当番ノート 第9期
夏、夏、夏日。昼下がりの太い気温。指にたとえたら、ごっつい親指の腹みたいな。職人さんとか、親方とか、そういう人の強い指。 私の指はきれいに動く。仰向けで、板の間の床に背中の全部をつけて、指先まで反らせてみた。 天井には海岸線のようなシミがある。海面が上昇したように、去年よりも範囲を広げているような気がする。 扇風機が顔を振り、電灯から下がっている紐についた天体が、ちいさな楕円軌道を描いてい…
当番ノート 第9期
与えられなくても、与えることは出来るんだって。 やさしくされなくても、やさしくすることは出来るんだって。 接しなくても、見守ることは出来るんだって。 泣くことは、悪いことじゃないんだって。 簡単なことほど難しいし、難しいことほど簡単なんだって。 いつかの冬に、言われたんだ。 「結局良知くんはさ、愛したいし愛されたいんだよ。」って。 言われた途端、涙が出たんだ。 今はもう、夏だけどね。
当番ノート 第9期
. . . . あの物語は、つづく。 . . . .
当番ノート 第9期
かれこれ5年近く、わたしは毎週靴教室に通っている。 もともとは友達が通っていて、いろんな作ったものを見せてもらったり話を聞いていたらすごく興味が湧いてきて、 紹介してもらい、わたしも彼女とは別の曜日のクラスに通うようになった。 「靴教室に通っています」というと、よく「靴職人を目指しているんですか?」と聞かれるけれど、そういうのではなくて、 そもそも「靴教室」というのに語弊があるかもしれない。 わた…
当番ノート 第9期
突然不可解な音に目が覚め起き上がった。 部屋は明るい。けれど外はまだ暗いみたいだ。 どうやら机の上のケータイが鳴っていたらしい。 光っているケータイを見る。 「メール1件」 しかしなぜだかメールを開くことができない。 なんでだろう。どうやらバグってしまったようだ。 ふと気になり 部屋の時計を確認する。 「午前4時04分」 まだ3時間しか寝ていないらしい。 ついさっきまで寝ていたというのに 頭が覚醒…
当番ノート 第9期
人はみんな一冊ずつ、辞書を持っている。 それぞれがかたときも離さずずっと持ち歩くそれ、 自分以外のだれかに伝えたいことが浮かんでくると、私たちはそのページをめくる。 知っていますか? 心の中にある気持ちやイメージは、すべてが言葉にできるわけじゃない。 言葉はひとつのカタチだ。実は万能じゃないもの。 みんなが何かを共有するために、今一番広く知れ渡っているひとつのカタチ。 だから私たちはなにか人に伝え…
当番ノート 第9期
何の前触れもなく僕らの街を襲った大地震。 彼女の住むあたりはかなり震源地に近かったと思う。はたして無事なのだろうか? 僕は一縷の希望を抱いていつもより早く学校へむかった。 登校している生徒はまばらだった。それもそのはずた。 こんな日に登校すべきなのかどうか誰もわからない。 それくらいのショックと不安があったし、もちろん被災した生徒もいたと思う。 そもそも学校自体がまだどうすべきかという体制を整えら…
当番ノート 第9期
いらっしゃい。の声に、「ビールと揚げ餃子、冷奴とポテサラに、あとでししゃも」と伝えてからこっち、俺はカウンターでずっと発声はない。 やっこの角に箸を入れてすぐ、無言で二杯目が出された。点けっぱなしの小さなテレビの中で二塁打を放ち、幸先良く出塁した選手が上気した顔で歓声を浴びているとき、揚げ餃子が置かれた。 大げさにリードしては塁に戻り、揺さぶりをかけていたランナーは、結局長いあいだ滞在した塁…
当番ノート 第9期
先日、蕾みをつけたまま落ちている花を見た。 今日はひどく晴れた。 ゆっくりと自然に形を成して、あるがまま形を変えていく雲をみて 気づくと僕は口を開けながらそれをたどって。 光が射す時もあれば、影にかかる時もあって。 すごく気持ち良かったんだけど、 気づいたら何もなくなっていたよ。 2013年、今年も無事に夏がやってきた。
当番ノート 第9期
「ん、」 「久しぶりのお客さんだな。きみはぼくがこわくないのか。」 「いつも笑ってるんだな。ぼくの傘を貸すよ。」 「めずらしいからつつかれるんだ。ぼくとおんなじだ。」 「きみはちっともにげないんだね。行くところがないのかい。」 「ずっとずっとがまんしてきたんだろう。本当はどこかに行きたいのに。でもみんなをこわがらせちゃうもんな。」 「おんなじだ。」 「すごいな、きみは飛べるのか。」 「だいじょうぶ…
当番ノート 第9期
わたしが今暮らしている家は東京にある。 故郷は九州の大分県にある。 しかし「実家」と聞かれたときに、今のわたしは少し悩んでしまう。 4歳くらいまでは父方の祖父母の家に暮らしていた。 長男である父と結婚した母は、だんだんと祖父母、そしてとても気の強かった曾祖母との同居に耐えきれなくなって、わたしたち家族は隣町へと引っ越した。 そして、わたしが上京する数週間前にずっと5人で住んでいた家から引越しをした…
当番ノート 第9期
夜空に浮かぶ 月を見上げる ふと 不自然さに 気が付いた 2つあるのだ。 というのは 村上春樹の 「1Q84」だけど たまに 頭上にある 大きな物体が はるかかなたで 浮かんでいるのだ と思うことに不自然さを感じる 空に浮かぶ それを見ると 自分の小ささを感じてしまう。 地球の衛星 どっち付かずのそれは 離れることも近づくことも 出来ないで ある一定の距離を保ったまま ぐるぐるぐるぐ…