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2F/当番ノート

かれらの肖像 #6_先生との思い出

当番ノート 第54期

ずっと伝えそびれていたことをここから君に宛てる。


先生は大人になってからできた初めての男友達だ。

私たちはまったく違うタイプの人間で、共通点は同い年であることと音楽が好きなことぐらいしかなかった。
でも何故か一緒にいて面白く、気楽で、なんかよくわからんがウマが合う奴ってこういう友達のことなんだろうなと思っていた。

県庁の展望台、パンケーキの美味しい喫茶店、いちご狩り、ライブハウス、遊園地……。
当時の私は家に引きこもりがちで「放っておくと外に出ないじゃん」と言って先生は毎週のように車でどこかに遊びに連れて行ってくれた。

外の世界には本当にいろいろなところがあって、いろいろな人がいて、それらはそんなに怖いことではないということ。

そういった様々なことを、私はあのときの先生のおかげで知れたと思っている。

そういえばいつだったか「おすすめの音楽を教えろ」と先生にウォークマンを預けたら、容量いっぱいに音楽をつめこまれて返ってきたことがあった。
ほとんどが邦ロックで、私の趣味を考慮して選んでくれたのだろうということがわかった。

その時は面と向かって感謝の意を伝えるのが気恥ずかしく、私は「こんなに沢山いらないんだけど」と笑いながら悪態をつくことしかできなかった。

そのうちのいくつかの音楽はお気に入りとして今でもよく聴いている。


君はそんなつもりではなかったかもしれない。でも君のおかげで変わったことや分かったことがいっぱいある。

沢山の格好いい音楽。
友達を大切にすること。
外の世界には美しく眩しい光があふれていること。
そして、私みたいな人間でも幸せになっていいのだということ。

だから、うん……。
いや……やっぱりなんか恥ずかしいな……。
まあでも言うか。

これを見てるかはわからないけれど、先生、今までいろいろありがとう。

望月 柚花

望月 柚花

1993年生まれのライター兼フォトグラファー。群馬県出身・横浜市在住。
本と音楽と写真と甘いものが大好き。毎日元気に生きています。

Reviewed by
ほたるいか

先生をかげろうのように切なく感じてしまうのは、あまりにも眩しい写真の影響だろうか。男友達であり、先生でもあるというのは、心地の良い関係性の矛盾だ。「師と仰ぐ」なんて表現もあるくらいだから、尊敬の意があることは間違いない。ウォークマンを音楽でぱんぱんにしてしまうお茶目な先生は、幸せに臆病だったあの頃の、彼女の心の先生。出会いのきっかけや、由来が気になってしまうが、野暮なことを聞くのはやめておこう。

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