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2F/当番ノート

プロポーズと内省(1月29日から1週間のこと)

当番ノート 第37期

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1月29日(月)

昨日の夜は楽しくて、おまけに手酌でウイスキーを飲んでいたものだから、だいぶ酔っ払ってしまったみたいで、現実に戻るまで記憶の糸を辿ろうとするけれど、途中で糸がぜんぶ切れてしまっているようで、恋人さんを揺り起こして、わたし大丈夫かな、と聞いた。恋人さんは「えーっ、覚えてないの?」と笑っていたけれど、案外にたぶん、大丈夫だったらしい。

1人暮らしのときは飲みまくった次の日はだいたい記憶がなくて、少しずついろんなことを思い出してきて、布団に潜って「恥ずかしい!」と叫んでいるうちに午前中が終わっていた。そういう意味では監督の行き届きがあるのはありがたいのかもしれない。まぁ、恥ずかしいのは変わりないけれど……。

夕方から業務委託先の会議に行く。電車の中で、太田明日香さんの『愛と家事』を読む。植本一子さんの帯文も素敵。これはZINEで発売されていたものに書き下ろしを加えた増補版で、わたしはZINEが販売されていたころから読んでいた。わたしは当時、荻窪に2カ月だけ住んでいて、年末に体調を崩して寝込んでいたときに、一緒に住んでいた女の人がプリンの材料と一緒に買ってきてくれたものだった。寝て起きると、手紙と手づくりのプリンと一緒に置いてあったのが『愛と家事』だった。明日はそんな太田さんとトーク。いろいろ聞きたいことがあって楽しみだな。

会社に行くと、テレビ局出身のすごい人が入社していた。わたしはここ4年くらいテレビをろくに見ていないけれど、そんなわたしでも知っているような人気の番組を企画したディレクターの人らしい。最近は人の入れ替わりというか、人の入れ入れが激しくて、名前がだいたいわからない。1週間に1回しか出勤していないのだからそうだろうという気もするけれど、もう少し会社に行っておかないと、仕事がなくなるかもしれないなーとぼんやり思った。

夜になっても二日酔いというかお腹が痛くて、うんうんうなっていると、仲良しの友達から電話がかかってきた。わたしの知り合いの編集者さんと一緒に近くで飲んでいるらしい。しかも、最近わたしの家から歩いて20分くらいのところに引っ越したみたいだった。引っ越したのは知っていたけど、そんな近くだなんて知らなかった。最高じゃん!

来なよ~、と言われて、行きたい~、という気持ちだったけれど、二日酔いで無理だ。断ると、「二日酔いに迎え酒をすれば“二日”酔いにはならない」というような愉快でわけのわからないことを言っていて、笑ってしまった。

好きな人たちが近くにどんどん引っ越してくる。実家の近くにいる妹も東京に来るかもしれないと言っていたし、みんなでご近所物語をやりたいなと思った。親友と呼べるお友達は札幌と京都と北九州に住んでいる。何年か後でもいいから、みんな同じ町内に住めたらいいな。ほどよい距離に住んで、ご飯を作り合ったり、子どもの面倒を見合ったりしたい。そうやって大きい家族をやっていきたいな。

1月30日(火)

今日は久しぶりの取材で、東池袋へ。テーマは「授乳」。知らなかったのだけど、公共の場で授乳している人をひどく嫌がっている人たちがいるらしい。理由はいろいろで、「授乳室があるなら授乳室に行け」とか「気持ち悪い」とか「不妊の人がかわいそう」とか、本当にいろいろだ。

実際に授乳をしているお母さんの人にお話を聞いてみたけれど、ケープを忘れてしまうこともあるし、子どもにとっておっぱいは“ご飯”だから、泣けばその場ですぐにあげたいと思うのは自然なことなのではないか、というようなことを言っていた。

昨年の年末にどこかの議会に赤ちゃんを連れてきた議員さんがいたことが話題になったけれど、そういうこととも繋がるけど、みんな、“嫌なもの”を外に追いやることで解決させようとしていないかなと思う。授乳室という社会から切り離された箱に追いやって解決。たとえば1つの街の中にどのくらい授乳室があるのか、知っている人がいるのかな。というより、赤ちゃんがどういうものなのか、ちゃんと見て触って知っている、知ろうとしている人はどのくらいいるのかな。

インタビューが終わって、インタビューされてくれる人の1人が「赤ちゃんが泣くのがうるさいって、思ったっていいんですよ。思うのは感情だから。それまで押し込めてしまおいとする人が多いから関わることをやめちゃうんじゃないかな」というようなことを言っていて、わたしにも少し思うところがあった。

家族と性愛をテーマにして活動し始めてから、お母さんの人と赤ちゃんに会うことが増えて、お友達のお母さんの人はすっかりお母さんの人になってしまった感じで、赤ちゃんが泣いても動揺しないであやしていて、わたしもニコニコしてあやすのだけど、心の中でうるさいなと思っていることもあって、そういう自分に気づいてしまって、いつも落ち込んで帰ることが多かった。お母さんの人の会に行くと、お母さんの人の意見が大きくなって、何となく勝手に肩身の狭いような思いと自分の至らなさをかみしめることになるので、だんだんと気が重くなっていくような心地がしていた。

でも、感じること、それはそれとしていいのだなと思ったら、すっかり気が楽になって、「実はそんなことを思っていた」と言うと、お母さんの人も「わたしも子どもに対してうるさいなと思うこともあるけれど、“お母さんなのに”と言われるから言えなくてつらいこともあるよ」と言っていた。関わらないことで生まれる、溝を埋めていきたい。

夜は楽しみにしていた太田明日香さんのトークショー。太田さんもわたしも、イベント主催の女性も長女だったので、長女しんどい問題についてとか、ZINEから出版に至るまでのお話などについて聞いた。

長女はしんどいはしんどかったけれど、母が悪いとも思っていなくて、逆にあんなに手をかけて大事に育ててもらってもこんな風に思ってしまうなら、わたしは子どもなんて育てられないだろうなと思う。しばらくは、みいちゃんで十分。

書くことについての話になったとき、「ののかさんは本とか出さないんですか?何かに形にしたり」と聞いてもらって、わたしは鼻息を荒くして「本とか出したいですよ~!」と言った。

noteで書いているのは魂の叫びみたいなところがあって、うにうにうにうにドドドドドーカンという感じなので、まとめようがない。ネットで書くと、知らない人からヤジを飛ばされたり、顔見知り程度の知人からメッセージが来て嫌なことを言われたりするし、もう慣れたけど、それでも何かそういうことにも疲れてしまった。だったら書くなと言われるかもしれないけれど、たとえ誰かに羽交い絞めにされても書きたくなってしまうのだからもう病気。吸ったら寿命が縮まるとわかっているけれど、吸いたいが勝ってしまうタバコみたいなゆるやかな自殺。長生きしたいですけど。

本出したいと叫びまくっていたら、帰り際に編集者さんが名刺をくださった。うれしい。どこかで本を出せないかな。

会場だった荻窪の「aruiteru」さんのクレープがもちもちのパリパリで、靴下がかわいくて、わいわい買ってしまった。店主のゆかさんはハツラツとしていて、きれいだし、人間的にもかわいい感じの人で、また遊びにきたいなと思った。

1月31日(水)

みいちゃんのくしゃみが止まらなくなって、病院へ。名前がくしゃみちゃんなのに、くしゃみが止まらないんです、と言うのはバカっぽくて申し訳なくなる。

抗生物質をもらって帰り際、「タバコとかアロマとか生花とか、家にないよね?」と先生。思いっきりギョッとしたままの顔で「ないです」と言う。帰ってすぐに灰皿の吸い殻とアロマ、買ったばかりの生花を捨てる。みいちゃん、本当にごめんね。

みいちゃんは最近、ぼーっと一点を見つめたまま動かないことが多くて、ずっと心配していたのだけど、まさか部屋に原因があるとは思っていなかった。寒さも苦手らしいので、みいちゃんのすみかになっているベッドの下に毛布を敷く。ベッドもみいちゃんのなわばりだし、寝床関係のいろいろをみいちゃんにどんどん費やしている。そのうちお部屋ごと乗っ取られそう。なんでもいいけど、早く元気になるといいな。

午後は渋谷で40世帯くらいの共同生活をしている人の家へ。家とは言ったけれど、所帯じみた感じではなくてオシャレだし、思想がかなり先進的で、説明が難しい。とってもザックリ言うと、「40世帯で“家族”になれないか」という試みをしている方々(と言ってもまだ言葉が足りない気がする……)だ。新しくてよくわからない考え方がどんどん出てきていて、楽しい。

夕方からは愉快なハッピーボーイとイベント制作会社の方々と打ち合わせ。イベント制作会社の方は前々からお会いしたかった方なのだけど、とても温厚な方で話していて安心した。面白い企画になりそうでうれしいな。肩書とか無視してやりたいことをやっていこう。買っていったスコーンはスコーンなだけにパッサパサで、みんなでのどに詰まらせてお水を飲んだ。みんなでスコーンをのどに詰まらせる体験をしたから、仲良くなれた気がする。

なんとなく早めに家に帰ったのだけど、どうしても飲みに行きたくなって、夜の10時半すぎからいそいそと1人で出かけてバーミヤンにたどり着いた。メンマとおつまみセットとハイボールを頼んだ。深夜、バーミヤン、最高。調子に乗って餃子も頼んだら、会計で1,000円を超えてしまって悲しい気持ちになる。バーミヤンなのに。

酔っ払いすぎたのか、お腹が空いている気がして、コンビニでブリトーとワンカップのminiを買って温めてもらう。風が冷たくて、手元があたたかくて、いいな。

恋人さんはうるさいことを言わないけれど、あんまり食べ過ぎるのは恥ずかしくて、ごちそうさまをしたあと、恋人さんを送り出してから隠れてまたご飯を食べている。「食、細いよね」と言われて「そんなことないよ」と涼しい顔をしているけれど、この日記はどうせ公開されてしまうのでバレてしまうな。2週間後には大食い解禁だ。

2月1日(木)

昨日までで予定を入れきったので、もう木曜から週末。

みいちゃんはすっかり元気になって、くしゃみの一切をしなくなって、また朝4時くらいから元気にみいみい鳴いてエサを要求するようになった。寒いし、眠い。エサをあげて、水を替えて、トイレの掃除をして、膝の上に乗せて、ヒーターの前で撫でていたら満足したみたいで、またベッドの下に戻って行った。わたしも布団に戻っていく。起きたらお昼。

のんびりしていたら、動画撮影のお仕事が入る。しかも1週間を切っている。ガーン。業務委託先の上司に連絡して明日打ち合わせをしにいくことに。

仕事が嫌なわけではないのだけれど、最近はしっかりした自分をやるのがとても苦手になっている。しっかりしようと思えばしっかりできなくもないけど、こういう、ふいにくる連絡には取り乱してしまうな。しっかりしよ。

下北沢をふらふらして、新しくなったB&Bへ。広くなって本も増えたし、わたしは新しいほうが好きだ。調子に乗って本を3冊も買う。『ミルクとはちみつ』と絲山秋子さんの小説と山小屋ごはんの本。絲山秋子さんの小説によく出てくるクズな男がタイプすぎて困るなぁと思いながら、いつも読んでいる。ヒモ気質で、暴力的な男の人。言葉にすると本当にひどい男だな。フィクションの中だけで楽しみたい。

山小屋ごはんの本はお腹が空いたので買ってしまった。「お腹が空いているときにスーパーに行くと余計なものを買ってしまうからご飯を食べてから行きなさい」といつかのテレビで節約の専門家が言っていたけれど、まんまと買ってしまった。

昔からおやつとか料理が描かれている絵本が好きで、よく読んでいた。一番好きだったのは、半熟の目玉焼きが好きな王様が目玉焼きを食べ終わったあと、皿を舐めて黄味を味わうシーン。お行儀が悪くておいしそうで、羨ましかった。家には壁一面に絵本があって、それらはお母さんが用意してくれたものだった。お母さんはののかはいつか有名な作家さんになるんだ、とか言って、わたしが小学生のときに書いた作文とかを未だにとってある。気恥ずかしい思いとか何となく重くて見る気がしなかったけど、今度実家に帰ったら読ませてもらいたいかもしれない。

そんなことを考えていたら、夜にお母さんから電話が来て、実家に挨拶にいくときに食べたいものや、彼の苦手なものはないかと聞かれた。恋人さんに苦手なものを聞いてみたら、「生焼けの牡蠣」と言われたので無視をして「何でも大丈夫」と伝えた。お母さんはいやにテンションが高くて、電話越しだし、お母さんにしっぽはないけど、しっぽがあったらブンブン振りまくっているんだろうなと思った。

娘が家に帰ってくるのが、結婚するのがそんなにうれしいのかなぁと思った。親がうれしいのはうれしいことだけど、あんまりピンとこなくて、ピンとこないまま、山小屋ごはんの本のページをめくった。山小屋で食べるおにぎりとかおでんとかカレーとかが全部おいしそうで、店の情報を見ると「現在は閉店」とか「紹介したメニューはなくなりました」とか書かれていて、「詐欺じゃん!」と言って眠った。

2月2日(金)

朝起きて、気になったツイートを見つけてから考え込む。というか何日か前から考えてはいたのだけど、やっぱり心のハンガーに引っかかったままなので、考える。最近、ある記事がとても読まれていて、その記事自体にはまるっと共感したのだけど、その記事を拡散している人たちのコメントを見ていると具合が悪くなってきた。

過激な記事に疲れたとか、自分をさらけ出す文章が云々とかそういうもので、その過激とか自分をさらけ出す文章とかにわたしが入っていたら嫌だなと思った。

それから、いつも「過激な記事に疲れた」と言い続けている人ならわかるけれど、過激な記事を読んで良いと絶賛していた人たちが「疲れた」とか言っているのは、もうその人の言葉なんて信用ならないなという気持ちになってくる。それこそ、わたしがちょっと疲れているのかもしれない。よく眠っているし食べているし、お仕事、ぜんぜんしてないんだけどな。

お昼に業務委託先のオフィスに行って打ち合わせ。来週水曜日の撮影なのに機材の手配とカメラマンさんの依頼がまだだ。しかも、今日、金曜日。機材とカメラマンさんのOKが出て、香盤表と撮影中の原稿を作る。久しぶりに頭と手をフル稼働したら、外が暗くなっている。ご飯を食べるのもすっかり忘れていた。今までは毎日そんな感じで、丸2日間、お風呂に入らずに打ち合わせを終えたあと、お腹が死ぬほど痛くなって救急車を呼んだことがある。病院に搬送されて血液検査をしたら、看護師さんに「最後に水飲んだの、いつ?」と聞かれた。思い返せば、丸2日間ご飯を食べないどころか、水も飲まずに仕事をしていて、自分ではまったく気が付かなかったのだ。そういう意味でも人と一緒に生活をするのは良い。知らないうちに死の危険にさらされていることがない。ほとんどの人は1人で暮らしても、水を飲むことを忘れたりはしないと思うのだけど。

帰ろうとすると、隣の席の男の子に呼び止められる。彼はわたしの家から徒歩2分のところに住んでいるらしく、近くにあるスーパーの特売日の話とお気に入りのお店の話で盛り上がった。三軒茶屋には月に数えるほどしか開いていない伝説のクレープ屋さんと「ザザ」というおいしいカレー屋さんがあるらしい。わたしは「ほしぐみ」と「スシスミビ」、茶沢通り沿いのおでん屋を教えてあげた。こういう誰も傷つけずに頭を空っぽにして話せる話は楽しいな。

朝方に考え込んだ話で頭がモヤモヤして、親友に電話をしてもつながらなかったので、ぽつりぽつりと恋人さんに話を聞いてもらう。弱くて言い訳みたいなことをこぼすのが嫌で、あまりそういう話をしてこなかったのだけど、聞いてもらって安心した。こういう話をして安心をくれる人なのかはわからなかったから安心したんだと思う。

でもやっぱり親友にも話を聞いてもらいたいなとも思った。彼女はライター駆け出しのころから、辛いことも楽しいこともシェアしてきた戦友だ。もしも同性婚ができたら、恋愛とかでなく、だけど彼女と結婚して家族になっていたと思う。と、この間話したら「やめろ、わたしにはわたしの人生がある」と言われた。フラれてしまった、無念。

明日は撮影の打ち合わせだ。何もないと思っていたから、ちょっと緊張するなと思いながら眠った。

2月3日(土)

朝起きると恋人さんはいなくて、10時半くらいだった。今日は朝7時に家を出るとか言っていた。ちゃぶ台の上にしわくちゃになったティッシュが置いてあって、みみずみたいな文字で「行ってきます!さむいよ!」と書いてある。ティッシュの隣には、カイロが置いてあった。起きられなくてごめんねと思いながら、布団に潜ったら、みいちゃんがお腹空いたと鳴いてくる。朝だ。

みいちゃんにご飯をあげて、水を替えて、トイレを掃除して、ヒーターの前で温めてあげる。みいちゃんを撫でているだけで1日なんて余裕で終わる。猫を撫でて、スーパーに行ってご飯をつくって、食べて、昼寝して、すきなことを書いて、ご飯をつくって、好きな本を読んで、恋人さんとしゃべって寝るような生活をしているだけでずっとやっていけたらいいなぁと思ったけど、ダメ。退屈すぎて死んでしまう。今のなし。

水曜日の撮影の打ち合わせで新宿へ。美容雑誌の動画をつくる仕事で、わたしは一応ディレクターという立場だ。スタジオマン経験のあるお二人、とても頼りになる。

夕方からはお世話になっている女の人と一緒にSMアイドルのライブに。SMってもっとクローズドで神聖な世界なのかと思っていたけれど、ライブ用にポップに仕上がっていて、素人が見てもエンターテイメントとして楽しめた。鼻フックはAVでしか見たことがなくて、痛そうとか怖いとかいうイメージだったけど、鼻フックをつけられた男の人たちはうれしそうだった。ここはパラレルワールド、ドMのユートピアだと思った。

それから、「NYOTAIMORI TOKYO」という女体盛りのショーもとても美しくてよかった。女体にただ肉を盛っていくだけではなく、女性をシカに見立てて、肉を載せる人は豚のお面をしてコックさんの服を着ていて、ストーリー性のあるスペクタークルみたいな感じだった。というかそもそも、女体盛りって、裸の女性を山のように積み上げていく我慢勝負みたいなことだと思っていた。ほんの数時間で世界が広がりすぎる……。すごいぞ、SMとか女体。

その後はそのまま下北沢に移動して、呑みながら近況報告。お姉さんもわたしも数カ月に一度しか会わないのに、激動の生活をしていて、報告することがたくさんありすぎて、すぐに終電の時間に。結婚の話をしたら、おめでとうと言ってくれた。わたしはお姉さんに何でもかんでもを話してきて、勝手に同志のように思っていたので、急に結婚するなどと言って嫌われたりしないかなんか不安だった。信頼関係があるのなら、信頼関係があるのだから、別に結婚したくらいで、というかそもそも結婚することによって2人の間に何も変化なんかないのに、何となくどう振る舞っていいかわからなくなってしまっていた自分が不思議だし、恥ずかしかった。お姉さん相手の話だけでなしに、結婚を報告するというのは、何をどうしていいのかわからなくて混乱する。ましてや、結婚というものについて毎日のように考えてきて発信してきた手前、別に一生結婚しないなんて言っていないし、結婚は悪だとも言ってないけど、何となく誰かに何か言われるんじゃないかという不安がつきまとって最近ずっと具合が悪かった。

とりあえずお姉さんは喜んで受け入れてくれたみたいでよかった。
このモヤモヤ、届を出すまで続くのかな? 届を出しても?

恋愛によるジェットコースターみたいな気持ちの浮き沈みを避けたくて結婚するようなところも理由の1つとしてあるのに、いつまでも気持ちがふわふわしていてはかなわないなと思った。

そのあと、話が盛り上がって、お姉さんが家に来てくれることになった。恋人さんが途中のコンビニまで迎えに来てくれる。こういう、恋人を紹介するみたいな儀式を3年以上もしてこなかったので、(というか3年間恋人がいなかったので)緊張した。

コンビニでいろいろ買って、家に帰り、ちゃぶ台の上に広げてまた飲み会を始める。正直なところ何を話したか覚えていないけど、楽しかったなぁと思いながら寝た。恋人さんは言葉が不器用なので、お姉さんに失礼なことを言ったら嫌だなぁと思って、心配していたら「そのピアスの輝き方、とても不純ですね」と言っていて、びっくりして目の玉が丸くなってぽろんと飛び出てしまいそうだった。お姉さんはとても笑っていて「言葉にニュアンスを含まず、言葉を誠実に捉えている人なんだなと思ったよ」ということを言ってくれてホッとした。

いろいろ話していたら気が付いたら4時半だった。
みいちゃんが起きて鳴き出したので、エサをあげて、寝た。

2月4日(日)

朝起きると、お姉さんがもう支度をして出るところで、寝ぼけたまま玄関まで見送った。お姉さんは仕事がものすごくできる人だしカッコいいけれど、キョロキョロと周りを見渡しながら、ゆらゆら歩いていく後ろ姿がとてもキュートだなと思った。

お姉さんを見送って、ご飯支度をして、食べるころにはもうお昼。今日は何もないから原稿をしなければいけないのだけど、筆がぜんぜんに進まない。今日は「アパートメント」で連載が始まる日、すなわちプロポーズしたことが知れ渡る日だ。

わたしはプロポーズしてからの自分の心のゆらぎがとても面白いと思って、日記形式で連載することを自分から提案したし、プロポーズ自体もそれほど深く深く考え込んで作戦を立ててしたものでもなかったので連載をすること自体も何とも思っていなかったのだけど、何だか急に不安になってきた。何で何がこんなに不安なのかがわからない。とっても不安で、不安すぎて、みいちゃんみたいに1日じゅうぼーっと過ごしていたら、17時くらいになり、公開される19時までずーっとパソコンの前に張り付いた。

だんだん呼吸が浅くなってきて、めまいがしてくる心地がして、胃が痛くなってきた。公開してツイートの数字が伸びていくのを見つめながら、「お腹が痛い!めまいもする!おいしいものを食べに行きたい!」と叫んだら、恋人さんが「あ、やっぱり? 僕もそう思ってた」と言って、前から行きたいと言っていた近所のおでん屋さんに行くことにした。

わたしのお腹が痛いならお腹にやさしいものを、ということでおでん屋さんに行ったのだけど、着くころには数字が伸びていて、しかもよい感じのコメントとかメッセージがちらほら届いていたので、わたしは安心してレモンサワーを頼み、恋人さんが一口しか飲まなかった梅酢サワーもぜんぶ飲んでしまった。わたしは内臓まで単純で正直者らしい。

頼んだおでん盛りは豪華で、大好きなちくわぶのほかに、牛のアキレスという、ぷるんぷるんの食べ物も入っていた。ちくわぶは北海道にはない食べ物で、大学生のときに初めて見て「小麦粉の塊だ…こわい…」と思ったけれど、食べてみると意外とつるんとしていて、それからというもの、自分へのちょっとしたご褒美として食べる食べものの1つになっている。

恋人さんは西の人なので、西にはちくわぶはあるのかと聞いたら、すぐにググり始めて「ちくわぶは東京の食べ物らしい」と教えてくれて、忘れてしまったけれど、そのルーツまで教えてくれた。恋人さんは気になったことをすぐに調べて原理やルーツまで知らないと気が済まない性格で、知識に偏りはあるものの、とても物知りだ。わたしは案外に自分で調べるということをしないので、恋人さんから話を聞けて新しいことを知れるので助かっている。でも最近は、恋人さん含め、誰と話していても話が頭に入ってこなくて、けっこう困る。たぶん気を抜くと頭の中に住んでしまっている感覚で、けっこう呼ばれないと外側に出てこられない。どんどん社会と離れていく、お金を稼がないといけないのに困ったなぁ。

そんな感じでわたしと恋人さんはほとんど会話することなく(恋人さんは話しかけてくれるのだけど、わたしが途中で自分の頭の中のことに夢中になって話を聞かなくなるので会話が続かない)、おでん屋さんを出た。梅酢サワーをひとくちしか飲んでいないのに、恋人さんは上機嫌になって、帰り道に近くのスーパーで、シュークリームとお刺身のようなものを買ってくれた。シュークリームは生クリームがモリモリのやつで、2つで500円。夜遅かったから2割引きで400円になった。刺し盛りは1,000円のやつが半額になっていて、とても惹かれたけれど、贅沢のしすぎはよくないということで、300円のサーモン刺しとサバが半額になったやつを買った。

家に帰ってまた宴会をした。酔っ払ってはいたけれど連載の反応が気になってしまったし、明日は久しぶりの取材だなと思うと緊張してしまうので、お酒をたくさん飲んで、楽しくなってゲラゲラ笑いながら眠った。

佐々木ののか

佐々木ののか

書くことが生業。実体験をベースにした物語みたいなエッセイやインタビューを書きます。メインテーマは、家族と性愛。

Reviewed by
トナカイ

佐々木ののかさんの連載、3回目です。恋人さん、猫さん、佐々木さんの生活が続いていく様子を、僕はすでに死んでしまったひとのように安らかな気持ちで見守っています。だいじょうぶだよ、佐々木さん。気になることはたくさんあるかもしれないけれど、いろんなことが佐々木さんをつくっていって、だんだんいい具合になっていくよ、と思います。何だその神様的な態度は!と自分にツッコミをいれてみたりもしますが、誰かの日記を読むという行為は、まるで信者の告解を聞く神父のように、許しの気持ちを湧き上がらせるものなのかもしれません。佐々木さんの日記は飾らなくて素直で、好きです。

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