モテたい。
これは動物の普遍的な願いではないだろうか。
「モテたいか……ならば力をやろう」と言われて断る人は十中八九いない。
モテに至る道程はさまざまで、学歴、ボディメイク、ファッション、整形—人類はモテるために自らの能力を最大限引き出す努力をし続けてきた。
カラコン、エクステ、マツエク、ブランド品、盛りブラ、ガードル、それが抜本的対策でなくとも—プラスオンで何とかなるなら安いもの—と虚飾ドレスアップを謳歌し駆け抜けた20代であった。主にモテの対象は異性の他ならない。
齢30を過ぎると、対象が変わってくる。自分自身にモテたい。もっと自由にさらに明け透けに、私の私による私のための行き方に合った装いを求めるようになった。異性の目や流行から解放され、ただただ自分の好きな物を選ぶことに思考がスイッチされ、自分自身を喜ばすことが生きがいになる。
今はまるで10代の頃に戻ったかのような面持ちである。
四国の端っこに生まれ育った10代の私はヴィダルサスーンの広告に脳を痺れさせ、美容師に2度止められながら前髪パッツン&後ろ刈り上げを自らに施し、折しも流行中のモッズスタイルを身に纏い恍惚と夢の中にいた。そしてその夢は誠に遺憾ながら高校3年間冷めることなく幸せに過ごし、家族親戚を心配させた。(結構いい年になった時、皆からそう伝えられて泣いた)
「幸せそうって見られたい」と哀愁漂うコピーを横目に、どう見られようが圧倒的幸福感に満たされる事実の方が大事やんなとしみじみ思う。たとえそれが別段幸せそうでなくても。
心も体も自由になった今、やりたいことは山ほど生まれている。
人生は折り返し地点を少し過ぎた。
これまでの人生で好きだったもの、やりたかったことを思い出し、今一度引き寄せて一つひとつ触れてみたい。
その中の1つは、狛犬を描く作家となった私の作品でVOGUEの仕事をすることである。
空と海と緑のど真ん中で大事に大事に抱きしめていた憧れの塊。あの日から踏み出した一歩が今につながっている。いつかその夢が叶ったら、10代の私への餞としたい。