捕ってきては、何度もプレゼントしてくれた。
夜はほとんど、外で過ごした。
夜寝る前になると、チロは夜の闇の中に消えていく。
チロにはチロの世界があるのだ。
雨の降った夏のある日、そんなチロは自ら姿を消した。
わたしが25歳のときだった。
猫は死に際を見せないというけれど、まさにチロもそうだった。
姿を消す前は、よぼよぼじいさんで、夏なのにこたつがないと寝れないし、
ごはんもろくに喉を通らない。
人間と同じ。
チロがいなくなって二年になる。
ふと思うけれど、チロはいつもどんなところを走り回って、どんな猫と出会って、どんな夜を過ごしていたのか
考えるときがある。
きっと、天国でもいつものように野原を駆け回っていることだろう。