そしてその黒のインクをよくひっくり返す。
机に、床に、紙に、ぐんぐん染みて行く真黒な穴。
そんなに世の中はっきり黒や白で収まらない。
穴の夢、昔よく見ていた。
穴がたくさん開いていたり、穴の中で眠ったり。
写真をフィルムで撮っていた頃、モノクロフィルムが好きだった。
今みたいにパシャパシャと撮れないから、光を見て慎重にシャッターを切った。
木漏れ日や雲の隙間から指す光や、
とても晴れた強い日差しの日にできるコントラストの強い影、夕日で伸びる影。
色のついた世界がモノクロに収まった時。
そこから世界の色を想像する不思議。
アーネストサトウのものすごく引き締まった写真も好きだったな。
デジタルカメラを使う今でもたまに白黒モードにして撮る事もある。
なんだか物事の距離感や、形、光がすっきりと輪郭が分かった気分になる時がある。
鉛筆のデッサン。
繰り返し描いた最初の白と黒の世界。
目の前の物をひたすら写し取る不思議な儀式。
黒色の上に鉛筆でぐりぐり色塗った。
同じ黒なのに、銀色の粉がこりこりと乗って輝いて宇宙の色。
黒に挟まれた色の世界。
その一筋の青や赤や黄色や緑は、隙間にいるような
ひかりのような、暗い舞台にスポットライトが当たってるような。
▲以前つくった作品、「鉛筆の国の住人」